これまでにない猛暑と言われた2015年の夏も、もうすぐ終わりを迎えようとしています。酷暑の夏をしめくくるのは、優しく聡明なある日本人女性のストーリーです。
池原真佐子さん、若き人材開発分野のプロフェッショナルです。独自の手法を用いて働く人たちの声を聞き、一人一人のプラスの部分を引き出す、いわば"良き伴走者"。その池原さんは今、自身と同じ"女性"の声に耳を傾け始めています。
日本の女性は、優秀なのに何かが足りない。それは"自信"だ - そう感じた池原さんは、その根本の理由を、海外で出会った女性たちと照らし合わせながら徹底的に考えました。そして、ある答えにたどり着きました。
折しも来たる8月28・29日には「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(World Assembly for Women in Tokyo, 略称:WAW! 2015)」が開催されます。世界各国や日本各地から、女性分野で活躍するトップリーダーが出席し、日本や世界における女性の活躍推進のための取り組みについて考える2日間。それに先駆けてMy Eyes Tokyoから、日本人女性に向けて一筋の光をお届けできればと思います。
*インタビュー@六本木
■ 自信を持てない女性たち
昨年起業し、"MANABICIA"という会社を立ち上げました。その活動の一環として、最近たくさんの女性に「感情を言葉にする」セッションをさせていただいています。その際に海外で開発されたツールを使用するわけですが、それを通じて強く感じたのは「キャリアに対する展望が持てない女性が多い」ということでした。最近では政府が女性の社会での活躍を後押ししていますが、肝心な女性たち自身が - たとえいくら優秀でも - 自信を持てず、しかも他者と比較する中で気後れして「私なんかダメだ」と一人で思ってしまい、前に進めない女性がたくさんいることを感じました。
なかなか前に一歩踏み出せない。その末に、せっかく手にしたチャンスを生かせなかったり、難易度の高い仕事を諦めてしまったり、たとえ制度や環境が整っていたとしても職場復帰に気後れしてしまっている。すごくもったいないことだと思います。
でも一方で、セッションが終わった後に、多くの方のお顔がパッと明るくなるのを感じます。私が特別にその人に何かをしてあげたわけではありません。ただ私は、前述のツールを使ってその人の中にあるイメージを引き出し、出てきた言葉に対して「これは、こういうことですか?」と整理するだけです。そうするとクライアントは、気持ちがさらに具体的な言葉になって「私はこう考えていて、こういう問題で悩んでいて、その悩みはここから来ているのです」と、きちんとした文章で語れるようになります。
私はここに、世の女性たちが自分に自信を持つためのヒントがあると考えています。
■ "強い"女性たちとの出会い
私も昔は、自分に全く自信がありませんでした。「どうやったら自信を身につけられるのか」が、私にとってひとつの課題でした。他のキラキラした誰かと自分を比べてずっと生きてきました。そういう人と比べることから逃れられず、苦しい思いをしていました。
そんな状態で、私はシンガポールにあるINSEADというビジネススクールに入学しました。この学校はもともと経営学が中心です。しかしリーダーとなるには、左脳的知識だけではなく、創造力や心といった右脳的側面を育てなければいけないということで、臨床組織心理学やコーチングをパートタイムで学べるユニークなコースがあります。日本で会社員として働いていた時、社内ですごく優秀な人たちや、人格的にも大変尊敬できる人たちに出会ったのがきっかけで「"魅力的な人材とは何か"を深く知りたい」と思い、入学を決意しました。会社員として働いたり、途中で起業もしたりながら、東京から定期的にシンガポールに通うのは本当に大変でしたが・・・
このコースには世界中から36名の人たちが学びに来ており、生徒の国籍も宗教も様々。しかも皆さん、私よりも年齢が上で、世界的大企業のトップクラスの人たちが学びに来ていました。
私は自分が女性ということもあり、クラスメイトの女性に注目しました。彼女たちは、みんな良い意味で強かった。具体的に言えば「自分で自分の意思をハッキリと伝えることができ」「キャリアを自分の手で築いていった」人たちでした。だから、すごく自信にあふれていました。ここで言う"自信"は"謙虚だが卑屈ではない"という態度です。
彼女たちが持つ"自信"の源は、一体何なのか - その答えは、それから程なくして分かりました。
■ 自分の気持ちを言葉にする - 自信への第一歩
クラスでは徹底的に「自分の気持ちや感情を的確な言葉にして人に伝える」ことを求められました。しかも1分や2分ではなく、何十分も何時間もです。事前準備もありません。それでも私の周りの女性たちは、自分の考えていることや今の思いを人前でスラスラと話しました。ただ単に出来事を語るだけでなく、瞬間瞬間の感情の動きまで細かく言葉にしていました。
一方で私にはそれができず、3分で話が終わってしまったこともあります(笑)。だって日本語でもそんな経験は無かったし、そのような訓練も受けていませんでしたから。当時から私自身も日本でコーチングや人材育成の仕事をしていたにも関わらず、自分の感情をきちんと言葉にして伝えることができなかった。"気持ちを外に出す"ということを、あまりにもしてこなかったことを痛感しました。
もし私たちが「自分の今の気持ちをきちんと言葉にする」機会をもっと持てたら、自分のことをより深く理解できるし、仮に私たちが道に迷ったときも「自分がしたいことは何なのか」がもっと明確になり、自分の道を決めるときの道しるべを見つけることができると思います。
