安保関連法制の審議が大きな注目を集める国会で、「18歳選挙権」が実現しようとしています。6月4日の衆議院本会議で全会一致で可決し、この国会で6月17日にも成立の見通しと言われています。参政権の拡大という意味では、70年ぶりの大改革です。
1945年(昭和20年)に、それまで「25歳以上の男子」に限られていた選挙権を、「20歳以上の男女」としたことで、初めて女性参政権が実現すると共に年齢も20歳に引き下げられました。それ以来の年齢の見直しが行なわれるわけです。
私もまた「18歳選挙権」の実現を願ってきたひとりでした。したがって、今回の「18歳選挙権」には賛成です。一方で今回の法改正が、若者たち自身が声をあげ、世論や政治を動かして実現した改革でないことにも留意したいと思っています。
「18歳選挙権」は、長い間議論されてきましたが、政権与党だった自民党内部には慎重論が根強かったといいます。安倍首相の思惑は、「憲法改正・国民投票」にあります。「国民投票法」は、投票に参加できる有権者年齢を18歳としています。それとの整合をつけるために法整備を急いだという事情が背景にあるのです。それでも、一時の政治的思惑や構図を超えて、「18歳選挙権」は日本の政治や選挙を変える可能性を持っています。
「70年ぶりの大改革」が行なわれると書きましたが、世界の趨勢(すうせい)を見れば、圧倒的に多くの国が18歳までに選挙権を認めています。国立国会図書館によれば、18歳までに選挙権を認めている国は191か国中176か国(92%)にのぼります。長い「留保」の時代が終わって、世界各国の水準に近づいたと言ってもいいのです。
18歳選挙権、衆院を通過 全会一致で可決
選挙権年齢を現在の20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案が4日午後、衆院本会議で採決され、全会一致で可決された。参院の審議を経て今月半ばにも成立する。来夏の参院選から適用され、18、19歳の約240万人が有権者となる見通しだ。選挙権年齢の引き下げは、1945年に現在の20歳以上となって以来70年ぶり。
来年の参議院選挙で有権者となる240万人の高校生年齢の若者たちは、このニュースをどう受けとめているのでしょうか。少なくとも、来年には参政権を手にする可能性のある若者たち自身から、多様なリアクションがあっていいはずですが、私も協力してきたNPO法人Rights(ライツ)の若者たちがシンポジウムを呼びかけたり、発言をしているぐらいで、当事者の世代にはまだ浸透していないのが実態なのではないかと思います。
とくに、「政治ニュース」を話題にする習慣のない学校現場で、「18歳選挙権」だけは例外的に時間をさいて情報提供し、生徒からの疑問に答えるという機会を持っているかどうか、気になるところです。
来夏の参院選への適用後は、国政選挙だけでなく地方選挙、最高裁判所裁判官の国民審査のほか、地方自治体の首長の解職や議会の解散の請求(リコール)を受けて行われる住民投票でも、18歳以上が投票できるようになる。
また、選挙運動もできるようになる。法案では「当分の間」として、18、19歳が買収など連座制の対象となる重大な選挙違反をした場合は、原則として成人と同様、刑事裁判を受けさせることも盛り込まれた。
18歳選挙権を与えられる高校生世代の若者は、国政選挙のみならず、最高裁判所裁判官国民審査や地方選挙やリコールについて理解する必要があります。また、公職選挙法の複雑な禁止事項を知らずに、選挙運動を手伝って「刑事事件」にまきこまれる危険性もあるのです。
実は、「18歳選挙権」が実現しなくても、この問題は存在しています。学校教育の場で、「選挙と投票」という民主主義の基礎的な土台について、生徒たちがそれぞれ実感をもって理解する機会を提供しているのか、根本的な見直しが必要ではないでしょうか。
2014年12月の衆議院選挙での世代別投票率は、70歳-74歳が72.16%だったのに対して、20歳-24歳は29.72%ときわめて低い数字となりました。この傾向が変わらなければ、18歳選挙権で新たに240万人が新有権者となった場合に棄権者が大半になってしまっても、20代の低投票率を照合するなら不思議はありません。
