イスラム武装集団の「イスラム国」は、72時間以内に2億ドルを払わなければ拘束している日本人2人を殺害すると予告するメッセージを動画サイトに投稿した。
安倍首相は、イラクやシリアの難民支援などのために2億ドルを拠出することをエジプト訪問の際に明らかにしたが、それを受けての殺害予告だった。その後、首相が訪問したイスラエルは「イスラム国」などイスラムに訴える武装集団が一様に「敵」と見なしている国だが、安倍首相のイスラエルとのテロ対策協力や、ホロコースト記念館訪問などに「イスラム国」は非難する内容のメッセージを発していないことからもメッセージ映像はエジプト訪問を受けてつくられたものだろう。
イスラム世界では、日本が米国との戦争に敗れても戦後目覚ましい発展を遂げたこと、日本の自動車、家電、カメラなどの精密機械など日本のテクノロジーへの篤い信頼がある。「日本人は頭のよい国民だ」という発言にはイスラム世界で数多く接する。
そのイスラム世界の日本への感情が曇り、今回のように日本人が拘束され、身代金を要求されるようになった背景には、日本の「対テロ戦争」への協力がある。「対テロ戦争」の一貫として行われたイラク戦争はイラクが大量破壊兵器を保有しているということが開戦の口実であったが、その後大量破壊兵器は見つからず、イラクは政治的安定を一挙に失い、「イスラム国」の台頭など深い混迷の中にある。日本の政府関係者は「テロ」という言葉の使用についてもっと慎重であるべきだ。「テロに屈しない」「米国のテロとの戦いを支持する」などの発言は欧米諸国にとっては心地よく響くかもしれないが、「テロ」が「暴力」とするならば、イラク戦争やアフガニスタン戦争で「イスラム国」以上に市民の犠牲者をもたらしている。イスラエルと戦闘をするレバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスやレバノンのヒズボラを、イスラエルのように「テロ集団」と考えるイスラム世界の人々はごくまれだろう。
「テロ」という言葉を頻繁に用いること自体に日本が欧米諸国の軍事介入に一体となっている印象をイスラム世界の人々に与える危険性をはらんでいることを日本政府関係者たちは強く意識すべきだろう。米国のイスラム世界への軍事介入に協力することの危険性を今回の事件は示している。日本は国際社会の手前、公然と身代金の交渉に応ずることはできないだろうが、「イスラム国」と戦う他の武装集団や、イラク、シリア政府が、「イスラム国」と捕虜交換などの交渉をすることをうながし、その交渉課題の中に日本人人質の解放も含めることを提案することも、解放のための一つの手立てとなりうるだろう。