米ドル/円の「時間効果」を計測してみる
2014年10月31日に日銀が追加金融緩和を決定した後、1週間で米ドル/円は一時115円まで円安が進んだ。2012年9月時点の米ドル/円が80円前後であったことを考えると、この2年間で35円程度円安になったことになる。
ところで、この円安方向の動きはどの時間帯でも均一に起きていたのであろうか。または円安になりやすい時間帯があったのであろうか。過去データを用いて実際に検証しながら振り返ってみたい。
米ドル/円が円安になる時間帯には偏りがあった
以下の表1は、安倍氏が自民党総裁になった2012年9月26日から2014年11月7日までの米ドル/円の4時間ごとの終値の差分について総和を計算した結果である。
注目すべきは、この2年間の米ドル/円の円安に対する貢献度が時間帯によって大きく偏っている点である。米ドル/円はこのデータ期間に77.80円から114.61円まで動いており(36.81円円安)、(4):19:00~23:00、(6):3:00~7:00の2つの時間帯だけで33.74円も円安方向に動いている。
他の時間帯においてはこの2つの時間帯ほど円安方向への貢献度は大きくなく、驚くべきことに(2):11:00~15:00、(5):23:00~3:00の2つの時間帯については円高方向に寄与していたのである。
為替変動の総和の時系列推移についても確認しておこう(グラフ1)。貢献度が大きかった(1):19:00~23:00と(6):3:00~7:00の2つの時間帯の円安方向のトレンドは一時的なものではなく維持されてきたことが確認できる一方で、(2):11:00~15:00の円高方向へのトレンドも維持していたのである。
よって、米ドル/円はすべての時間帯で同質な動きをするわけではなく、各時間帯で異なる特徴をもち、かつその特徴を一定期間維持する傾向がありそうだ。
安倍政権成立前後で米ドル/円の動的特性は変わったのか?
では、安倍政権成立以前の民主党政権時においても各時間帯で米ドル/円の円高・円安傾向に違いはあったのだろうか。それともここ2年間のみ特別な動きをしていただけなのだろうか。
そこで、民主党が政権を奪取するきっかけになった衆議院選挙後の2009年8月31日から2012年9月25日までのデータについても同様の検証をしておこう。ちなみにこの期間の米ドル/円は93.48円から77.80円まで15.68円円高方向に動いていた。
表2とグラフ2から、(1):7:00~11:00、(4):19:00~23:00、(6):3:00~7:00の時間帯で円安方向に、(2):11:00~15:00、(3):15:00~19:00、(5):23:00~3:00の時間帯で円高方向に動いていたことが分かる。
つまり、少なくともこの約5年間については、程度の差はあれども、米ドル/円が円高方向に動きやすい時間帯と円安に動きやすい時間帯の相対的な関係性は変わっておらず、各時間帯のそれぞれの動く方向性の強さが結果として米ドル/円全体の方向性を決めていたということである。
以上から、この関係性がいつまで続くか分からないが、本邦投資家から見れば、主に(4)夕方以降や(6)深夜から(1)朝方にかけて外貨資産額が増加しやすい傾向があったことになる。
リアルタイムに実感しながら生活するには、睡眠不足な毎日を過ごす必要がありそうだ。
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株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 研究員
(2014年11月19日「研究員の眼」より転載)