若者の政治的無関心を劇的に転換する方法はないものか、意見や分析を調べているうちに、これぞ決定打となるかもしれないと思う記事を見つけました。若い世代の低投票率を打開するのに、ふたつの提案がされています。「政治教育」と「被選挙権の引き下げ」です。ふたつの目の提案を紹介します。
被選挙権の引き下げです。同じ世代の仲間が議員に立候補すれば、政治的な関心も上向くのではないでしょうか。若い世代の求める政策を掲げ、候補者をたてることも可能になります。
現在、日本の国会議員の立候補資格は、衆参それぞれ25歳と30歳からです。
都道府県知事30歳です。しかし、これにも合理的な理由はないように思います。25歳になれば法律上は内閣総理大臣になれるのに、知事には30歳にならなければ立候補もできないというのは説得力がありません。
(NHK時論公論 18歳選挙権実現へ-政治的・社会的影響は)
参政権は選挙権だけでなく、選挙に立候補する権利(被選挙権)も含んでいます。国民投票法との整合性を急ぐことで「18歳選挙権」を実現する以上、被選挙権の年齢制限も取り払うべきではないでしょうか。世界の動向を、続けて「時論公論」は紹介しています。
ヨーロッパを中心に被選挙権を引き下げる国が相次いでいます。18歳までに被選挙権を与えているのはすでに50か国を超えています。こうした国々では高校生の地方議員など若い地方政治家が誕生しています。ノルウェーでは過去に高校生が国会議員に当選したこともあります。
若い人たちから支持を得たいという政党側の事情もありますが、若い世代の政治参加が着実に進んでいるとも言えます。学業との両立が可能なのかという懸念も聞こえてきそうですが、議会を夕方以降に開くことなど議会改革で対応しています。
こうした国々では、高校生議員はすでに登場しているのです。そして高校生の「政治参加」は選挙に限るわけではありません。2014年にオランダ教育視察に出かけた時に、生徒会連合(LARK)の事務所を訪ねて驚いたのは、オランダの高校生たちが、政府の教育改革に対して「異議申し立て」「抗議デモ」を繰り返して、同世代の声を政治や行政に反映していたことでした。約1時間、17歳の高校生が活動内容を私たちに話してくれました。
「また、教育改革の中で『生徒は1014時間以上、授業に出なければならない』という規則が生まれたときには、生徒たちが『異議あり』」の声をあげました。2007年と2011年に大規模な抗議行動が組織され、代表である議長がメディアのインタビューに答えたり、国会で発言したりしました。すぐに制度が変わったわけではありませんが、超党派議員の手で『中等教育を再点検せよ』という動きが生まれたのも成果のひとつでした」(「太陽のまちから」2014年5月27日オランダ報告3)
http://www.asahi.com/and_w/life/SDI2014052667421.html?iref=andw_kijilist
オランダ政府は、LARKの事務所に年間1億円の予算を支出しています。高校生たちは、大人を雇用して全国的なキャンペーンを進め、国会議員たちを訪ねてロビイングや記者会見も行なっています。高校生が声をあげることや、その声を政治やメディアに届けることで、教育制度や社会を変えることが出来るという実感があってのことだと思います。
日本の子どもたちも、もともと政治への関心が低いわけではありません。
小さな変化の兆しを感じたのは、4月の統一地方選挙の時でした。駅頭や人通りの多いスーパー前等で選挙演説していると、少年が立ち止まって聞いている姿がありました。年齢を聞くと14歳の中学生で、「興味があるので聞いていました」と語りました。ある団地で演説した時には、小学5年生7~8人が私の正面に並んで、演説に耳を傾けていました。「教育や子ども」に話題を移すと、時折りタイミングよく拍手してくれました。
「18歳選挙権」にとどまらず、「被選挙権を18歳に引き下げる」ことを直近の課題にすべきだと思います。