日本政府観光局(JNTO)の報道発表資料によると、2016年の訪日外客数は2400万人、2017年は4月までに既に900万人を突破、4月は前年同月比23.9%増の257万9千人と単月で過去最高を記録した。
その背景には航空路線の拡大や寄港クルーズ船の増加などがある。2020年には東京五輪・パラリンピックを控え、訪日外国人旅行者の増加はまだまだ続きそうだ。
外国人観光客の訪日目的としては、これまでの中国人の「爆買い」などによる「モノ消費」が落ち着き、日本での体験を楽しむ「コト消費」が増えている。
宿泊外国人に着物を貸し出すサービスを行うホテルなどもあり、都内各地では多くの外国人観光客が浴衣姿の散策や記念撮影を楽しんでいる。しかし、訪日観光客による体験型イベントが増加する一方で、あらたな課題も浮上してきている。
最近、銀座や渋谷などでは遊園地のゴーカートのようなミニカーに乗り、ゲームのキャラクターの衣装をまとって集団走行する外国人観光客をよく見かける。
東京の観光名所を眺めながら走りまわる「公道カート」は、訪日観光客にとって人気の体験型レジャーになりつつあるようだが、車が混雑する都内での交通事故が相次いでおり、安全性に関わる課題も多い。
「カート」は50CC以下のエンジンの4輪自動車のため、シートベルトやヘルメットの着装義務はない。外国人観光客が日本の交通ルールに不慣れなことや、カートの車高が低いためにバスやトラックなどの大型車両から死角になることも懸念される。
警視庁はレンタル事業者に対して、カートの視認性の向上やスタッフの先導なども含む安全対策の強化を図るよう要請している。
また、外国人が日本国内を旅行中に不慮のケガや病気により病院を受診するケースが増えている。訪日外国人の中には海外旅行保険に未加入のために、医療費を未払いのまま帰国してしまう人もいる。
国内の医療機関は、医療費の請求や回収のために膨大な手間とコストを強いられている。観光庁は、訪日外国人の医療機関利用ガイドの作成と同時に、保険未加入者への対応も急がねばならない。
訪日外国人の増加は、人口減少時代を迎えた日本経済にとってきわめて重要だ。2020年東京五輪・パラリンピックまでに訪日外国人旅行者4000万人という目標が掲げられているが、性急な社会変化は大きなひずみを生む。
「訪日外国人」急増の課題は、宿泊施設の不足などにとどまらず、急いては事を仕損じる。成熟した「観光立国」の実現には、22世紀を見定めた国内のハード・ソフト両面のインフラ整備を着実に進めるための長期的なロードマップが求められる。
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(2017年6月6日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員