都議選後の「反省」「謙虚」「丁寧」。安倍首相のちぐはぐな言動

政権中枢の「反省」「謙虚」「丁寧」が言葉だけなのか、自ら足らざるとこを補う誠意があるのか、ここが問われています。

7月2日投開票の東京都議会議員選挙の結果は、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会の圧勝、自民党の大敗という劇的な結果が生みました。都議会議員選挙の前、これでもかというほどに、安倍晋三首相も含めた自民党国会議員から「自滅点」が相次ぎました。さらに、公開された秘書を人格否定する女性議員の暴言音声は、「生理的嫌悪感」さえ拡げたのです。

私たちの持つ印象の箱には、目を覆いたくなるような不条理、理の通らないごり押しの詭弁、はてしなき自己正当化、そして数々の民主主義を嘲笑うような言動が、フタが閉まらないほどに充満していました。

安倍政権の黄昏と「おごれる政治」 「太陽のまちから」(2017年6月29日)

「共謀罪」の問答無用の強行採決も、森友学園・加計学園での不誠実な姿勢も、「真摯に説明を尽くします」と言いながら国会開会を拒否していることや、暴言議員を叱責することもできず、稲田大臣のトンデモ発言を形式的な「撤回」でよしとする対応も、すべて根は同一に見えてきます。

それは、安倍一強と呼ばれた高い支持率にあぐらをかいた「百年王国」が続くという錯誤ゆえの尊大な万能感と、おごりです。

9日間の都議会議員選挙の最終日、街頭演説を封印してきた安倍晋三首相が満を持して登場したのが、秋葉原でした。民主党から政権を奪い返した2012年12月以来、勝利の女神が君臨する「聖地」で起きた出来事は、この半年間の政治ドラマを凝縮するような出来事でした。

安倍首相アキバ演説で「やめろコール」 籠池氏乱入(「日刊スポーツ」2017年7月2日)

陣営が配った日の丸を手に安倍首相の演説を待つ大勢の支持者の外側で、「安倍政権ふざけるな」などのプラカードを持った聴衆から「安倍ヤメロ」コールがわき上がり、広がった。それが突然、一部で「カーゴイケ!」に変わる。選挙カー正面、聴衆と報道陣でもみくちゃになった人だかりの中心に、日の丸を持った籠池氏本人がいた。

「説明責任を果たさない国政の責任者が演説すると聞いてお邪魔した」。あまりの混乱に、警備の警察官から聴衆の外側に誘導されたが、首相が到着すると、今度は歩行者デッキの聴衆の最前列へ。

安倍首相を非難する「やめろコール」が広がることは予想されていたとはいえ、その声は大きく、人々の数も多かったと伝えられています。ただ決定的だったのは、次の一言ではなかったでしょうか。

演説をかき消すほどの「安倍ヤメロ」コールに、首相も「演説を邪魔するような行為を自民党は絶対しません。こんな人たちに負けるわけにはいかない! 都政を任せるわけにはいかない!」などと、国会答弁で反省したはずの"強い口調"で反撃した。(「日刊スポーツ」2017年7月2日)

指をさしての「対決宣言」でしたが、「こんな人たち」は目の前で声をあげている人に止まらずに、ニュースの画面を見ていた多くの人にも広がっていたのが、今回の都議会議員選挙の特徴ではなかったかと思います。

首相「厳しい審判、深く反省」 都議選惨敗受け 日本経済新聞 2017年7月3日

首相は首相官邸で記者団の質問に答え「今後、党一丸となってしっかりと態勢を整えて、結果を出すことで国民の信頼を回復していきたい」と強調。敗因に関しては「安倍政権の緩みがあったとの厳しい批判がある」と指摘した。「国政にいっときの停滞も許されない。反省すべき点は反省し、謙虚に、丁寧にやるべきことはしっかりと前に進めていかなければならない」とも語った。

また、秋葉原には、ポケットに百万円の入った封筒を持って籠池泰典氏が登場しました。籠池氏が演説中の安倍首相に向けて叫んでいるニュース映像は、2月の「森友学園」問題発覚以来、この国で何が起きていたのかを走馬燈のように想起させました。籠池氏の証人喚問は行われた一方で、その他の当事者は国会での証言を求められていません。

そして、6月20日に籠池氏の自宅は、「補助金詐欺」や「補助金不正受給」の疑いで大阪地検の家宅捜索を受けています。森友学園の小学校用地の土地取得の経緯や大幅減額をめぐる「本筋」の解明作業は棚上げされたままです。

一方、近畿財務局や航空局、財務省本省への捜査は行われるどころか、国会で森友学園をめぐる答弁を繰り返した財務官僚に対して、驚くべき論功行賞の人事が発表されました。

佐川理財局長「栄転」に波紋 与党からも「あしき前例」:朝日新聞デジタル (2017年7月4日)

財務省 は4日、佐川宣寿(のぶひさ)・理財局長(59)を5日付で国税庁長官とする人事を発表した。佐川氏は学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題の国会答弁で事実確認や記録の提出を拒み続け、「真相解明を阻んでいる」と批判を浴びただけに、与野党から疑問の声があがっている。

