少子化、財政が厳しいからだと思いますが、文科省から大学改革の様々な方針から打ち出されています。
理工系の大学に対しては、「理工系人材育成戦略」というものが発表されました。
[三つの方向性と10の重点項目]だそうで、引用しますと、
【戦略の方向性1 】高等教育段階の教育研究機能の強化
■ 重点1.理工系プロフェッショナル、リーダー人材育成システムの強化
産業界のコミットメントのもと実践的な課題解決型教育手法等による高等教育レベルの職業教育システムを構築し、理工系プロフェッショナル養成機能を抜本的に強化。産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成するため、産学官から国内外第一級の教員を結集し、専門分野の枠を超えた体系的な教育を構築するなど博士課程教育の抜本的改革と強化を推進。
■ 重点2.教育機能のグローバル化の推進
大学等の教育機能の国際化を推進し、世界規模での課題発見・解決等ができる理工系人材を育成。理工系分野のカリキュラムにおける留学プログラムの設定や海外大学との単位互換を促進。
■ 重点3.地域企業との連携による持続的・発展的イノベーション創出
■ 重点4.国立大学における教育研究組織の整備・再編等を通じた理工系人材の育成
【戦略の方向性2 】子供たちに体感を、若者・女性・社会人に飛躍を
■ 重点5.初等中等教育における創造性・探究心・主体性・チャレンジ精神の涵養
主体的・協働的な学び(アクティブ・ラーニング)を促進するための教育条件整備や観察・実験環境の計画的整備、大学等との連携による意欲・能力のある児童生徒の発掘や才能を伸ばす取組を推進。
■ 重点6.学生・若手研究者のベンチャーマインドの育成
ベンチャーマインドや事業化志向を身につける大学の人材育成プログラムの開発・実施を促進、大学発ベンチャー業界等に飛び込む人材や新規事業に挑戦できる人材を育成。
■ 重点7.女性の理工系分野への進出の推進
■ 重点8.若手研究者の活躍促進
■ 重点9.産業人材の最先端・異分野の知識・技術の習得の推進~社会人の学び直しの促進~
【戦略の方向性3】産学官の対話と協働
■ 重点10.「理工系人材育成-産学官円卓会議」(仮称)の設置
特に産業界で活躍する理工系人材を戦略的に育成するため、産学官が理工系人材に関する情報や認識を共有し、人材育成への期待が大きい分野への対応など、協働して取り組む「理工系人材育成-産学官円卓会議」(仮称)を設置。
とのこと。
この「戦略」を読むと、産業界出身で産官学の連携プロジェクトの経験が豊富で、スタンフォード大学留学というグローバルな人材(?)で、MBAを取得して課題解決能力を培い(?)、大学ではエンジニアリングデザイン教育を立ち上げ、技術をビジネスに結びつけるリーダー育成(?)をやっている自分にはチャンスなんだろうなと思います。
しかし、これを読んだ時には、なんだか志が低いな、と寂しくなりました。確かに上に述べていることは必要でしょうし、私自身が企業から大学に移ってからやろうとしてきたことでもあります。
しかし、効率性の追求ばかりで大学は良いのか?
