小池百合子・東京都知事の「都民ファーストの会」が都議会選挙で圧勝した。公認の候補者50人のうち49人が勝利して、東京都の議会でもっともパワフルな政党になった。
都民ファーストが圧勝したのは、「自民党が嫌い」という人が増えたからだ。選挙前、自民党はスキャンダルまみれだった。
■自民批判でスッキリするだけで良いのか
安倍晋三首相は批判に弱いのか、いつもイライラしていた。都議選最終日のアキバの駅前の演説。やって来た首相に対して、一部の聴衆から「辞めろ」「帰れ」コールがあったが、ジョークのひとつで切り返すことも出来ず、「こんな人たちには負けるわけにはいかない」と語った。
批判を聞く余裕もなく、いつもテンパってしまう。頼れるリーダーという感じがしない。東京都の有権者である私も、残念ながら自民党に投票する気はなくなった。
だが、こんなことも思う。
「政権のおごりへの審判だ」(朝日新聞)「おごりの代償と自覚せよ」(毎日新聞)と、自民党の批判をして「スッキリ」するだけで果たして良いのだろうか。都民ファーストは信用できる政党なのだろうか。
■都民ファーストってどんな政党?
東京都議会議員選挙で大勝し、当選確実の花が付いた候補者名ボードの前で笑顔を見せる地域政党「都民ファーストの会」代表の小池百合子知事(右)と野田数幹事長=2日夜、東京都新宿区の同党開票センター
都民ファースト公認だった50人を見ていくと、新人候補や政治経験がなかった人が並ぶ。当選したある候補者に話を聞くと、「細かい政策より、とにかく『古い東京を変えよう』と訴えれば良かった。小池氏の人気と自民批判の風にみんなが乗った」と明かす。
朝日新聞が6月24、25日におこなった都民への世論調査では、都民ファーストを率いてきた小池氏の支持は59%。理由として「改革の姿勢や手法」が支持層の44%をしめたが、「政策」への支持はわずか4%だった。
都議選の投開票から一夜明けた7月3日、小池氏が都民ファーストの会の代表を辞任して、特別秘書の野田数氏が代表になることが決まった。
野田氏はもともと2009年、今回は、ある意味ライバルであったはずの「自民党」の公認で都議に初当選した。地域政党「東京維新の会」を2012年に設立。朝日新聞デジタルによると、その後の都議会では「日本国憲法は無効で大日本帝国憲法が現存する」との請願に賛成した。
「日本国憲法は占領憲法で国民主権という傲慢な思想を直ちに放棄すべきだ」と主張する内容という。どこかソフトなイメージの小池氏や、「都民ファースト」が好むさわやかなグリーンとは、異なる印象を与える代表だ。
一方、小池氏自身も、もともとは自民党議員として活躍し、党内には親しい議員もいる。賛否が分かれる築地市場問題では、一度立ち止まって、案を組み合わせてより高い次元の回答を出すとも取れる「アウフヘーベン」という難しい言葉を使っていたが、単なる「玉虫色」の結論が好きな政治家にしかみえない。
■「新しい政治」ブームに流されやすい?
