お疲れ様です。直人です。
先日、渋谷であるミクシィのセミナールームにて開催された、第3回coconala未来会議というものに誘われ、参加してきました。テーマは「コンテンツビジネスの未来」。
なかなかそそるテーマですが、中心となったのは未来というよりはゲームやアニメといった、文化的な嗜好性が強いビジネスにおけるグローバル戦略論という感じでした。イベントの内容を中心に、勝手な考察を交えつつレポートしてみたいと思います。
Tokyo Otaku Mode について
Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)は、日本のオタク文化を世界に発信するメディア。日本のイラストやコスプレ等を紹介するFacebookページとしてスタートし、国内最大級の1,290万ファンを獲得した。
現在はシリコンバレーのベンチャー育成機関 500 Startups からの支援を受け、総合的にオタク文化を海外に発信する自社メディア運営と、撮影した写真を漫画風に変えるスマートフォン向けのカメラアプリ「オタクカメラ」などを開発している。将来的には文化の紹介だけでなく、関連商品の販売や各種企業とタイアップした形でのプロモーション支援を行っていきたいとのこと。
Mutations Studioについて
100万ダウンロードを達成したソーシャルゲーム、「カイブツクロニクル」製作者である桑田一生氏が率いるゲームスタジオ。1年間にゲームを10本作り、売れなかったら解散。売れたら翌年20本作り、売れなかったらやっぱり解散、というシンプルな会社。
「面白いものをつくる」という、欲望と、覚悟と、執念。それらをひっさげ、僕らは進む。「面白い」こそが、認められ、市場を制する。この世界のゲームに、もっと面白い「突然変異=MUTATION」を。
(同社ウェブサイトより)
某有名ソーシャルゲームを運用していることがばれ、ちょっと話題になったりした。
アニメやゲームコンテンツのグローバル戦略論
前半のプレゼンテーションは各社のクレデンが中心だったので割愛させていただく。後半は丸ごとパネルディスカッションだったが、前述の通り未来像というよりはグローバル戦略論が中心だったように思う。北米中心に活動するTOMが中心である以上、当然の流れかもしれないけど。
単純に売ることを考えた場合、デジタルコンテンツの世界は、用途が明確な「物理的な商品」よりも、文化的障壁の影響力が相対的に大きくなる。要するに、特にゲームやアニメは嗜好品なので、ニーズのあるなし以前に受け入れてもらえないと話にならない。
「文化的障壁」、好みの違いというのはどんなものか。
例えば、米国的価値観では、日本的なアニメキャラはリアリティが欠如していると受け止められるそうだ。ファイナルファンタジーのようなRPGの主人公や、ワンピースのキャラクターを想像して欲しい。米国人は、それらを見て「あんなに腕が細いのに、背丈より大きい剣を実践で使えるレベルで扱えるはずがない」とか「あの子の筋肉では、そんなに高く跳躍することは不可能」という違和感を覚えるそうだ。そういうわけで、アメコミのヒーローは男も女もムキムキマッチョでなければならない。
このあたりは、海外でキャラクタービジネスを展開した方からはよく聞く話だが、ディスカッションの流れとしては「じゃあ、そんな異文化に日本のキャラクターをどう売っていくの」という話になってくる。
正解のある話ではないのだろうが、パネラーの意見をまとめると、次のような仮説が浮かび上がってきた。
1.クリエイターは売ることを考えずに自分の世界観でクオリティを追求する
2.ディストリビューターは日本人の感性でコンテンツを厳選する
3.売り方は現地のマーケターに任せ、現地の文脈に合わせてコンテンツを埋め込む
以下、各項目についてディスカッションの内容をベースに、簡単に説明してみたい。ところで、ディスカッションの参加者はゲームやイラスト、フィギュア、コスプレ画像といったものを扱っている。自動車やブランド品を扱う場合とは前提が大きく異なる点にはご留意いただきたい。
クリエイターは売ることを考えずに自分の世界観でクオリティを追求
作り手側からの意見としては、Mutations Studio桑田氏の発言に迫力があった。
「アメリカ人の感性ってスポンジ・ボブみたいな感じでしょ?良し悪しの問題じゃないけど、僕にははっきり言って理解できない。理解できない相手を意識してもの作っても好みのものができあがるはずないじゃないですか。だから僕は完全に無視しますね。自分の作りたいものじゃないと、モチベーションも上がらないですし。」
だいたい、こんな感じのことを語っておられたと思う。なかなか筋が通っているのではないだろうか。なんとかして買い手の気持ちを理解しなければならない、というのは商売ありきの理屈だが、桑田氏は「会社の代表」というビジネスの視点と、「クリエイター」の視点の両面を持っている。この回答ではクリエイター気質が爆発していた。
日用品や世界的ブランドならともかく、趣味品やニッチ市場を相手にしてるのに、「理解できない相手にウケるもの」なんて作れるわけないだろ、常識的に考えて。うーん、確かに。
