「すみません」が口癖の私に「ありがとう」を教えてくれた人
十数年前、私はまだ若いママでした。ある日、幼い長女を抱いて電車に乗りました。「泣きだして、周りの人に迷惑をかけたらどうしよう」と心配しているときに限ってぐずりだすもので、案の定泣き出す我が子。しかも運の悪いことに次の駅はまだ遠い。
「こっちが泣きたいよ」と思っていると、隣に座っていた50歳代くらいの女性が長女に笑いかけてあやしてくれました。私が「すみません」と頭を下げると、その女性は笑顔で言いました。
「謝ることなんかないのよ。かわいい赤ちゃんを見せてくれて、ありがとう」
「こ、こちらこそ...... ありがとうございます」
そんなやりとりの後、電車を降りて歩いていると、なんだか楽しい気持ちになっていたことに気がつきました。きっと「ありがとう」と言ってもらえたからではないかと思いました。
でもよくよく考えると、違いました。
私自身が「ありがとう」と言えたからじゃないか? と気づいたのです。
「すみません」を「ありがとう」に変えると、自分も周りも明るくなる
子育てをしていると「すみません」という場面が多いですよね。子どもが泣いて「すみません」、子どもが通行の邪魔をして「すみません」、ベビーカーが場所をとって「すみません」......一日に何度「すみません」を言うでしょうか。その頃の私は「すみません」というたびに身体が小さく縮こまっていくような気がしていました。
「すみません」という謝罪の言葉を口に出すうちに、自分が悪いことをしたような気になってしまっていたんですね。
「子どもが迷惑を掛けてすみません」というつもりで言っているうちはまだよかったのですが、言い続けていると「子連れで外出なんかしてすみません」となり、それが「子育てなんかしてすみません」「子どもなんか産んですみません」...... とうとう「私が生まれてきてすみません」という気持ちになってしまったことすらありました。
でも「すみません」を「ありがとう」に心も体も軽くなる!
これは発見でした。たかが言葉を変えるだけです。言葉ひとつ変えるのに、手間も元手もいりません。それから、私は子連れのときもそうでないときも、人に何かをしてもらったとき「すみません」よりも「ありがとうございます」を言うよう心がけました。
実践してみると、二つの言葉を言われた人の反応は、全く違いました。
「すみません」と言うと、「いえいえ......」と無表情で去って行く人がほとんど。考えてみると「すみません」は「あなたに親切にさせてしまい申し訳ない」という謝罪です。せっかくの善意を、そんな物を出させて、と否定しています。そこでねじれが生じて、お互いに善意と感謝の行きどころを失ってしまう、それで萎縮してしまうのではないかと思います。
でも「ありがとう」というと、にっこりほほえみ返してくれる人が多くいました。「あなたの善意をストレートに受け取りました」とまっすぐ感謝を返すのですから、いい循環ができて、お互い気持ちがいいのです。
「すみません」と言われたら「ありがとうの方が嬉しい」と伝えてみよう
月日が流れ、つい最近、電車で隣の席に若いお母さんが座りました。「うちの子にもこんな時代があったなあ」と懐かしく見てると、赤ちゃんがぐずりはじめました。赤ちゃんに笑いかけてあやそうとしたら、お母さんと目が合いました。
「すみません」
そのお母さんは、申し訳なさそうに頭を下げました。謝らなくてもいいのに。「ありがとう」と言って欲しかったなと思いました。
直接「ありがとうの方が嬉しいですよ」って言えばよかった。でもおせっかいになるかなといろいろ考えて、言えなかったので書いています。
すみませんより、ありがとうの方が、言われた方も嬉しいし、言ったあなたの気持ちもきっと軽くなるよ!
【ライター 曽田 照子】
書籍、広告、WEB、フリーペーパー、情報誌など、多彩な媒体に執筆。
著書
「ママが必ず知っておきたい!子どもに言ってはいけない55の言葉」メイツ出版
「『お母さんの愛情不足が原因』と言われたとき読む本」中経の文庫
「お母さんガミガミ言わないで!子どもが勉強のやる気を失う言葉66」学研パブリッシング等。
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