1993年の東京都議選では、日本新党が躍進した。日本新党の細川護熙代表(中央)とともに、今は東京都知事の小池百合子選対本部長(右)が喜びの表情を見せている=1993年06月27日、時事通信社
東京都民は、よく言えば「新しい政治を求める」人たちが住んでいる地域。悪く言えば「ブームに流されやすい」性質があるのかもしれない。
古くは1965年に都議会議長選挙に絡む汚職などが起きた「黒い霧」による都議選。社会党や公明党が躍進して、美濃部革新都政を生むきっかけとなった。その後もリクルート事件や日本新党の人気など、大きなニュースが都議選の空気を支配してきた。
今回の都民ファーストの圧勝は、スキャンダルやブームに左右される「風頼み」の選挙だったのだろうか。もちろん当選者の実際の政治活動を見てから判断するのがフェアであろう。また、政治経験が少ない議員がいることは心配が募る一方で、「しがらみのない政治」をおこなえる可能性が高いのも確かだ。
■お任せ民主主義
社会学者の宮台真司氏は、民進党参議院議員の福山哲郎氏との共著「民主主義が一度もなかった国・日本」(幻冬舎新書)で、政治をバスにたとえた。バスの「運転手」は統治権力/政治家、乗っているお客さんは国民だ。「お客さん」の役割は大事だ。ボーッと座っているのではなく、「運転手」に目的地を告げて、道を間違えないようずっと監視していないといけない。
ところが日本人はこれまで、「運転手」に任せっぱなしだった。ルートも運転の仕方も、「お客さん」自身も考えないといけないのに、選挙でえらんだ「運転手」に委ねていた。みんなの目標が「経済成長」だったので、深く考えないでバスに乗っていれば目的地に行ける気がした。
だが、今の時代は、ゴールは「経済成長」だけではない。複雑な問題も出てきたし、「お客さん」同士も価値観がバラバラになってきた。「運転手」に任せているだけではバスは変な方向に行ってしまう。あるいはバスの運転手が嫌いになったら「変えろ!」とスッキリするだけだと何も始まらない。民主主義は「お任せ」できるほど、安泰でもない。
■Google先生に聞いてみる.
私たちは、「お任せ民主主義」からどうやって抜け出せるのか。
たとえば自分たちが投票して議会に送り込んだ政治家は、選挙後もTwitterやFacebookを更新しているのだろうか。ウェブサイトの作りがだんだんと適当になっていないだろうか。あるいはちゃんと政治活動をしているかのか、今は、ネット上で議会の動画や議事録などで調べることは出来る。
■前回の都議選で落選した金村さんの話
施設の子供からもらった「バースデーカード」を披露する金村龍那さん
最後にこんなエピソードを紹介したい。
2013年の東京都議会選挙に大田区選挙区から民主党(当時)から立候補した金村龍那さん(38)という人がいる。選挙では5370票をとったが、落選した。ちなみに当時トップ当選したのは、晩婚化対策を質問した女性議員に「早く結婚した方がいい」とひどいヤジを飛ばした鈴木章浩氏だ。
金村さんは高校卒業後、とび職やクラブのボーイなどを務めたあと、政治家の秘書を12年間経験した。社会の課題をビジネスの力で解決する「ソーシャルビジネス」の拠点となるような東京都づくりを目指し、選挙に出た。
政治家になる夢はかなわなかったが、「社会を変えたい」という思いは強く、投開票が終わって後片付けをする間もなく、未就学児を中心とした発達障害児の支援のための施設(現・発達療育専門センター「みなそら園」)を設立した。選挙事務所をそのまま園の施設に使った。その後結婚もし、子供が2人生まれた。金村さんは「地域や社会の課題を解決するためには、お金をきちんと回せる仕組みづくりがこれからは大切になる」と話す。
金村さんの落選後の活動は、Google検索をすれば知ることが出来る。ブログも公開しており、発達障害児が生きていくうえで「人生の選択肢」を増やせるよう、保護者を含めた支援を行っている。彼に投票した人、あるいは大田区の有権者はこういった活動を知ることができる。
ちなみに今回の都議選で、大田区選挙区は都民ファーストの候補者が上位を占め、前述した「セクハラヤジ」の鈴木氏も21207票で当選している。
■私たちは何を見ているのか
私たちは何を見ているのだろう。候補者のどこを評価しているのだろうか。有権者としてきちんとした行動を取っているのだろうか。
地方自治では、知事と議員が別の選挙で選ばれる「二元代表制」というシステムをとっている。知事と議員が緊張感を持ってチェックし合う必要があるが、小池知事の人気に頼って当選した面がある、都民ファーストの都議たちは大丈夫だろうか。メディアも、私たち東京都民も、「バスのお客さん」である責任は重い。