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政治家と「はしご酒」
多い時は週13回――。
自由民主党の山下雄平参院議員(36)の「飲み会」の数だ。政治家同士、官僚、地元から上京してきた業界団体や支持者。ビールや焼酎のグラスを傾けながら毎晩交流している。1日に何件かの飲み会を入れる「はしご酒」も日常茶飯事だ。昼間の国会では聞けない重要な情報を耳にすることもある。
「営業マンと一緒です。自分にとっては週何回ある飲み会でも、参加する人にとっては『初めて政治家に会う』という人もいる。出来るだけ参加したい」と話す。
子供との時間も大切にしている。1つ目の飲み会と2つ目の飲み会の合間に家に帰り、お風呂に入れて夜の街に戻る日もある。
飲み会で得られる「信頼」
政治家として取り組みたいのは地方分権や経済政策。お酒を飲んで辛い日はトイレで吐き、睡眠時間を削って政策の勉強をする。
政治家は時には、「不人気の政策」も選ばないといけない。例えば「税金を減らす」という政策と、「国がお金を使って、日本の教育を良くする」という政策。どちらも「いいこと」に見えるが、同時に実行するのは難しいケースがある。国が必要なところにお金を使うためには、税金を上げて国に入るお金を増やさないといけないこともあるからだ。
正しいと信じたら、有権者に反対されても「増税」を選ぶ覚悟を持つのが政治家だ。「一時的に痛みが生じても、あなたを信頼するから支持する」と有権者に思ってもらう必要がある。一緒にお酒を飲んで、深く語り合っていれば、そうした信頼や納得感が生まれやすい。
「酒が万能というより、深く交流する手段の一つ。ゴルフやジョギングなど趣味を通じながら仲良くなる人もいる。私たちの世代より上はお酒を通じてコミュニケーションを図るのが主流だし、行けば勉強になることも多いです」。
飲み会に頼るのは「怖いから」
「政治家が飲み会に頼るのは、単に怖がっているからです」。山下議員の姿勢に真っ向から反対するのは、同じく自民党の二之湯武史参院議員(39)だ。
「支援者からそっぽを向かれるという恐怖心から、意味のない飲み会に顔を出す。普段の昼間の仕事に、よっぽど自信がないのではないでしょうか」。政策論議を重ねているというより、馴れ合いになったり、愚痴の言い合いになったりする飲み会に問題意識を持つ。
もちろん二之湯議員も、大きな仕事の節目や、政策の意見交換会など必要な酒席には顔を出す。だが普段はできるだけ自宅に帰って妻や子供と過ごすようにしている。「昼間きちんと仕事をしているという自負がある。勇気ある行動というより、普通のことです」。
こうした姿勢は、「夜の政治」がはびこる永田町では珍しい。その分、「ストレスが少なく、心身ともに健康」だそうだ。自宅で英気を養った分、昼間はできるだけ多くの人に会い、勉強を重ねるという。酔っ払ったまま話し合うより、きちんと昼間に語り合って議論をするスタイルだ。
政治家は「個」が大切
例えば二之湯議員が関心のある高等教育政策。大学や大学院を始めとした教育関係者、学生を受け入れる立場の企業関係者など、政治の世界だけでは会えない人と交流し、政策に生かして有権者の支持を得ようという姿勢だ。「同じような人とばかり会っていたら、社会に対する見方がアップデートされない」。
小泉純一郎元首相の郵政選挙や民主党の政権交代。経済界でも新しいベンチャー企業がどんどん出てきて、業界のルールが塗り替えられる。「権力の所在や社会の仕組みが一気に変わるような時代。お酒の力に頼って仲間内だけで絆を固めても意味がなくなってきている。政治家は『個』として立つのが何より大事だと思います」(二之湯議員)。
飲み会以外のツール
市民とじっくり話すことは政治家の大事な仕事だ。もちろんお酒を一緒に飲むことによって緊張感がほぐれるメリットもある。今を生きる人たちの心情を知ってこそ、血の通った政策も実行できる。だが、「自分に会いに来ない政治家は失礼だ、と地元の有権者に言われて半ば強制的に飲み会を回らないといけない現状もある」(ある国会議員秘書)という面もありそうだ。
育児や介護をする必要がある世代にとって、夜の街は行きにくい。今の政治家はブログやFacebook、Twitterをやっている人も少なくない。イベントに出ることも増えたように感じる。働くお母さんやお父さんとのお茶会、商店街との会合に顔を出す政治家もいる。
7月に予定されている参院選で、投票にいける年齢が日本で初めて18歳に下がるので、お酒が飲めない人たちも政治家を選ベる時代になった。政治家と国民が交流する場の「種類」や「ツール」はもっとあってもいいのではないか。
政治家が、自宅に帰って家族と交流すれば、夜は勉強や海外の人とSkypeミーティングなどにあてれば、政治や社会に対して違った見方も出てくる。日本の政治も違った発展をするかもしれない。