「『炭水化物が毎食7割超え』は注意 死亡リスク上昇」という一昨日配信のネット記事、シンプルなだけになかなかのインパクトですよね。でも、どうも‟ざっくり"し過ぎてます。「炭水化物」って、食物繊維も入っちゃってるのかな...? 気になったので調べてみました。
堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員
まず、先日も書いたように炭水化物には食物繊維も含まれるので、本来はまずきっちり「糖質」と「食物繊維」とを特別することが大事です。が、記事を確認してみると...
炭水化物については、最低群(総エネルギーに占める炭水化物の割合の中央値が46.4%)と比較した最高群(同77.2%)の総死亡のリスクは28%高く、摂取量が多いほど死亡リスクは高い傾向が見られました。最高群では、循環器疾患以外による死亡のリスクも36%高くなっていました。
摂取量の増加とリスク上昇の関係を調べたところ、総死亡のリスクは、総エネルギー量に占める炭水化物由来のエネルギーが60%を超えたあたりで上昇傾向を示しました。おおよそ70%を超えると、リスク上昇は統計学的に意味のあるレベルになり、それ以降も上昇は続くことを示す結果が得られました。70%を超えると、主要な循環器疾患のリスクも急上昇していました。
とのこと。うーん、やっぱりざっくりしてますね。ついでに、脂肪に関しても、基本的には「総摂取量」で検討されていて、一部のみ、
飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取はいずれも、少ない人より多い人のほうが、総死亡リスクと、循環器疾患以外による死亡のリスクは低いことが示唆されました。
と、大まかには分類してあります。ただ、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸では性質も体の中での動きもだいぶ違いますし、不飽和脂肪酸は魚油に多いオメガ3系の健康効果とは対照的に、いわゆるサラダ油に多いオメガ6系は、過剰摂取が様々な健康問題を引き起こすことが分かってきています。(詳しくはこちら)また、何かと問題の多いトランス脂肪酸も考慮されていません。
一応、記事の情報から、元になっている論文をたどってみました。なんと、かの有名な(=世界で最もよく知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つである)「ランセット」誌です。
summaryを読んだだけですが、「炭水化物」も「脂質」も、やはり記事以上に細かい分析がなされいるようには見えません。そこでさらに調べてみると、ハーバード大学公衆衛生大学院が、この論文に疑問を呈していたのです。「PURE研究は見出しを飾ったが、結論は誤解を招く」と題し、次のような指摘をしています。
- 「総炭水化物」という括りはざっくりし過ぎている。野菜や果物、豆類、全粒穀物などに含まれる、健康によいとされる炭水化物が別途検討されていない。
- 低所得地域はほぼ高炭水化物食で、同時に高塩分、低野菜・低タンパクでもあるため、低所得・低栄養の問題と切り離して考えるのは困難。
- トランス脂肪酸や、飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸への置き換えなどは考慮されておらず、検討や分析が不充分。
- 中国の調査結果など、調査ごとに数字のバラつきが大きすぎて信頼できない。質問票などは既に統一してあるので、調整しようにも問題が込み入り過ぎている。
うーん、やっぱり...。研究の組み立ても、結果の分析も、なかなか難しいですね。物事にはいろいろな面があって、色々な尺度があり得ます。さらに、受け取った情報が2次情報、3次情報だった場合、元の情報のすべてが完全に再現されているとは限りませんし、元の情報にたどり着けなかったり、たどり着いても読み解くことが困難な場合もあります。
ある1つの情報だけを鵜呑みにしないためにも、周辺部分も含めた知識を広く持っておくことが大事だと改めて思いました。
(2017年11月8日「ロバスト・ヘルス」より転載)
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