上記の新聞記事から佐川理財局長の答弁をふりかえると、

(交渉記録の提出→)「面会等の記録は、売買契約締結をもって事案が終了しているので廃棄している」(2月24日)

(政治家側の働きかけの有無の調査)→「不当な働きかけが一切なかったので記録は保存されていない」(3月1日)

こうして「すでに廃棄しました」「データは残っていません」「記録はありません」木で鼻をくくったような答弁を繰り返して、財務省側から開示された事実はないままに、真相解明を求める野党議員に対して、のらりくらりと質問時間を消費させる役割をしました。

こんな答弁も記憶に残っています。文書は廃棄していたとしても、財務省で使用しているパソコンは「短期間で自動的に消去されて復元できないようなシステム」(佐川理財局長)が導入されているとの答弁もありましたが、実際にはそのようなシステムは導入されておらず、後に「手作業で消去した」と訂正しています。

(社説)森友問題 財務省は情報を消すな:朝日新聞デジタル (2017年6月30日)

学校法人・森友学園への国有地売却問題をめぐり、同省は学園との交渉記録などを「廃棄した」と主張している。しかし、バックアップデータから復元は可能という指摘もある。

このままでは6月から新システムに移行し、旧システム上のデータは2カ月かけて消去される。機器の入れ替えで復元が物理的に不可能になる前に、情報の保全を優先すべきだ。

こうして、2013年からの財務省のシステムに保存されてきたデータが消去されることになりました。「証拠保全」とは逆の「証拠隠滅」を意図しているのではないかと疑われるのも当然の行為です。NPO法人「情報公開クリアランスハウス」は、森友学園に関する記録の保全を申し立てる訴えを起こしましたが、東京地裁で却下され東京高裁に抗告していましたが、都議会議員選挙の翌日に「棄却」の決定が出ました。

財務省の「森友」交渉記録、高裁 保全申し立てを棄却 (TBS NEWS 2017年7月3日)

森友学園に国有地が格安で売却された問題で、東京高裁は国と学園側との交渉記録の保全を求めていたNPO法人の抗告を棄却する決定をしました。

財務省は森友学園側との交渉記録などを破棄したと説明していますが、NPO法人「情報公開クリアリングハウス」は「コンピューターに残るバックアップデータなどから復元可能」だとして、財務省などを相手取り証拠保全の申し立てを行っていて、5月に東京地裁が却下したことを不服として抗告していました。

今年の2月から国会で問題となり、多くの質問に対して「廃棄した」「確認できない」という答弁が続いていた文書のシステム内に残る記録が、何ら検証されることもなくシステム更新と共に消去されるという社会は、佐川氏の答弁は、佐川氏個人の発想によるものではなく、「財務省と官邸の強固な意志」であると感じます「総理の意向」で、情報保全を命じることで消去作業を止めることはできるはずです。

霞が関の官僚の中で「佐川になるな、前川になれ」という言葉がささやかれているといいます。前川喜平前文部科学省事務次官の勇気ある記者会見で、加計学園をめぐる文部科学省内の文書は「出処不明の怪文書」どころか、実在していたことが判明しました。さらに、国家戦略特区に加計学園を位置づけるにあたって、「総理の意向」がチーム官邸として激しく動いていたのではないかという疑問に対して、事実を明らかにすべきだと思います。

安倍首相からは、何度か「反省」や「謙虚」「丁寧」という言葉が出ましたが、国民の疑念に答えるには、森友学園問題では財務省が隠し通してきた文書を自ら開示し、加計学園問題では、10日に予定されている前川前事務次官を参考人として呼ぶ閉会中審査(文部科学委員会と内閣委員会の連合審査)をただ1回の形式に終わらせずに、安倍首相も出席しての予算委員会を行ない、官邸・内閣府側の積極的な情報開示及び事実に基づいた証言が必要となります。

私の経験では、森友学園や加計学園等、これだけ国会で問題になり世論の関心も高ければ、数週間かけて政府や関係省庁主導の「調査報告」がされるのが常識です。しかし、「問題がないのだから調査をする必要もない」という一方的な高圧的な姿勢でいたことが有権者の不信を生んだことは間違いありません。

私が連続してブログで取り上げた共謀罪の審議と採決のあり方についても、多くの人々が疑問を持っています。少なくとも、野党やメディア、国連関係者等から指摘を受けた論点をひとつひとつ検証し、法務省による「補足答弁書」を作成した上で、議論の途上で断ち切られた共謀罪の問題点も、すべからく追加審議するぐらいのことをやっていいはずです。

政権中枢の「反省」「謙虚」「丁寧」が言葉だけなのか、自ら足らざるとこを補う誠意があるのか、ここが問われています。今回の都議会議員選挙では、自民党が大敗、都民ファーストが大勝した以外に、民進党が5議席にとどまるという結果もありました。安倍首相が「改憲日程は変えない」とする中で、野党第一党の役割は重いのですが再生の道は険しい状況です。その点は稿を改め、深堀りしたいと思います。

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