中国全人代-当の国民が最も関心があるのは? (片山ゆき)

中国では5日から、この1年の経済や政治の目標を話し合う全国人民代表大会が開かれている。先の報道では李克強首相の映像とともに「経済成長率目標7.5%」、「国防予算12.2%増」というタイトルがよく目に付いた。

中国では5日から、この1年の経済や政治の目標を話し合う全国人民代表大会が開かれている。先の報道では李克強首相の映像とともに「経済成長率目標7.5%」、「国防予算12.2%増」というタイトルがよく目に付いた。

大会冒頭の李首相による「政府活動報告」の発言内容で、使用頻度の高い言葉上位5つは「発展」(119回)、「経済」(80回)、「改革」(77回)、「社会」(69回)、「建設(邦訳としては「構築」の意もあり)」(63回)らしいi。

ざっくりといえば、「経済」「発展」を維持しながら、産業構造の「改革」を進め、「社会」の安定、格差の是正に取り組む、といったところであろうか。

一方、経済、国防といった指標も大切だが、仕事柄どちらかと言えば気になるのが、「民生」=国民の生活に係わる目標だ。政府活動報告の発言内容を見ていて、ふと目がとまったのは2014年の数値目標よりも、むしろ政権1年目(2013年)の振り返りの最後の内容だ。

それは経済成長の成果は認めながらも「われわれの前途は多くの困難と課題が待ち受けていることをはっきりと認識している」という一文だ。更にこう続く。「大気・水・土壌の汚染が深刻なこと、就労における構造的な矛盾が拡大していること、住宅、食品・医薬品の安全性、医療、年金、教育、所得再分配、土地の収用、治安などの問題において国民の不満が募っていること」いずれも中国の社会問題として去年よく耳にした内容だ。

毎年、この政治的な機運が高まる時期を前に、メディア各社はこぞって国民の意識調査をする。国民が最も関心を寄せている問題を聞くためであるが、その中でも2002年から調査をしている「人民ネット」によると、2014年において最も関心のある話題は「社会保障」であったii。上掲の問題の中では、「医療」、「年金」がそれにあたるが、「社会保障」は4年連続で首位となるほど国民の関心が高い。

国民がこの時期に最も関心のある「医療」、「年金」問題について、上掲の政府活動報告でこの1年の目標をどのように言及したのか。目を皿のようにしてみてみたが、いずれも先の11月に行われた三中全会の施政方針で触れられた内容と同様で、それ以上の具体的な内容や明確な数値目標も見えてこない(図表-1)。目標として、公的医療、年金における制度の一部統合等が挙げられているが、これらはむしろ副次的な問題である。国民の関心や不満は医療費の値上がりや医療アクセスの難しさ、年金では年金財政の赤字化や公務員との受給格差といった課題がいつまでたっても解決されないことにある。

中国において、「発展」や「改革」の大前提には「社会の安定」がある。経済や政治に目を向けられがちであるが、政治基盤が安定していない現政権下にはおいては、社会を構成する国民により寄り添った具体的な施策が求められるのではないであろうか。国民の声をどこまで施策に結び付けられるのか、経済、政治とともに難しい舵取りを迫られている。

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片山 ゆき

かたやま ゆき |保険研究部 研究員


研究・専門分野

中国の保険・年金・社会保障制度


中国で保険事業が再開されてからおよそ30年。いまやその成長ぶりは経済をもしのぎ、アジアでは日本に次いで2番目のマーケット規模へと成長しております。経済成長の歩みとともに急拡大するマーケットには、生命保険が本来持つ「万一のときの生活に備える」といった相互扶助としての役割よりは「資産形成のための金融商品の1つ」と捉える向きがあるといった特徴があります。また、その一方で社会保険制度が整備途中にあり、生活の根幹を支えるような医療・年金保険への潜在的な需要が大きいのも事実です。成長を続ける中国保険マーケット・整備が進む社会保険制度の「今」を的確に捉えつつ、今後の方向性を見据えていきたいと考えております。

(2014年3月7日「研究員の眼」より転載)

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