もやもやした気持ちを抱えて前に進めないでいる、つまり"自信が無い"状態ですが、そういう時に「何で自分の気持ちはもやもやしているのか?」を、自分に対して言葉にして説明する。そうすれば気持ちを整理できるし、他の人からのサポートも得られ、最終的には自信を得ることにつながってくると思います。自信を持って道を切り拓いていく人に共通して備わっているのは、感情を整理しようとする、そしてその感情を的確な言葉にして他者に伝えようとする姿勢だと思います。
ちなみに私自身、最初は3分で終わってしまった"自分の今の気持ち"のプレゼンでしたが、1年半かけてようやく1時間近く話せるようになりました。
■ 他人と自分を比べずに 自分と向き合おう
クラスメイトの女性たち、そして、私が学生時代からずっとロールモデルにしている親友のコロンビア人の女性研究者がいるのですが、彼女たち全員、共通して"他の誰かと比較して落ち込む"ということがありませんでした。もちろん悩んだりもがいたりします。ある時など、とあるグローバル大企業のトップにコーチングをしたことがあるのですが、その方は涙をボロボロこぼしながら自分の弱さを話し始めました。「誰もが憧れるキャリアや生活を手にしても、抱えているものはあるのだ」と改めて実感した瞬間でした。このように、誰にも悩みはあるのです。
*写真提供:MANABICIA
でもそれは「過去の自分と比べてあまり変わっていない」とか「自分の理想像になかなか近づけない」「自分が思い描く"良いリーダー"になりたいのになれない」といった、あくまで"自分"を基準とした悩みです。
しかし何となくですが、日本だと、自分の理想像が"キラキラした他人"になってしまう人が多い気がします。あるいは、他人が決めた" こうあるべき"という他者目線の基準。でも私たちは自分以外には決してなれない。だから余計に悩むのだと思います。
自信の"種"というのは、本来であれば自分の中にあるものだと思います。でも私たちは、他の人との比較を通じて自信を得ようとしたり、また自信を失ってしまいがちです。それに追い打ちをかけるように、メディアなどではキラキラした人たちの輝かしい事例ばかりを見せつけられる。恐らくその人たちはとてつもない努力や多くの失敗を経験していると思いますが、その部分はなかなか見えない。そんな表面的な情報で私たちはプレッシャーをかけられてしまいます。「私はあのような人にはなれない」と。
そうではなく、他の誰かと比べないで、ただひたすら自分と向き合って、自分自身の良いところを探していく。そして新しいことにチャレンジする時に「私はできる!」と思えるようになればいいなと思います。ロールモデルを持つことはもちろん重要ですが、もし「あの人みたいになれない」と自信を失ってしまうのであれば「そもそもあの人みたいになる必要があるのか?」と自分に聞いてみても良いと思いますね。
■ 一歩を踏み出せない女性に寄り添いたい
今では代表という肩書きのもとに仕事をし、一方でこれまでの経験を生かす形で大学や企業などで講師もさせていただています。もしかしたら私自身が、迷い無く突き進んでいるように見られてしまうかもしれません。
でもそれらは、決して元から自信があるからではありません。ただ心に決めたゴールを、オリジナルの価値でもって実現させたいという想いがあるだけです。失敗も数えきれないほどしてきたので、多少転んでも恥ずかしくないというのもありますが(笑)
そのゴールとは「女性が自信を持って社会で活躍できるように、彼女たちを意識の面でサポートする」ことです。何かを決断した後のメンタルサポートをするだけではなく、その手前の「モヤモヤしている」「何となく自信が持てない」「行動の一歩が踏み出せない」・・・そんな状態の女性たちの心理的準備を整える取り組みを、今まさに開始しようとしています。それを通じて、より多くの女性が"次の一歩"を踏み出せるよう、日本の女性のキャリア形成を後押ししていこうと思います。
私はキャリアの面でも寄り道ばかりでした。でも、様々な経験を通じて"誰かと比べることのない"女性たちに出会い、そしてやっと気がつきました。「誰かと自分を比べてもしょうがない。私は私でしかないんだから」と。それでようやく、誰かと比べる人生と訣別できました。
私は「自らの意思で選択し、自信を育んで豊かな人生を築く」ような女性が、この社会にもっと増えていってほしいと思います。どんな選択だって良いのです。ハイキャリアを追求していようがいまいが、他人から見てキラキラしていようがいまいが、"自分で決めた"という納得感があれば、それで良いと思います。
女性の活躍推進に向けて、法的な整備、保育園や託児所などの設備面の拡充はまだまだ必要です。それに加えて、働く女性、働きたい女性への意識面での継続的なサポートも必要だと考えています。私は、意識面で貢献したい。一歩踏み出せないでいる、または踏み出すことを躊躇している女性たちに、私は寄り添っていきたいです。そのための具体的な道として、私は彼女たちが"自分の感情をきちんと言葉にする"ことへのお手伝いをしていきたいと思います。
*写真提供:MANABICIA
■ 池原さんが理想とする世界は、どんな世界ですか?
美しく生きる人たちがたくさんいる世界です。
私には人生のテーマがあります。それは「美しく生きる」です。ここで言う"美しい"は、表面的なきれいさだけではなく、その裏の汚さや醜さ、直視したくない弱さなどすべてひっくるめたものです。清濁合わせ呑んだゆえに生まれる複雑さや繊細さこそに、美しさが宿ると私は思います。ネガティブな部分も全て受け止め、弱さも認めた上で生きていくこと。これが私にとっての「美しく生きる」ことです。
一人一人が自分の決断に自信を持って、何かに挑戦していく - それが美しい生き方だと思います。私はそのような生き方をする女性を増やしたいし、私自身もそんなふうに生きたいと思っています。美しい生き方をする人が増えたら、それが世界を美しくしていくと思います。
【関連リンク】
株式会社MANABICIA:http://www.manabicia.com/