ムーニーのCMが炎上。ワンオペ育児するのが、ママじゃなくてパパだったら? ノルウェーのジェンダーフリー教科書を使って考える

ワンオペ育児をするのがお父さんにとって辛いのなら、お母さんにとっても辛いはずだ。なのにお母さんだからって、耐えなくてはならないのだろうか?

ワンオペ育児賛美? ムーニーのCMへの批判

ムーニーのCMが、ワンオペ育児賛美ではないかと批判を浴びている。

家事と育児をママがほとんど1人でこなしていて、とても大変そうだ。いや、大変どころか、産後鬱にならないか、と心配になってくる。それでも「その時間が、いつか宝物になる」そうだ。はて、どういうことだろう?

ノルウェーの男女平等の本

男女平等の先進国、ノルウェーで出された『男女平等の本』(日本での出版は1998年、インゲル・ヨハンネ・アルネセン、アウド・ランボー 作、カーリ・グローッスマン 画、ノルウェー男女平等の本を出版する会 訳、ノルゲ出版会 発行)というジェンダーフリー教科書の1巻『わたしたちは家で協力する』の中で、こんな家族の風景が紹介されている。

ワンオペ育児に疲れ、わっと泣き出すお母さん

※画像は現地出版社の許可を得て載せています。

1つ目のコマで、お母さんが朝、お父さんを起こしている。

2. 起きてきたお父さんが、子どもの着替えをさせていて忙しそうなお母さんに「朝ごはんはまだ?」と不機嫌そうに言っている。

3. お母さんがお父さんに何を食べたいか聞いている。お父さんは仏頂面のままだ。女の子は悲しそう。

4. お母さんが寝室に行き、ベッドを整えている。

5. お母さんが食べ終わった後の食器を片付ける中、お父さんは手伝わず、一足先に仕事に出かけようとしている。「車のかぎはどこだ?」とむすっとした表情で尋ねて。

6. 保育所へ急ぐお母さんが女の子の手を引き、「急ぎなさい!」と声を荒げている。

7. 仕事を終えたお母さんが夕飯の買い物をしている。

8. 重そうな買い物袋を持ったお母さん。

9. 仕事から帰ってきたお父さん。女の子が寄ってきても、「しっ!」と追い払い、新聞を読み続ける。

10.仕方なく女の子は、キッチンで作業するお母さんの横で本を読む。お母さんは「お父さんを休ませてあげなさい」と女の子に言い聞かせる。

11.洗濯物を運ぶお母さん。それを手伝う女の子。お父さんはテレビを観ている。

12.お母さんはついにわっと泣き出してしまう。

ムーニーのCMみたいだと思ったのは、私だけだろうか?

ムーニーのCMの方がさらに悲惨?

ただムーニーのCMのママは専業主婦(または今は育休中なのかもしれない)で、ノルウェーのテキストのお母さんは働いている、という違いがある。子を持つ母が働くべきか否かという要素も入るため争点がぼやけてしまうのだが、私にはムーニーのCMのママの方が、ノルウェーのテキストで泣いていたお母さんより悲惨に思える(感じ方は個人差があるだろうが)。

このノルウェーのテキストではお父さんが夕飯の時間には仕事から帰ってきて、家族で夕飯を食べられているし、最後お母さんはわっと泣き出して、お父さんの前で悲しみを表出できた。お父さんは泣いているお母さんを見て、びっくりしている。びっくりしたということはこれから何かしらの話し合いが行われるのではないかと希望が持てる。

ムーニーのCMではママは1人でひっそり泣いて、子どもの成長に助けられつつ、気持ちを何とか立て直している。大丈夫か?

お母さんのワンオペ育児は当然で、お父さんのワンオペ育児はかわいそう?

