リモートワークを広めるコミュニティ「リモートワークジャーニー」を立ち上げ、何度も登壇しているリモートワーカーの中山亜子さんは、北海道在住のシングルマザー。自分自身の働き方を実際に見てもらうことで、多様な働きかたを実現する人を増やしたいと活動しています。お話をうかがいました。
中山亜子(Nakayama Ako)
ラフノート株式会社 デザイナー
ITバブルの時代、VBプログラマーとして業務系システムを担当。その後、結婚出産を機に現場から離れるが、小さな出版社で編集のアルバイトや夫の会社を手伝うためあらゆる事を担当。営業から総務、紙もののデザインまで。その後、シングルとなり現場に復帰、子供と3人で暮らしている。フロントエンジニアとして経験を積む中、デザインの担当となりwebシステムの画面デザインを担当する。
「子どもの側にいたい」とはじめたリモートワーク
-リモートワークを始めたきっかけはお子さんだとうかがいましたが?
中山さん(以下敬称略):うちはシングルマザーで母一人、子二人。私が働かなければ生活できませんが、前職はフルタイムで、残業もありました。
シングルマザーだから私がいない間に子どもが外に遊びに行こうとしたら、止める人がいないんです。子どもが難しい時期に自分はちゃんと向き合えない、残業ありきで働くことに疑問と限界を感じていました。家で「お帰り」と迎えてあげるためにはどうしたらいいか。リモートワークできる会社を探そうとWantedlyに登録しました。
やがて現在ジョインしているラフノート株式会社が声をかけてくれました。まずはお試しで前の会社に勤めながら仕事をさせてもらい、それから採用。本社は東京ですが、札幌でリモートワークしています。
-それまで残業で家を空けがちだったママが自宅にいるとなると、お子さん喜んだでしょうね。
中山:当初はすごく喜んでいましたね。恵まれていると思っています。
でもいまは小4と小6で、難しい年頃になってきました。兄のほうが反抗期が激しくて、言えば言うだけ反発するという時期もありました。長女の新体操レッスン付き添いに時間がとられるおかげで長男とはほどよい距離が保てています。もう6年生なので信頼して、求められたら話を聞いてあげられるように準備したいと思っています。
-ぶつかり合うことも時には大切ですよね。ふだんは基本的にご自宅でお仕事をされているんですか?
中山:自宅と出先と半々くらいですね。
長女がオリンピックを目指すつもりで本格的に新体操に取り組んでいて、そのレッスンが週4回あります。自宅から所属するチームの体育館まで、地下鉄を使って片道40分ほど。帰りが遅くなるので送迎は欠かせません。リモートワークをする前は「送り迎えがあるから時間がない、仕事を早めに切り上げなきゃ」と、けっこうしんどかったんですが、今はその時間に仕事ができるので気が楽ですね。土日は6時間、ふだんでも3時間ほど待ち時間があるので、その間にカフェなどでじっくり仕事ができます。
北海道で感じる「温度差」
-出先での通信環境はどうですか?
中山:東京と違って北海道は人が多くてつながらないということは少ないですね。つながりやすいです。
ただ場所によってはそもそも電波が通っていないということもあります。長女がレッスンをしている隣町の体育館がちょうどエリア外で、WiMAXとポケットWi-Fiと、ふだん使っている携帯電話でデザリング、SIMだけ買って昔の携帯にさしてデザリングできるようにしているものと、通信方法を常に複数用意しています。
-それは大荷物じゃないですか?
中山:電子機器自体は大変ではなく、荷物はいつもリュックひとつ程度なんですよ。
それより、月1回くらいですが、東京に行くときは「山に登るの?」と聞かれるほどの荷物になります。書類申請が多いので持ち歩く紙が多いんです。なるべくペーパーレスにして、出張を減らすよう動いてはいるんですが、私が札幌でバックオフィス担当していて、本社は東京、都内のハローワークや年金事務所、提出書類が紙で代表印が押してなければダメ、というものも多いので。
-紙で提出が決まっているものがあると、完全にリモートは難しいんですね。
中山:いずれはバックオフィス業務は誰もやらなくて済むように完全に自動化したいと思っています。
-勤怠管理はどのようにされているんですか?
中山:タイムクラウドという自社サービスを使っています。うちの場合は社内全員に現在やっている仕事が共有されます。それがオフィス代わりになっています。今誰が何をどのくらいやっているかリアルタイムでわかり、ログも全部残るので勤怠管理はされています。
-場所は関係なくどこにでもノートパソコン内のオフィスを持ち歩けるんですね。北海道ならではのエピソードってありますか?
中山:リモートワークは全く距離は関係ないので仕事の面で「北海道だから」というのはありません。
気候がいいのはあります。夏は過ごしやすいのがいいですね。うちのメンバーは東京2人と、広島、大阪にいるんですが、「夏は暑いから北海道でやってもいいかも」という声もあるんですよ。
-北の大地でリモートワークというのは憧れます。
中山:暮らす場所として、北海道はすごくいいです。自分で仕事を持っていて、北海道へ移住してくる方もいます。
その反面、地元企業のリモートワーク化はまだ進んでいないんです。ソフトウェア開発に限って言うと、もともと東京の案件を北海道のオフィスでやるという受託スタイルが多いので、企業もコンプライアンスや情報セキュリティの問題で消極的。専業主婦が多く、東京ほど待機児童問題は切実ではないのと、ほとんどが通勤30分以内と交通も便利。企業にしてみればリモートワークを導入するメリットがわからない。まだリモートワーク文化は発展途上ですね。
リモートワークジャーニーで得たもの
-中山さんが始めたリモートワークジャーニーが大人気ですね。
中山:
リモートワークジャーニーは、全国各地のリモートワークに関心のある企業や個人に、リモートワークという働き方を広めていくコミュニティです。のべ200名ぐらい人の方が参加しています(2016年9月現在)。ただ登壇者の話を聞くだけでなく、参加型のフューチャーセッションという形をとっています。
-どういう経緯でスタートしたんですか?
