来年1月から社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度が導入される。日本年金機構の情報流出問題もあり、個人情報保護への不安が高まる一方、同制度により社会保険料や税の徴収・給付が適正化されるなど行財政の効率化が期待される。
市町村に申請すると交付される個人番号カードは、旅券申請などの行政手続に利用でき、様々な日常生活の利便性向上の可能性も大きい。同制度の適用範囲は徐々に拡大される予定であり、銀行口座との連動や健康保険証としても使えるよう検討されている。
特に医療関連分野へのマイナンバー活用は大きな影響があるだろう。個人カードに健康保険証機能が付くと、医療事務の効率化や電子カルテによる患者データの共有化が可能になる。
マイナンバーは医療サービスの提供者にとってのメリットも大きいが、サービス利用者の利便性を最大化することが重要だ。現在の「薬手帳」の情報も個人カードに集約されて適正な薬剤管理が実施され、重複検査なども防ぐことができるだろう。また、時系列で検査結果を診ることで疾病予防にも活用できそうだ。
最近では、あらゆるものをインターネットに接続して効率的な管理を行う「モノのインターネット化(IoT)」事業が注目を集めている。産業機器やインフラに様々なセンサーを設置し、膨大なデータを収集・解析してシステムの管理運用に活かす技術だ。
アメリカのGE社は、航空機エンジンのセンサーから得られるビッグデータを駆使して、最適のフライトや整備計画を顧客に提供するビジネスを展開しているが、同様に人間の健康ビッグデータを収集・分析して予防医療に活かせないものだろうか。
文部科学省の『センター・オブ・イノベーションプログラム』では、ヘルスケア分野におけるビッグデータ活用を産官学が一体となって研究・推進している。
弘前大学を中心に進めるプロジェクトでは、膨大な地域住民の健康情報を解析し、認知症や脳卒中などの加齢性疾患の予兆発見と予防法の開発を進めており、『いかに健やかに老いるか』というテーマを追求している。
健康分野における「IoT」化は、健康ビッグデータの収集・分析を促進し、予防医療のイノベーションをもたらす可能性が高い。
マイナンバー制度の導入により、多くの個人情報が名寄せされるが、中でも優れて匿名性が必要な健康に関する個人情報はその取扱いに万全を期さねばならない。その上で、膨大な個人の健康情報を活用することにより、増え続ける医療費の削減と同時に国民の健康増進、生活の質の向上を図ることができる。
マイナンバー制度の導入がもたらす健康ビッグデータの活用は、医療・介護分野に関わる 社会保障制度の持続可能性を高め、新たな保健医療システムのパラダイムシフトを推進するだろう。
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(2015年7月21日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員