もしもムーニーのCMや、今回のテキストでお母さんが1人で家事・育児をするのを見て、当たり前だとか、お母さんだったらもっと強くならなくちゃ、とか思ったり、お母さんって偉い、と美談として捉えた人がいるなら、こう聞きたい。

「もしこれがお母さんじゃなくて、お父さんでも、同じように感じますか? "その時間が、いつか宝物になる"って胸がじんとしますか?」

ただお父さんが働いていないというのが、日本人にはまだ違和感があるのかもしれない。この国では男性は働いて一家を支えなくてはならないという重圧のようなものがあるのも事実だ。日本の場合、辛いのはお母さんだけでない。職場で長時間労働を強いられるお父さんもだ。

役割を入れ換えてみよう。ワンオペ育児をするのが、お母さんでなくてお父さんだったら?

『男女平等の本』の続くページでは、お父さんとお母さんの役目がそっくりそのまま入れ替わっている。

家事と育児をするのはお父さん。お母さんは仏頂面で命令ばかり。お父さんは一杯一杯の様子だ。1人で家事と育児をしているのだから、無理もない。家庭内はぎすぎすした雰囲気だ。疲れきったお父さんは女の子に「急ぎなさい!」とついきつい言葉を投げかけてしまう。

仕事を終えたお父さんに休む暇はない。何とか夕飯を作り終え、テーブルに並べる。なのにお母さんの口から出てくるのは、お礼ではなく、文句だ。「またフィッシュ・バーグ?」

最後にお父さんは、「もうくたくた」と言って泣き出してしまう。

ムーニーのCMでも役割を入れ換え、ワンオペ育児をしているのがお母さんでなく、お父さんだったらどうなるだろう? 辛くないのだろうか? ノルウェーのテキストとは違い、ムーニーの場合は、共働きではないのだから、家事と育児をほぼ1人で担うのは、当然なのだろうか?

男と女のちがいって?

テキストの中で、こんな質問がされている。「男の子と女の子の違いは何?」

答えにはこう書かれている。「一方が男の子で、もう一方が女の子なところ」

お母さんもお父さんと同じ人間だ。ワンオペ育児をするのがお父さんにとって辛いのなら、お母さんにとっても辛いはずだ。なのにお母さんだからって、耐えなくてはならないのだろうか?

愛って何?

テキストにはこう書かれている。

「愛とは、誰かが悲しそうにしているのに気付いたら、慰めること。

協力し合うこと。

ともに分かち合うこと。

譲り合うこと。

誰かの手を握ること。

誰も仲間外れにしないこと。

怒った時、手を挙げないこと」

今の日本の家族は、愛し合えているのだろうか? どうしたら私達は互いに愛情を示し、いたわり合えるのだろう?

子どもが小さいうちに母親が働くのはかわいそう? 

家事育児の分担についての意見は様々だ。子どもが小さいうちに母親が働くのは、かわいそうと言う人もまだまだいる。

これからの時代は、女性も皆、外で働いた方がよいのだろうか? それとも家で子どもの面倒を見るのが女性にとって、また子どもにとっての幸せなの?

または女の人が主婦をする家、男の人が主夫をする家、共働きの家など、様々な家族で成る社会で、互いを批判することなく、ともに尊重し、支う合う未来を作っていくべきなのだろうか? それはただの理想論?

今回紹介したテキストは、こう締めくくられている。

「かつてはお母さんが大抵、主婦をし、

お父さんが一日中、外で働いていました。

でも今では両方が外でお金を稼ぐのが一般的です。

皆の労働時間を今よりもっと短くするべきだと多くの人が思っています。

そうすれば時間ができて、お互いにいたわり合える余裕が持てますし、

誰もくたくたになることはありません。

お母さんの中には子どもが小さいうちは

主婦になる選択をする人もいます。

その選択はお父さんにも可能です。

あなたは大きくなったら、どうしたいですか?」

ノルウェーでは女性解放運動が盛んになった1970年代、主婦という言葉が、抑圧された女性像を示すネガティブな言葉に変わった。ノルウェーの公式統計で今では、主婦という項目はないそうだ。あるのは無業という項目だけ。

結局、日本もノルウェーと同じように女性も経済力をつけるしか、尊重される道はないのだろうか? だが長時間労働勤務が当たり前の日本の職場環境では、小さい子どもを抱えて働くのはかなり困難だ。だから多くの女性は子どもを産むと、一度仕事を辞める。でも仕事をしていないからといって、家事と育児をほとんどやるのが当然なのだろうか?

