5%から8%への消費税引き上げ以降、個人消費の低迷が続いている。
実質所得が増加していないことが原因だ。安倍政権も異例の「賃上げ要請」を産業界にしてきているが、なかなか効を奏さず、経団連の一時集計でも定昇込みで2.19%の賃上げにとどまり、ベア部分は0.3%程度であった。
失業率も完全雇用とも言える水準まで下がり、有効求人倍率はバブル期並みの水準と労働市場は大きく改善しているにもかかわらず、どうして賃金が上がらないのか。いくつかの理由がすでにあげられている。
(1)非正規、高齢者・女性の労働参加により労働者の構成が変化し、相対的に低賃金の労働者の割合が増加していて、平均賃金が上昇しない。
(2)正規と非正規の賃金格差が大きいので、正規労働者の賃金を上げる必要性がない。などだ。
もう一つの視点をあげておきたい。
外国人株主の増加、コーポレートガバナンス意識の高まりである。図表1をご覧いただきたい。
1990年に4.2%だった外国人株主比率は2014年には28.0%まで上昇した。
労働分配率の推移を見ると、外国人持株比率が10%を超えてきた1990年代後半以降、世界金融危機で企業の利益水準が壊滅的に落ち込んだ2008年2009年を除くと、低下方向に向かっているように見える。
90年代後半以降、日本の企業経営者は増加する外国人株主と否応なく相対峙するようになった。経営者は個別に機関投資家を訪問し、若い知識も十分でないアナリストにプレゼンし説明する。
利益が対前年で減少していれば厳しい言葉が投げかけられる。コンスタントな利益成長が求められる。日本経済全体が厳しい環境の中で、日本の経営者にとっては新たな苦しい経験の始まりであったと思われる。
その結果、日本の企業においてもROEに対する意識が高まり、外国人投資家の日本株への関心が高まってきたことは事実である。
しかし、コーポレートガバナンス元年などと言われる中、企業は利益志向をさらに強めており、永続的なコスト増となる賃上げに経営者はなかなか踏み切らない。
伊藤レポートも決して企業が短期志向で利益を追求していくことを求めているわけではない。
しかし、外国人を中心とする株主の圧力のもと、企業の重要なステークホルダーである従業員が軽視されてきたのではないだろうか。
安倍政権の「賃上げ要請」は正しい政策だ。日銀の賃上げETFも面白い取組みだ。しかし、従業員への配分を必ずしも重視しない文化が根付いていく中で、効果を発揮できていない。
日本にはもともと、従業員を大事にすることが企業の長期的な発展につながるという意識、文化があったはずだ。
こうした文化・規範を再び日本企業に取り戻す努力が必要だ。そのためであれば、政府による干渉も是とされるべきだ。
来年4月の消費税増税は先送りされるという見方が増えているが、増税に伴う物価上昇をきちんと春闘で賃上げとして獲得することが、増税が景気を押し下げないことにつながる。
次回の「賃上げ要請」は、消費増税の「前取り賃上げ」であるべきと考える。
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(2016年4月28日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
取締役 経済研究部 部長