物事に対する感覚というのは、人それぞれである。例えば、30度の気温を暑いと感じる人もいれば、そう感じない人もいる。また、同じ人でも、状況によっては暑いと感じたり感じなかったりする。温度計を使って気温を測ることはできても、人々の感覚まで測ることは難しい。
例えば、気温に応じて運転方法を変える空調設備を考えてみよう。この設備は、気温を一つの値で表す代わりに、ある幅で表す。例えば、「30度」という1点ではなく、「30度くらい」という風に表現する。
この「30度くらい」は、28度から32度までで、30度を山にした図として表される。図の縦方向は、0から1までの値で、どの程度の割合でその値に帰属しているかという「帰属度」を表す。このケースでは、帰属度は、その温度を30度と容認する人の割合を指す。
30度の場合は帰属度1、28度や32度では帰属度0、29度や31度では帰属度0.5である。つまり、29度や31度を、30度としてもよいと容認する人が半分いる状態を表している。(表現において、数学的な厳密さは省略している。)
このような表し方をファジー数と呼ぶ。ファジーというのは、「あいまい」という意味である。ファジー数を扱う理論は、ファジー理論と呼ばれる応用数学の1つの分野となっている。ファジー数同士では、加減乗除ができる。次のような「5くらい」と「2くらい」の計算をしてみよう。
まず足し算。「5くらい」と「2くらい」の和は、図のとおりとなる。2つのファジー数が合算されると、和のあいまいさは拡大する。
続いて、「5くらい」引く「2くらい」の引き算。足し算と同様、差のあいまいさは拡大する。
次に、「5くらい」掛ける「2くらい」の掛け算。この例では、足し算や引き算よりも、積のあいまいさは大きく拡大する。ただし、-1から1の間の数を掛け算する場合などでは、あいまいさが縮小することもある。また、山の左右が対称でないことも、足し算や引き算とは異なる特徴となっている。
最後に、「5くらい」割る「2くらい」の割り算。この例では、商のあいまいさの広がり具合は、足し算や引き算の場合とあまり変わらない。ただし、割る数が-1から1の間の数の場合などでは、商のあいまいさが大きく拡大することもある。また、掛け算と同様に、山の左右が対称とはならない。
将来の収支予測や、社会変化などのシミュレーション計算を行うときに、「累乗の計算をすると、誤差がどんどん拡大する」と言われることがある。
これは、何回も掛け算をすることで、あいまいさが大きくなることによる。掛け算を繰り返すときには、計算結果の信憑性に注意が必要となろう。
各種の統計で、統計値に誤差の程度が示されていることがある。そのような統計値をもとに、計算を行うときには計算結果に含まれる誤差の目安を確認することも必要かもしれない。
そのような場合には、ファジー数の加減乗除の結果をおさえておくと役に立つと思われるが、いかがだろうか。
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(2015年9月7日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員