文科省の国立大学改革とその実効性

『産経新聞』が掲載していた「文科省が国立大改革プラン 世界ランクアップへ教員年俸制導入も」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。

『産経新聞』が掲載していた「文科省が国立大改革プラン 世界ランクアップへ教員年俸制導入も」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。

1 記事の紹介

 「文部科学省は26日、国立大学法人の改革プランを発表し、各大学の強みや特色を生かすよう、運営費交付金を傾斜配分して自主改革を促す方針を明らかにした」という記事です。

 「具体的には、(1)各大学の強みや特色を年内にまとめて公表し、その強みを伸ばすような取り組みに交付金を傾斜配分する(2)国立大学時代と変わらない大学教員の給与システムを見直し、能力や成果を反映した年俸制の導入を促進する(3)教授会の影響力が強い大学運営のあり方を改め、学長がよりリーダーシップを発揮できるようにする-などの目標を掲げている」そうです。

 「文科省によると、国立大学の法人化以降、産学連携の共同研究が倍増するなど一定の成果がみられるものの、国際評価はまだまだ低いのが現状」で、「文科省では『各大学の自主的な改革により、国際評価を一層高めたい』としている」と結んでいます。

2 大学の人事改革

 これはある意味以前から言われてきていることで、教員に対する評価及び評価に伴う給与の見直しなどが言われてきておりますが、一向に進んできておりません。

 代わりに人件費の削減として大学が導入しているのが、非正規の非常勤講師で、一コマいくらで雇えるため、本当に必要な分だけ雇えばよく、大学側に大変都合のよい制度となっております。

 その反面、雇われる方は低賃金に苦しむこととなり、また、非常勤なので、期間が満了した場合、更新されるかどうかわからないという不安を抱え込まなくてはなりません(非常勤と「在日」と同一性の強要)。

 実際問題、大学の中でも正直、能力的にどうかと思う人がいないわけではありません。しかし、いったん常勤として雇われると身分保障がつくわけで、非常勤の人にしてみれば、彼(女)らの椅子が開かない限り、そこに滑り込めないわけです。

 結果、1つの椅子をめぐって大勢の方が応募するということとになります。そのため、生活をどうするかということを考えながら、研究をしていかなくてはならないという話で、必要な本の購入をどうするかを迷うということも珍しくなくなります。

3 評価

 では、どうしたら良いかとなるわけで、理想論としては、ガラガラポンで、一律に「学者」と言われる方々を横一列に並べて、能力を判定して、上から雇っていけば良いという話になるのでしょうが、現実的には不可能です。

 既に正規職員として雇われている方々の生活もあり、もし彼らを今更全部解雇するとなったらものすごい反対が起こることは想像に難くありません。それを既得権益を有する方の反対と批判的に見ることもできないわけではありませんが、実際自分がその立場だったらとても納得できないのも理解できます(田中文科相による大学の不認可と大学教員の雇用について)。

 それに能力の判定と一言で書いてしまっていますが、それほど簡単な話ではありません。誰がどう判断するかという問題もありますし、特定の分野となると判断できる人の数が少なく慣れ合いとなってしまう可能性が高いなど様々な問題があります。

 そういう意味でも、私は「客観的な評価」などというものができるとは初めから考えていません(生徒が教師の評価をすることは可能か)。それに、日本で成果主義がうまく機能しなかったことを見てもかなり懐疑的です。

 また、こうした評価による賃金体系は、人件費を抑えたい大学にしてみれば、容易に下にふれることが多く、一部の方だけの賃金が上昇し、大多数の方は賃金が減少するという結果になることが多いことに触れ、この問題の言及を終わりとします。

4 大学の経営

 教授会の影響力を減らし、学長の権限を強めるという話ですが、これもわからなくはありません。教授会での決となると、船頭が多すぎかつ個性の強い方が多いので、船はどこに行ってしまうかわからないことが多いのが現実です。

 それに、自分の専門だけをやってきた方がどこまで大学の経営を認識しているかという問題もあります。これは2つの意味で述べており、1つ目は大学の管理者として経営を行っていく能力があるかという話です。

 つまり、財務指標が読めるか、学生の応募を増やすためにはどうしたら良いかなどのマーケティングができるのかということです。

 2つ目は、どうしても自分の専門分野に関心が強いため、下手をすると自分の研究のことだけを考え、大学全体のことなど全く考えていないという方もいるかもしれないという話です。

5 最後に

 そういう意味で、今回文科省が出してきた方向性というのは、間違っているとは思いませんが、総論としての方向性は正しくても、具体的に個々に行う段階になると、いろいろ反対が出て来て、結果骨抜きになるということは多くあります。

 特に教授会については大学の自治という問題や、各大学における教授会の権限の強さは様々なので、とても一筋縄で行く問題とは思えません。

(※この記事は、2013年11月27日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました)

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