藤井浩人美濃加茂市長が市議時代に業者から30万円を受け取った収賄の疑いで逮捕・勾留されている事件で、勾留取消請求却下決定に対する準抗告を棄却する名古屋地裁の決定に対して、本日間もなく、最高裁判所に特別抗告を申し立てる。
その理由は、現職の美濃加茂市長の被疑者について、逃亡のおそれがなく、罪証隠滅のおそれもほとんどなくなっているのに、勾留の必要を認めて、勾留取消請求を棄却した名古屋地裁の決定が、「地方自治の本旨」等、地方自治の基本原則を定める憲法92条、93条2項の趣旨に反し、「正当な理由」を拘禁の要件と定める憲法34条後段、「適正手続の保障」を定める憲法31条に違反するということだ。
現職市長で、一貫して潔白を訴える藤井市長に「逃亡のおそれ」がないことは、あまりにも当然で、任官後僅か半年の新米裁判官が、そのような非常識な勾留理由を認めたことが裁判所のシステムの問題であることを、【現職市長に「逃亡のおそれあり」として勾留決定をした任官後半年の新米裁判官】で指摘した。
「逃亡のおそれ」については、さすがに、勾留決定に対する準抗告棄却決定でも勾留取消請求却下に対する準抗告棄却決定でも「逃亡のおそれについて判断するまでもなく」と述べて判断を回避している。
問題は、罪証隠滅のおそれの方であるが、贈賄が行われたとされている2回の会食の場にいた同席者が、市長の任意聴取が始まった日から、連日、朝から晩まで警察・検察の取調べを受けている。しかも警察では、過酷な取調べで意識を失うところまで追い込まれているにもかかわらず、一貫して「現金授受は見ていない。そのような話は聞いたこともない。」と供述しており、藤井市長の支援者が行っているネット署名にも、「俺が白だというんだから白だ!」と書き込むなど、贈賄供述をしている業者の供述の裏付けにならない供述がほぼ確定している。
江川紹子氏も、コラム【藤井美濃加茂市長収賄容疑事件、裁判所は令状発行機関なのか】で、この同席者にインタビューした結果について、次のように述べている。
高峰氏に話を聞くと、現金授受も有利な取り計らいをしてほしいとの請託も、明確に否定した。
「そもそも、彼(藤井氏)はこの浄水設備の導入に乗り気になっていたので、業者が賄賂を渡したり、有利な取り計らいを頼んだりする必要が、全くないんです。会った時には、ずっと私がいて、彼と業者の2人だけになる機会もありませんでしたし」(高峰氏)
贈賄業者は、別件の詐欺事件(教育委員会の公印を偽造して金融機関から融資金をだまし取った事件など)で勾留中であり、藤井市長が有利な供述をするよう働きかけることはできないし、同席者は、市長の供述と一致しているのであるから、働きかける必要もない(もちろん、今後、警察、検察が、同席者に拷問的な取調べを行って現金授受を見たと認めさせるというのであれば別だが)。
このような事件で、どうして「罪証隠滅のおそれ」があると言えるのか。
そもそも市議時代の30万円の収賄事件で現職市長を逮捕するということ自体が、この種の事件の捜査の常識からはあり得ない。それに加え、何と言っても、本件は、勾留10日足らずで、賄賂の授受がなかったことはほぼ明白となり、罪証隠滅のおそれもなくなったという特異な事件なのである。これらの事件の内容や捜査経過に関する問題点については【最年少・藤井美濃加茂市長収賄事件 担当弁護士郷原信郎氏独占インタビュー】で述べている。
このような事件で、美濃加茂市民が、一致結束して、市長の潔白を信じ、早期釈放を求めている。7月6日の日曜日から本格的に始まった市民の署名は、美濃加茂市の人口約5万5000人のうち、昨日までのわずか2日間で1万5000人を超えた(代理署名も含む)。
このような状況で、不当な勾留を続け、美濃加茂市政に重大な支障を生じさせているのは、憲法92条が保障する地方自治制度に対する重大な侵害である。
名古屋地検、愛知県警などが行っている美濃加茂市に対する不当な干渉を、名古屋地裁が、何の問題意識もなく丸ごと容認している以上、重大な憲法問題として最高裁判所による救済を求めるほかない。
(2014年7月8日「郷原信郎が斬る」より転載)