つい最近、世界的不平等に関する二つの報告書が紙面を賑わし、無視されがちだったある話題にスポットライトが当てられている。世界中から政界・財界の有力者らが世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に集まるこの時期、ひとつは「今のベスト」、もうひとつは「今のワースト」と、それぞれ異なる状況が書かれている。
ひとつはほかならぬ世界で2番目に裕福な男ビル・ゲイツからの発言。妻メリンダとの共著による年次書簡2014で、極貧との戦いに関するありがちな諸説を一掃するべく前向きなビジョンを示し、経済成長、新しいテクノロジー、そしてより確かな健康管理によって「2035年までには世界には貧しい国はほとんどないだろう」と主張している。
ビル・ゲイツの場合は、過去数十年間に獲得できためざましい利益が証明しているとして次のように書いている:
「貧しい国は貧しいままでいる運命にある」という神話に物申す最も簡単な道は、ひとつの事実を示すことだ。それらの国々は貧しいままに留まらなかった、と。すべてとは言えないが、私たちがこれまで貧しいと呼んでいた多くの国の経済は今は順調になっている。非常に貧しい人々の割合も1990年からすると半分以下になっている。
貧困撲滅に活動するオックスファムもまた今週独自の報告書を発表した。そのメイン・メッセージは、85人の最富裕者と35億のもっとも貧しい人々の総資産額が同じというものだ。
オックスファムによると:
わずかな人々の手中に経済資源が大々的に集中することは、包括的政治経済システムの重大な脅威となっている。共に前進する代わりに、人々は経済と政治の力によって徐々に引き離れされ、この力が必然的に社会的緊張を高め、社会的崩壊のリスクを拡大している。
これは活動家らだけが言及している見方ではない。一部の間ではお高くとまったエリートクラブとされている世界経済フォーラムも同様の訴えをしている。会議直前に発表された2014年グローバル・リスク・リポートでは、もっとも懸念される世界10大リスクの一つに「厳しい収入不均衡」をあげている。
それではここでは誰が正しい絵を描いているのだろうか。答えは微妙だ。2000年9月に国連によってMDGsが採択されて以来の多くの進歩は、だれにも否定できない。アジアでは何百万もの人々が極貧から抜け出した。子供の死亡率は20年で半減した。アフリカ大陸での経済成長はほぼ5%、等々あげればきりがない。リーダーたちを刺激して世界の貧困との闘いを次の段階に進ませるには、私たちが成し遂げた進歩をもっと認めさせる必要があるというビル・ゲイツは正しい。
とはいっても、オックスファムの指摘は今日の心配な雲行きではもっともなことに思える。アフリカと中東における民族戦争と内紛。地中海では、南から北への命がけの移動で、何千人もの移民が命を落とす。簡単に予防・治療ができるはずの病気で死んでしまう子供たちが、今なお毎年何百万もいる。なすべきことは山積している。
私たちはビル・ゲイツが言及している革新をばねに2035年までには彼のビジョンを達成できる。同時にオックスファムが重視する再分配ゴールを達成し、彼らの恐れるシナリオを避けることができる。21世紀にその鍵を握っているのが「開発のための革新的資金調達」であり、経済にまったく影響をおよぼさない方法で、グローバリゼーションの恩恵を最も受けている活動に課税するものだ。
私たちはユニットエイドによる航空券課税の形でそれを実行した。ユニットエイドは私が理事長を務め、世界保健機関に委託されているグローバルヘルスのイニシアティブである。2006年以来、HIV/エイズ、結核、マラリアの医薬品を購入するため、多くの国で実施しているわずかな額の航空券税から20億ドル以上を調達することができた。フランスやチリなど、この小さな税を取り入れている国々で空の旅に悪影響が出たことはない。
命を救うことの他に、ユニットエイドは革新的資金調達の研究室でもあり、世界の貧困と闘う新たな方法が実を結んでいることを世界に示している。医薬品特許プール(Medicines Patent Pool)の創設がそのひとつだ。この組織の目的は主だったHIV医薬品の特許を共有しHIV医薬品へのアクセスを増すことにある。もちろん、ユニットエイド研究室は、革新が資金集めに有効であることも証明している。
私たちはヨーロッパで提案されている金融取引税FTTと共に前進し、その税収のかなりの部分が世界の貧困との戦いに使われるようにする必要がある。さらに、巨大な財源だけでなく、何十億もの持たざる人々のために小さな人的恩恵ももたらすような課税活動を始める必要がある。たとえばアフリカでの天然資源の採取、海外発送、テレコミュニケーションなど。
それらの活動を通して集めることのできる何十億ドルにより、ビル・ゲイツの言う全世界での医薬、食糧、公衆衛生といった公共利益へのアクセスを増加させ、不平等を劇的に減少させることができるだろう。そうした活動は、より多くの国を貧困から脱却させるために必要な経済成長に悪影響を及ぼすものではない。
私たちは今、行動を起こす最適の好機を手にし、世界の貧困との戦いにおける重要な局面にいる。革新的資金調達がダボス会議終了後も引き続き世界的協議事項であり続けるよう希望する。
フィリップ・ドスト=ブラジ
国連事務総長特別顧問
ユニットエイド理事