昭和天皇の玉音放送で終わりを告げた第二次世界大戦から70年を迎えます。その矢先に安倍政権は、日本における戦後の歩みを変える安全保障法関連案を成立させようとしています。この安保法制が実施されれば、戦争をしない国ではなくなってしまうでしょう。
軍産複合体は、日本にその最も緊密な同盟国であるアメリカの軍事負担を共有させようと渇望しています。先般、日本は、北大西洋条約機構(NATO)のミサイル共同開発への参加に関心を示しました。こうした態度は日本の「普通の国」化とシームレスに繋がっており、これは世界の安全保障を揺るがすものと私たちは懸念します。
日本とアメリカをまたぐ学者として、私たちは安保法制に反対し、何が起きているか分からない人には、現状を知るよう求めていきます。これは「代表なき立法」であり、さらに言うならば、専制支配に足を踏み込むものとも言えます。
憲法9条は、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する、と規定しています。しかし、今次の安保法制は憲法9条の明白な違反を犯し、自衛隊が海外で積極的に米国や他国の軍隊の武力行使に関与することを認めるものです。もし安保法制が成立すれば、日本に対する武力攻撃がないときでさえ、集団的自衛権の名のもとに、武力を行使できるようになります。端的にいえば、適正な手続に従った憲法改正によらない、憲法9条の無効化です。
このようにして憲法の制約や国民の反対意見を軽視する安倍総理が、いくら安保関連法案は日本の軍事的役割を厳格に制限すると発言したところで、それはまったく信じるにたりません。
戦後60年以上、専守防衛が戦後日本の安全保障政策の根本原理でした。しかし安保法制は、この原理に違反する武力の行使を可能にし、時の政府に実質的な歯止めのない自由裁量を与えてしまうものです。
日本は唯一の被爆国であり、圧倒的に多くの日本人が各国と平和な関係を保ちたいと願っています。憲法9条の尊さと、それに基づき戦後育んできた平和主義の伝統を守りたいと考えているのです。戦争を放棄したということは、日本が平和国家として世界に誇る「ブランド」です。また、戦争を放棄したことによって、日本は世界的な経済文化大国として発展し、人道支援や災害救助、開発援助を通じて世界の人びとの信頼を勝ち得てきました。
もし安保関連法案が可決されれば、日本はもはや安全保障における平和と非暴力のパラダイムを提唱することができなくなります。私たちの見解は、日本の平和憲法は改変すべきではなく、むしろ他国のモデルとして維持されるべきであるというものです。ましてや、一人の総理、一つの 政府の独断的な判断で解釈改憲することなど許されることではありません。学問の自由を保障する憲法23条に基づき、私たちは「安全保障関連法案に反対する学者の会」の賛同人として発言しています。ナンシー・スノーは、慶応大学に安倍フェローとして在籍しており、かつては上智大学にフルブライト・スカラーとして招聘されていました。中野晃一は今春、日本外国特派員協会より「報道の自由の友」賞を与えられた上智大学の政治学者です。
私たちは、国民の意見を無視する政府に対して抗議を行っている、学者・学生・法曹・労働者そして「ママの会」などの行動を支持し、連帯を表明します。 日本は、アメリカにとってアジアで最も緊密な同盟国ですが、私たちはこの二つの国家の関係は「民主的な同盟」として存立すべきと考えます。 市民と対話することを拒絶するこの政府に強く抗議します。私たちは、日本の戦後の歩みに取り返しがつかない傷をつける前に、民主主義や憲法に基づく適正な手続きを守るよう、安倍政権に訴えていきます。
安倍政権は国民に関心を払っていません。
憲法96条は、「憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定めています。しかし安倍政権は、憲法上定められた憲法改正の手続きを経ることなく、国会で安保関連法案を強引に通過させることで、憲法の制約を免れようとしています。
私たちは、同じ見解を持つ何千人もの学者、何百万人もの日本国民とともに、安倍政権の安全保障関連法案に強く反対することを表明いたします。この反対行動は、日本国民への深い共感と愛着心によるものです。
そもそも違憲立法であることを措いたとして、安倍政権に安全保障関連法案を推し進める国民的なマンデートがあるとは到底言えません。 安倍政権が衆参両院で過半数の議席を有しているのは、戦後最悪の棄権率、 野党の乱立、メディア統制、小選挙区制による議席配分の歪曲、裁判所で再三「違憲状態」と判断された 一票の格差などによるものです。
現実には、有権者四人のうち一人だけが安倍政権の自民党に積極的に投票しているにすぎません。にもかかわらず、安倍総理は「二、三十年のうちに私が正しかったことは証明される」とうそぶいて、国民の広範な反対を軽蔑し、無視しています。政府は国民の声に敬意をもって耳を傾けるべきです。
安全保障関連法案は、人間の安全保障に関わる日本の世界的な評判を貶めるものです。人間の安全保障とは、人びとのニーズや権利を第一に考え、開発学、教育、平和目的の科学技術、平和学などのプリズムから複合的に世界を理解する安全保障のパラダイムです。
1994年に発表された国際連合の人間開発報告書は、グローバルな人間の安全保障概念を提唱し、「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」をすべての人びとに対して推進するとしています。しかし今日の日本では、貧困指標が悪化し、高齢化が進み、財政赤字が増えつづけており、このような状況で安保法制を成立させてしまったら、人間の安全保障ではなく、インセキュリティが進行してしまうことになります。安倍総理は、歯止めなき再軍備や歴史修正主義に耽溺し、中国に対して「法の支配」をお説教する前に、日本国内で「法の支配」の原則を守るべきです。
安倍総理の下で暴走する国家権力を見て見ぬふりをするとしたら、アメリカは、アジア太平洋地域の緊張を悪化させるだけでなく、立憲主義、民主主義、そして平和という戦後的価値を我がものとして愛するようになった日本国民を敵に回しかねないことを自覚すべきである。
このブログはハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。