同氏は別の文脈で「日本のユーザー向けに自分の世界観を出し切って、それで受けなかったら解散する。」なんてことも言っていた。この辺の腹の決め方は、普段「成功の可能性をいかに高めるか」なんて、いかにも曖昧ことを日夜考えてる私自身にも突き刺さるものがあった。
繰り返すが、これは趣味品やニッチ市場に特に当てはまる。「海外や異文化の人に使いやすい包丁を考える」とはわけが違うことはご承知おきいただきたい。
ディストリビューターは日本人の感性でコンテンツを厳選
Tokyo Otaku Mode は前述のような、気概とかこだわりあふれるデザイナーの生み出したプロダクトを海外に紹介するディストリビューターであり、メディアでもある。
前述のように、文化的な嗜好性の違いをもったマーケットに対して、自国の豊富なプロダクトをどういった基準でピックアップしていくのだろうか。
TOMでは、日本と海外(主に米国)との嗜好性の違いを意識しつつも、「日本的オタク文化」をおもねりすぎることなく届けることを意識しているようだ。社内には5名程度の「オタクマイスター」的な人々がおり、彼らの過半数以上が「これは自信を持って異国に紹介できるレベル」という納得感が得られるものだけを取り上げているのだそう。その基準はコンテンツによってまちまちだそうで、例えば、コスプレであればデザインだけでなく縫製のレベルまでを、日本のオタク基準でチェックするとのこと。
前述のとおり、例えば米ユーザーの基本的な嗜好性は「ムキムキマッチョ」なのだが、ニッチ市場に刺さる製品を考える以上、その点で妥協しすぎると競争力を失ってしまう。翻訳や宗教的なタブーには配慮するものの、基本的に日本基準でやっていくということのようだ。
当然市場は限定的になり、地理的には全世界に点在することになるが、WEB上のメディアという距離の制約を受けないマーケティングツールを基盤にしていることがこの戦略を可能にしている。これは当然のことのように聞こえるが、キャラクタービジネスは物理的な在庫が前提として存在し、その償却を考えながらローカルなマーケティング戦略を作っていくことを考えると、TOMのやり方は業界的な盲点をついたことになる。
現地のマーケターが、売り場の文脈に合わせてコンテンツを埋め込む
最後に、そのプロダクトの存在をユーザーに届けるメッセージをどのように作りこむか、という点に関する議論を取り上げたい。
このあたりはAmeba Picoで北米やアジアのマーケティングに携わった難波氏の実体験がディスカッションの流れを作っていたように記憶している。パネラーの意見を総合すると、現地の文化に対するコンテキストの最適化は、異文化であるクリエイター側メンバーが集まって議論しても答えは出ないので、現地の人に任せた方がよい。安心して任せられる現地マーケティング担当の確保や目利きが重要、ということになりそうだ。
TOMはスタートアップということもあり、現時点ではプロモーションの作りこみもある程度自社で切り盛りしているとのことだった。グローバルを相手にしたマーケティングのプロフェッショナルでない彼らが各国独特のコンテキストを把握するために、自社メディアやFacebookページを通じてユーザーから寄せられるリアルタイムな反応が役立っていることは間違いないだろう。
終わりに
個人的には、コンテンツの流通と、マーケティングの間を抽象化するレイヤーにビジネスの可能性を感じた。文化を売るAmazonと言ったらわかりやすいだろうか。消費財以上に多様で繊細な商品に対して、最高の購買体験を提供することはできないかなー、なんて。
ITによるグローバル化の波は世の中というキャンバスを染めきれず、モザイクやマーブル模様の世界が広がっている。
規模や無限の成長を求める単純な拡大戦略は失敗する。「こだわり」という主観的でとがった商材を、以下にロスなくニーズとマッチングさせるかがポイントになる。 要するに、グローバルは「いかに広く普及させるか」ではなく、「いかに狭くターゲティングするか」のビジネスだ。
セミグローバリゼーションの世の中で、デジタルコンテンツのローカライズというテーマは「コーラの味を世界共通にすべきか」という問題以上に難しいのだろうけど。
■登壇者紹介
Tokyo Otaku Mode 小高奈皇光氏(共同創業者/CFO)
2000年、メリルリンチ証券投資銀行部門入社。その後ガイアックスの執行役CFO・管理本部長に就任。2012年にTokyo Otaku Mode Inc.の共同創業者として米国シードアクセラレーター500Startupsのプログラムに参加する。
Mutations Studio 桑田一生氏(代表取締役CEO)
大手オンラインゲーム会社を経て、2010年11月にアドウェイズ入社。「カイブツクロニクル」「煙に巻いたらさようなら。」などを担当。2012年に株式会社Mutations Studioを設立、代表取締役CEOに就任。
パネルディスカッション参加
難波俊充氏(株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ SVP)
南章行氏(株式会社ウェルセルフ代表取締役)
新明智氏(株式会社ウェルセルフ取締役)
Mutations Studio新作ゲームのイメージイラスト