私は大学・大学院の学生だった時には、光エレクトロニクスという分野の端っこ(下っ端)から青色LEDの発明の成り行きを見るという貴重な経験をしました。
また、東芝ではフラッシュメモリという、これもノーベル賞級の技術を生み出し、1兆円規模の産業を作り上げる仕事に、当事者の一人としてかかわる幸運に恵まれました。
こうした世紀の発明をした方の近くにいて思うのは、とてつもないイノベーションを起こす人は、決して上記のような「常識的で物分りの良い」人材ではない。
そもそも、真のイノベーションは、ほとんど同時代の人から評価されないもの。みんなが良いと思うようなことは、大抵、誰かがやっていますから。
みんなが否定すること、常識のウソにこそ、イノベーションのチャンスが潜んでいる。
私の知る限り、イノベーターは「常識的で物分りが良い」人では決してない。むしろ、ばかげた非効率なことに没頭して、頭がおかしい、変人、などと悪口を言われる人であることが多いのではないでしょうか。
真のイノベーションは常識からかけ離れたアイデアであるからこそ、一般人や秀才は理解できないのです。
社会、組織として大切なことは、そのようなぶっ飛んだ人やアイデアを殺さないことでしょう。
もちろん、みんなが変なことをしてしまったら、企業も社会も成り立ちません。
多くの人は「理工系人材育成戦略」に書かれたような、常識的で最適化を行うような人材であって良いのでしょう。
ただ、少数でよいのでイノベーションを起こすような規格外の人を大切にしないといけない。
私は自分が凡人だと思っています。飛び切りのイノベーターにはおそらくなれない。だからこそ、イノベーターが生み出したイノベーションを発展させ、社会に還元する役割、アイデアを産業に結びつけるような役割を担おうと思ってきました。
イノベーターがゼロから1を生み出す人材だとすると、凡人の自分は1を100、1000・・・にする人材になろうと思ってきました。
しかし、これも大学のような場に、ゼロから1を作り出すような、クレージーなイノベーターが居てこそです。
私のような、と言っては変ですが、最適化するような人材ばかりになってしまっては、真のイノベーションはおそらく生まれない。つまらない世の中になってしまいます。
これは世界のどこでも同じでしょう。シリコンバレーも、クレージーなことを考えるエンジニアが居て、それをビジネスに結びつけるようなベンチャーキャピタリストやMBAが居るから、画期的なアイデアが大きな産業に結びつくのです。
つまり、どちらだけでもダメなのです。
問題は、イノベーションにつながるとび抜けたアイデアと、単なる変で役に立たないアイデアを見分けることは極めて難しい。
ある程度の数を投資して、100個のアイデアのうち1つ当たればよい、という割り切りが必要なのでしょう。
最近、企業のトップの方から言われます。
「社内で変なことを提案する奴が減ってきた」
「お前は大学なのだから、もっととべ」
企業も長期的な研究開発の投資をしずらくなったからこそ、大学は勇気を持ってぶっ飛んだことをしなければいけないのではないでしょうか。
国の財政状況が悪化するとともに、大学の研究費(国家プロジェクト)もすぐに確実に役に立つもの、産業化につながることに重点的に投入するようになっています。
私は偶然、そういった流れの時に企業から大学に移ってきましたので、今まで随分、研究予算では恩恵を受けてきたと思います。
しかし、ショートタームで産業に貢献するだけでは、大学の役割として不十分であると感じるようにもなりました。
イノベーションが必要な時代だからこそ、目に見える小さな目標を狙うのではなく、志を高く持たなければならないと思うのです。
上記の戦略が全ての大学を対象にしたものか、意図がわかりませんが、大学は0から1を生み出す「変な人」を大切にする場所であって欲しいものです。
最後に、「<東大発ベンチャー・シャフト元CFO激白>世界一の国産ロボットはなぜグーグルに買われたのか」からの引用です。シャフトがなぜグーグルに買収してもらわざるを得なかったかに、いまの日本の理工系が抱える問題点が集約されているように思えるのです。
「シャフト設立から一年あまり、日本のベンチャーキャピタルや大企業、官製ファンドや中央官庁に支援を断られ続け、日本の環境で二人の夢を叶えることは無理だと、痛感していました。そして、2013年11月13日、グーグルによるシャフトの買収が完了しました。・・・シャフトでの経験から、若者に言いたいことは、世界で戦える技術があるなら、早く日本を出ろ、ということです。今や誰にも負けない技術があれば、日本よりも世界の方が戦いやすい。日本なら成功の確率が千に三ぐらいしかないものでも、アメリカやヨーロッパに行けば、10倍、100倍の人たちが成功すると思います。外のルールは、内のルールと比べて、才能のある人に有利にできている。これまでは日本で成功したら海外へ、と考えるのが普通でしたが、これからは世界で勝てば、日本でも勝てるという時代になるでしょう。無限の可能性を秘めた技術が日本にはまだたくさん眠っています。」
(2015年5月29日「竹内研究室の日記」より転載)