中山:もともと、倉貫義人さん((株)ソニックガーデン代表取締役)の『リモートチームでうまくいく』出版記念のイベントのお手伝いが始まりでした。私自身もリモートワーカーですし、リモートワークという働き方をもっと知ってほしい、そのために全国を回ってつないでいくイベントをやってはどうか、と提案したんです。
-リモートワークジャーニーをはじめてみて変わったことはありますか?
中山:たくさんの人に会えることですね。「問題を解決したい」と思う人たちが集まってくれているので、今の課題とか「自分たちはこうしていきたい」という生の声が聞けるのが大きいです。
子育てと仕事の両立が大変ななかで、同じように考えている人がたくさんいることを知ることができ、そしてそのなかで「でも選択肢があるよ」と私自身が身をもって提示することで、少しずつ参加者の意識が変わったり、一歩踏み出す人が出てきたりというのは大きな変化ですね。リモートワークってこの先絶対必要だなということが確信できますね。
-あちこちでリモートワークジャーニーをしたいという声があるんですよね?
中山:リモートワークジャーニーの目的が一段階あがったのかなという気がします。今までは倉貫さんなど、初期メンバーが作り上げてきたもので「これがリモートワークジャーニーだ」という明確な基準がなかった。大きな柱はあるんですが。
今後は基準を設けてきちんと広がっていくような仕組み作りをしていきたいと思っています。元はコミュニティなので、最初は私たちが能動的に動くんですが、最終的には地方ごとにお任せ開催できたらいいなと思っています。
-リモートワークに対する意識は人によってかなり差があるような気がしますが?
中山:「リモートワークなんて無理だろう」という人たちは、やりたいけれど何かつまづいた経験があった人たちだと思うんです。それは、チャットのコミュニケーションや、仕事の割り振りがうまくいかなかったり、会社自体が許していないとか。なので、リモートワークをする上でのノウハウ的なところも今後は共有できたらと思います。
-リモートワークのイベントなのに、リモート開催ではないのが逆説的で面白いなと思っています。
中山:いまは実際お会いして、温度感を味わうと言うこともあって地方に出向いているんです。
人と会って直接顔を見て話して、というはリモートじゃ絶対出来ないこと。一度直接会うと人間としての距離がグッと縮まると思っているので、そこは出向いていくメリットだと思っています。それがある程度育ってきたらリモートでやりたいと思っています。
-リアルな感触を大切にしているあたりが「これからリモートワークしたい」という方にも受け入れられている由縁なんでしょうね。
働く女性のフラグシップモデルになりたい
-将来はどんな働き方を考えていますか?
中山:将来はリモートワークジャーニーも会社の仕事も、女性として母親としてフラグシップモデルになりたいと思っています。リモートワークジャーニーでお話させていただいていて、女性たちのコミュニティをしっかり作っていきたいというのがあります。
社会との関わり合いがなくなると人って元気がなくなるじゃないですか。子育てって大切だし大事なんだけれど、社会と切り離されてしまうので孤独感を感じてしまう。少しでも社会とつながっていると、その人自身の自己肯定感も上がる、というところまで考えていきたいです。
-おもに女性に対してですか?
中山:理想は男女で区切りたくないのですが、まだまだ男女差が大きいので、女性がもっと出来るようにしたいというのはあります。
女性は最初からあきらめている人がすごく多いので、すごくもったいないと思っています。そんな人たちに「できるよ」とノウハウ化して見せたり、気軽に相談が出来るようにしたい。
実際私がリモートワークをしていることを話したら「そんな働き方もあるんだ」って、リモートワークに踏み出したママ友もいます。
ITでもバックオフィスでも、それ以外の仕事でもやれる事ってたくさんあると思うんです。リモートワークは特別なことではないしフルタイムでなくてもできるよ、ということを広めていきたいと思います。
-今後もイベント登壇などは?
中山:続けていきたいです。私を見て!って感じです(笑)
-きっと、たくさんの方の一歩踏み出すきっかけになりますね。どうもありがとうございました。
子どもたちと向き合うために選んだリモートワークという働き方。母として、女性として、働く自分の背中を見せることが、なによりも生きた教育になっているのでしょう。
リモートワークジャーニーでの登壇もまた、これからリモートワークをする人に背中を見せるという部分で共通するものを感じました。
これからもみんなの前をさっそうと走っていただきたい!と思いました。
この記事の著者:曽田照子(Teruko Soda)
ライター。広告プロダクションでコピーライター経験後、1992年よりフリー。書籍、広告、WEB、フリーペーパー、情報誌など、多彩な媒体に執筆。得意分野は子育てと生活、女性の生き方。著書「ママが必ず知っておきたい!子どもに言ってはいけない55の言葉」メイツ出版、「『お母さんの愛情不足が原因』と言われたとき読む本」中経の文庫、「お母さんガミガミ言わないで!
子どもが勉強のやる気を失う言葉66」学研パブリッシングなど。
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