日本の女性は一体いつまで、ムーニーのCMみたいに、「moms don't cry」だとか、ママは泣いちゃダメだとか思いながら、歯を食いしばって、孤独に耐え続けなくてはならないのだろうか? 泣いて笑って生きていく? 長いトンネルの中にいるのに、どうして笑えるの? 強くならなくてはならないのは――変わるべきなのは、社会でなく、ママなのですか?

この本がノルウェーで出されたのは1983年。今から34年も昔のことだ。

ムーニーの次回CMでは、長時間労働しているであろうお父さんにスポットを当ててみては?

こんな風につらつらと書き連ねると、私がユニ・チャームに怒っているかのように思われるかもしれないが、実はそうでもない。CMを観て、憂鬱な気持ちになった人には申し訳ないが、今回の騒動のおかげでワン・オペ育児に悩んでいる人が自分以外にこんなにたくさんいるのだと分かって、ほっとした。またムーニーのCMに関する不満を吐き出している間、夫に感じていた不公平感、怒りをユニ・チャームに向けることができた。

炎上騒ぎが収まるまで、ユニ・チャームは怒れるママのストレスを受けるサンドバッグの役割を果たすことだろう。ユニ・チャームの人達には酷かもしれないが、もうしばらく議論が続き、ワンオペ育児の孤独、辛さが世に周知され、「奥さん1人で大変だから、子どものいる男性社員を遅くまで残すのはやめておこう」と思う上司が増えたらいいな、と思う。ムーニーの次回CMでは、今回ほとんど登場しなかったお父さんの事情も描いてくれないものだろうか?

なんやかんやで、オムツは漏れないのが一番

長女の育児中、色々な会社のオムツを試してきたが、息子が生まれてからは実はムーニーしか使っていない。ムーニーはとにかく赤ちゃんの体によくフィットするし、漏れにくくて、触り心地もよく、かぶれにくい。今日もムーニーはよく食べ、よく飲み、大量のうんちとおしっこをし、激しく動き回る、間もなく1歳のうちのやんちゃっ子の小さなお尻を、優しくしっかり包みこんでくれている。

それにあの赤ちゃんが泣き止む動画! 息子がぐずってなかなか泣き止まない時、何度あの動画に救われてきたことだろう。かわいくって私もほっこり癒された。

なんやかんや言って、これからもわが家はム―二―のお世話になるのだろう。家では息子のオムツ替えは私がしているけど、購入はできるだけ夫に任せるようにしている。重たいのが主な理由だが、オムツを買う時、夫に、「新生児用(お誕生~3000g)が新生児用(お誕生~5000g)になったのか」、「Mはいはい用を使っていたのが、次はMつかまり立ちサイズか」と息子の変化を感じて欲しいからでもある。

子育ての喜びを分かち合いたい

今息子はLサイズを使っているけれど、ムーニーにはビッグサイズ、ビッグより大きいサイズ、スーパーBigまである。息子はこれからも日一日と大きくなっていく。夏になったら、水あそびパンツを穿かせ、ビニールプールで遊ばせたい。その時私の隣には夫もいてくれるのだろうか。「疲れた」ばかりでイライラせず、笑う息子を見てかわいい、楽しいと思ってくれるの? 面倒くさがったり、怒ったりしてばかりでなく、笑ってほしい。息子はうるさくて手のかかる面倒な私1人の赤ちゃんではなく、好奇心旺盛で楽しくてかわいい、私達2人の大切な赤ちゃんなのだから。

そしていよいよオムツが外れる時、息子の成長を夫とともに感じ、喜びを分かち合い、「一緒に頑張ったね、ありがとう。これからもよろしく」って笑い合えたら、どんなにいいだろう。

(参考)今回の話題に通じる書籍

レナルト・ニルソン 写真/ラーシュ・ハンベルイェル 解説/楠田 聡・小川正樹 訳/あすなろ書房

レイフ・クリスチャンソン 文/二文字 理明 訳/はた こうしろう 絵/岩崎書店

朴木 佳緒留 著/もりお 勇  イラスト/橋本紀子、朴木佳緒留、村瀬幸浩 編集委員/大月書店

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