(ソフトバンクモバイル・池田さん)
■ソフトバンクの"大義"とは何か
最近、世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」を発表したり、アメリカでの企業買収でも話題のソフトバンク。
そんな、ガンガン攻めている印象があるソフトバンクですが、実はCSR(企業の社会的責任)活動もアグレッシブに動き始めています。
今回は先月にiOS版が発表された、寄付アプリ「かざして募金」(au/docomoでも利用可、アドロイド版は3月からスタート)について、ソフトバンクモバイル・CSR企画部長の池田昌人さんに話を聞いてきました。
スーパー・パラレルキャリアといいますか、ソフトバンクグループ合計8社のCSR・社会貢献関連業務を兼任をする池田さん。まさに、ソフトバンクの"CSRのキーパーソン"である池田さん自身が目指すものは何か。そして、ビジネス界では知らない人がいないであろうソフトバンク・孫正義社長が考えるCSRとは何か。
また、具体的なソフトバンクのCSR活動や現場の苦悩、ソフトバンクが、CSRにどんな"大義"を設定しているのかなども聞きいてきました。ソフトバンク・孫正義社長の理念「情報革命で人々を幸せに」を背負い、ソフトバンクグループのCSRはどこに向かうのか。
社会貢献・CSRにおけるマーケティングに興味があるビジネス・パーソン必見です。
■AKBもびっくりな、グループ8社の兼任
今回お話を聞いた、池田さんのプロフィールを。
池田さんは、1997年に、今のソフトバンクモバイルの前身の前身の前身の前身くらいの東京デジタルホンという通信会社に入社。その後、J-フォン、ボーダフォンと社名変更を経て、今のソフトバンクモバイルの勤務となります。「現在6社目くらいなのですが、気持ち的には1社目に勤めている感じです(笑)」とのこと。
もともと営業・マーケティングのキャリアでずっときて、2011年の東日本大震災を機に、マーケティングからCSR部署(復興支援)に。キャリアとして、営業からマーケティングに進んでいき、このままマーケティングの道を極めていくんだろうと、思っていた矢先のできことだったそうです。
ムダではないとはいえ、10年以上続けてきたスタイルから180度転換した、真逆のキャリア・チェンジしたわけです。決断には相当悩んだ、というのもわかる気がします。
ちなみに、池田さんは、社名でいいますと、ソフトバンク、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBB、ワイモバイル、あとは、教育事業のエデュアス、自然エネルギー事業のSBエナジー、復興支援活動をする東日本大震災復興支援財団(以下、財団)にも出向し、ソフトバンクグループ合計8社のCSR・社会貢献関連業務に携わっています。
AKBもびっくりな、グループきってのエース兼任メンバー。もちろん、1日24時間(業務時間はもっと短いけど)しかないので、「ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム」のグループ内で通信3社と呼ばれる会社での活動と、財団、SBエナジー、という大きく3つの活動を中心に活動しているようです。
エースなのはわかりますが、僕だったら、どこかに集中したい気もしますが...(苦笑)すごい人だということだけは、認識できました。日本中探しても、こんな希有なパラレル・キャリアの持ち主はいないでしょうなぁ。
■「かざして募金」のKPI設定と、現状の課題
では、本題の質問の話を。寄付アプリ「かざして募金」について。
クリック募金みたいなのも含め、スタートアップが作った日本語寄付アプリはなくはない。でも、主要通信事業社が他社携帯でも使える寄付アプリを作ったという話は多分ソフトバンクが初だったはず。「かざして募金」は、決済方法がクレジットカード払い限定となりますが、ソフトバンクユーザー以外でも使えるんです。これすごくないですか?
ソフトバンク製のアプリが、docomoやauのスマートフォンに入る時代。社会貢献・ソーシャルグッド領域だからこそできた、ということもあるかもしれません。そんな「かざして募金」ですが、僕がお聞きしたかったのはKPI(重要評価指標)をどこに設定しているか、ということ。
で、池田さん曰く、大きく3つあり、登録団体のPR状況、ユーザー認知度、利用状況(ダウンロード数、寄付金額)、という指標を毎日チェックしているとのこと。
どんなに簡単・便利な寄付アプリだったとしても、あくまでもツール(手段)の話であり、寄付するという大義(目的)につなげなければ意味がないわけです。ソフトバンクの課題としては、ユーザーにツールを提供できても、どこどこのNPOに寄付するという大義名分までは提供できない、という点があるそう。
たしかに、この手のアプリ全般で言えることですが、開発者側の多くは手段としてのツール提供しかできません。むしろ、寄付されるNPO側が、アプリでも寄付できるよ~、みたいなPRが必要になるわけです。ですが、ここに壁があります。
そもそも、NPOは特定の社会課題解決活動をする団体。エバンジェリストと呼ばれる、熱心なファンや支援者も特定の社会課題解決に興味がある人なのでそこまで多くない。となると、そもそものPRにおけるインパクトが出しにくいのです。構造的に。
また、非営利団体ということで、PRに予算をかけられる団体は多くなく、リソースが不足しがちになるという課題もあります。ソフトバンクさんも、チラシを作ってNPOに配布したり、ウェブ・サイト用のバナーを作ったり、PRツールを色々作っているようですが、根本的な課題解決にはなっていないようにも思います。この「登録団体のPR状況」っていうKPIは思ったより重大なポイントになりそうですね。
他のチャリティ・プログラムでは「チャリティホワイト」という通信プランがあります。このプランはユーザーに毎月10円を寄付してもらい、ソフトバンク側も10円を加えて、1ユーザーで合計20円を寄付をする、というもの。今は200万人弱が登録してるそうです。
