こんにちは、女性活用ジャーナリスト/研究者の中野円佳です。8月頭に、地方創生で注目される徳島県神山町に親子総勢14人の「子連れ視察」に行ってきました。視察が絶えないという神山町ですが、今回のような団体の子連れははじめてとのこと。サテライトオフィスの方々のお仕事を若干妨害することになりながら、今後の「子連れサテライトオフィス」「子連れ出張」の可能性を探りました。
私は新聞記者時代、地方創生関連の取材で鳥取県智頭町や岡山県津山市などを訪れたことがあるのですが、そのとき切に思ったのは「我が子を連れて来たかった」ということでした。「子連れ出張」は、たとえば地方都市であれば現地でベビーシッターを手配し、仕事をしている間子どもはホテルの部屋で見てもらうというような形でやろうと思えばできます。でも、そうではなく、「子どもにも訪問先の魅力を味わってもらいながら、自分も仕事ができたらいいのに」と、とりわけ都会育ちの私は感じることが少なくありませんでした。
そこに今回お声掛けいただいたのが、「子連れ神山視察団」のお誘いでした。数年前にワーキングマザー向けイベントで知り合った人材紹介会社社長の高藤悠子さんが「以前神山町に視察に行ったが、今度は息子を連れていきたい。自分たちだけではつまらないので、一緒に行く親子はいませんか」とFacebookで呼びかけていたのです。
もちろん全部自費で、この記事もブログなので原稿料も交通費も出ません。私は妊娠7か月、夫はその期間休みは取れない...。「真夏にワンパク3歳児を連れていけるか」とちょっとためらったものの、このような機会でもない限り、子連れでは行けないかもしれないと手を挙げました。
結果、合計5家族、7人の大人と7人の子どもが同行することに。旅程は高藤さんと現地のNPO法人グリーンバレーの方々が連絡を取り合い、貸し切りバスの手配から子どもたちのためのアクティビティのプランまでを組んでくださいました。
初日は、サテライトオフィス第一号となった名刺管理サービスのSansanや、東日本大震災後にバックアップオフィスとして古民家が改修されてできた「えんがわオフィス」を見学後、神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会会長の杉本哲男さんの案内で大栗山のアートツアーへ。子どもたちはSansanのハンモックに大喜び。山の中に現れるアート作品に感動するのはもっぱら親で、子どもたちはトンボやヒグラシ、クロアゲハを追い回して虫捕りに夢中...。
宿泊したのは、7月にできたばかりのWEEK神山。共同出資でうまれた宿泊施設で、「えんがわオフィス」の生みの親である隅田徹さんが「持ち回り制の1年目」として代表を務めているそうです。夕飯は宿泊している人たちが1つのテーブルで大皿の料理を囲み、隅田さんも加わる形。自然と「神山に来たキッカケ」など会話が弾み、客同士も交流するような空間になっていました。
今回の我々のような視察は初めてといいますが、隅田さんは「神山町を子連れ出張に使ってほしい」といいます。今もSansanでは東京オフィスのメンバーが1週間神山で過ごす合宿などをひらいているそうですが、その期間子どもたちは自然体験を楽しみ、親はサテライトオフィスで仕事をするということができれば理想的ではないでしょうか。
地方へは、自然豊かな環境を求めて「子育て移住」をするケースもありますが、常に課題になるのは親の仕事です。過去、私が取材した中では、夫婦でフリーランス的な働き方をしている事例、父親は単身赴任で地方都市で働いて週末に母子が住む地域に通っている事例、現地の限られた雇用先を確保できた事例などがあったものの、多くの人が選べる選択肢にはならないという難点がありました。
その点神山町は、新たな働き方をすでに提示しており、雇用も生まれています。また、必ずしも移住を促すのではなく、「子連れ出張」「子連れ合宿」と言った短期的な訪問を歓迎してくれるのであれば、子どもの夏休み中に親が働く必要がある期間の過ごし方として新たな選択肢になる可能性があると感じました。
2日目は夫婦で移住してオーガニックの農園を営まれているチーノさん農園(http://picocino.jp)で農業体験と、元自然学校職員で移住者の下本隆司さんの指導のもとで川遊び。3日目は今はホテルとしては使っていない神山スキーランドホテルで釣りを満喫しました。ヨソ者が遊びにいくと何に注意をすべきなのか、特に川遊びではどこが危険なのかが分かりません。複数家族で行くことで現地の方にご同行を依頼でき、子どもたちも1家族で行っただけではとても経験できない挑戦ができたのではないかと思います。
今回のアクティビティはすべて親同伴だったのですが、子ども同士、子どもと他の親、現地の方々などの様々なナナメの関係が生じ、妊娠中の私はほとんど動かなくても済みました。普段からこうして、もう少し「地域で育てる」ということができたらと、親子の一対一の関係になりがちな都会の子育てを考え直すきっかけにもなりました。東京一極集中と地方創生、働き方と子育て...簡単に多くの人が選択できる解はありませんが、時には東京を脱出しながら、引き続き考えていきたいと思います。