200万人。これは単純にすごいことだと思います。それだけの人が継続寄付する仕組みを作り、先日累計寄付金額が6億円を突破したそうです。素晴らしい。
■孫正義社長のCSR観
ミーハーな僕としては、ビジネス界では超有名人の孫正義社長がCSRについてどのように考えているのかということを知りたかったので、普通に質問してみました。で、以下は池田さんのご返答です。
孫は、CSRについて理解しています。弊社の企業理念は「情報革命で人々を幸せにする」なんですね。孫の中では、事業が持つ社会的要素を強く意識しているので、CSR活動単体でイケイケという感じではないと思います。もちろん、CSRの理解はしていますし、すべきだと考えています。CSRレポートの中の社長メッセージでも「情報革命で人々を幸せにする」についてふれています。
今年3月に行った「かざして募金」の記者発表(アンドロイド版のローンチ会見)の中で、孫は「こういった我々のCSR活動や、テクノロジーなどが社会に役に立つのであればぜひ進めていきたい」という趣旨のコメントをしましたが、あれが本心だと思います。あと、孫は事業家ですので、コストだけをかけるCSR活動や社会貢献をグイグイやりたいとは思っていません。私もそう思っています。ですので、ソフトバンクグループとしては、今後もコストモデルだけのCSR活動を拡大させるということはないと思っていただければと。
このあたりは、企業のCSR部の方より、経営者や経営層の方は、すごく納得できるコメントかと思います。
僕が思うに、この企業理念とCSR活動のイメージが近い領域になるって、とてもすごいことだと思います。多くの日本企業では、経営理念とCSRミッションの整合性がないような所も多いですから。
ちなみに「CSRレポート2013(PDF)」の社長メッセージでは、「情報革命で人々を幸せにする」が何度も出てきます。CSRと経営がトップの頭の中でリンクできている良い例かと思います。
■注目の社会貢献・CSR活動
最後に、色々な話をお聞きする中で気になった活動を紹介します。「社会に貢献するビジネスアイディアコンテスト」と「だれでもリサイくじ」です。
「社会に貢献するビジネスアイディアコンテスト」とは、従業員から社会貢献的なビジネスアイディアを募集して、コンテスト形式で採択されたものを実際にサービス導入する、というものです。
実例として、「シニアクルー」という、シニアの方がシニアの方に同じ目線でデバイスの使い方を教えるというサービスがあります。すでにサービス導入されているのですが、販売店舗の現場シニアスタッフ雇用よりも、iPadやiPhoneをご購入いただいたりした数字のほうが高くなっているのです。シニアクルーによるシニア向けスマートフォン利用の教室も盛況らしいです。シニア支援だから、社会貢献だからといって、コストモデルになる必要はないんですよね。
他には、手話学習アプリ「ゲームで学べる手話辞典」というアプリも生まれて、実際に販売されています。3Dで360度から見れますので、イメージしやすいですよ。普通、正面の絵ばかりですけど、鏡と一緒で実際とは逆になるので覚えにくかったりしますが、このアプリは実演を後ろからも見れるのでわかりやすいです。ビジネス的には、このアプリを売って儲けるということではなく、アプリを通じて得たデータを販売していくというものが想定されています。
このコンテストから延べ数千のアイディアが出ており、マーケティング的というか、一つの社会貢献活動のビジネスモデルとしては有効な取組みだと感じました。社会に貢献し、利益に貢献する、社会貢献ビジネス。アイディアコンテストの詳細は「CSRレポート2013(PDF)」からどうぞ。
もう一つの注目プログラムは「だれでもリサイくじ」。「だれでもリサイくじ」とは、携帯電話リサイクルキャンペーンです。携帯電話のリサイクルによるレアメタル回収で、コンゴの鉱物紛争を解決しようというアクションでもあります。ただの環境活動として携帯電話リサイクルをするだけではなく、そのまわりに存在する社会課題にもフォーカスした取組み。
今現在、コンゴのレアメタル鉱山をめぐって、地域コミュニティや村の破壊が進んでいると聞いたことがあります。その地域課題も解決したいということで、携帯電話のリサイクルを進めてレアメタルのリサイクルもしつつ、なおかつ、1台あたり5円をソフトバンクから、現地で活動する日本のNPOを通じ、コンゴの子どもたちの教育支援なども展開すると。一石二鳥どころか、三鳥、四鳥にもなる取組み。素晴らしい取組みですよね。
■余談
取材後(19時くらいから)にソフトバンクさんの社食にお邪魔させていただき、チャリティービールをいただいてきました。毎月1回、チャリティビール(寄付が付いたの100円ビール)の日を実施しているとのこと。ビール1杯・おつまみ1品で10円が東北の高校生の教育支援につながるというアクションだそうです。100円ビールが社食で飲めるというのもあると思いますが、めっちゃ混んでました。
復興支援活動を中止する首都圏の企業が多い中、今でも継続しているのは良いですね。また、従業員を巻き込んでいる所も評価が高いです。集まった金額は数十万円レベルだそうですが、金額のインパクト以上の価値を生み出していた気がします。
今回お聞きしたプログラムやCSR活動では、課題もいくつもあるようです。特に、今回話をお伺いした「かざして募金」は、とてもユニークで前例のない取組みなだけに、色々試行錯誤しながらのようでした。
今は、いわゆるCSR先進企業とは言われていないソフトバンクですが、プログラムを形にできれば、そう呼ばれる日も近いのかもしれませんね。アプリや社内プログラムそんな寄付とか社会貢献が特別な活動ではなく日常の行動に組み込まれた社会になると、日本が今よりも、ちょっとハッピーな社会になっているのかも。調子に乗って、ビールを何杯も飲みながら思った僕でした。
(「ソフトバンクのキーパーソンが仕掛ける、次なる一手「かざして募金」」より修正し転載、取材協力:CSRビズ)