さて問題です。世界最大のスポーツイベントは何でしょうか?
FIFAワールドカップ!(サッカー)
・・・と思いましたか? まあ、多分そうなんだと思います。しかし、数えようによってはアメリカのアメリカンフットボールリーグの決勝戦、スーパーボウルだという説もあるらしい。
ウィキペディアのスーパーボウルの項によると、
経済誌『フォーブス』の2012年10月の発表によると、スーパーボウルのブランド価値は4億7000万ドルであり、夏季オリンピックやFIFAワールドカップなどを凌ぎ、世界一のスポーツイベントであると推定されている
・・・だそうです。まあ、こういうのはどっちも自分の都合の良い数字の作り方をして張り合うので、まあ「はいはい」って感じで流しておけばいいと思いますが、少なくともサッカーのワールドカップと張り合ってると強弁できるぐらいにはビッグイベントなんですね。
アメリカは野球の国・・というイメージがありますが、好きなスポーツ調査で2014年には倍の差(32%と16%)をつけられていて、この差は年々広がっていってるそうです。
そんなにアメフトってアメリカで人気なの?というのは他の国にいると全然イメージがわきませんね。いわゆる「アメリカのガラパゴス文化」なんですが、アメリカ自体の図体がバカでかいので、本当の意味でグローバル的なサッカーの祭典とタメを張るぐらいの大きさがあるってことですね。
で、そのスーパーボウルが、2月1日にあるんですよ。(アメリカ時間なんで、日本では2月2日月曜日の午前中になります)
NHK-BSが入るなら見れます。あなたも、前日2月1日の夜にある特集番組を見て色んな選手のキャラクターを把握して、で平日朝なんで予約録画しておいて、休日に3時間眺めてみる・・・というのはどうでしょうか。
とはいえ、いや、俺アメフトとか全然知らんし、そもそも興味ないし・・・とあなたは思うかもしれない。
まあ、それでもいいんですが、1年の間2月の最初のあたりだけ「ニワカ」ファンになってみると、色々と「違う世界」がかいま見える・・・かもしれないので、この記事は「アメフト全然興味ないあなたが、1年のうち3時間だけスーパーボウルを楽しんでみる」ためのガイドです。(よく考えたらオリンピックは大して知らない競技も結構熱中して見ちゃいますからね)
私個人は、中学時代にある友人がアメフトマニアで、なぜかタッチフットを昼休みに毎日やってた・・・という以外には全然それ以降の人生で関わりはなく、詳しいことは全然知らないし、ちゃんとやったことあるスポーツはサッカー少年団と中学の軟式テニス部だけ・・・って感じです。でもそういう「ニワカ」だからこそ、「ニワカ」のあなたのためのガイドが書けるかもしれない。
これを機会にハマったら、もっと詳しい人に教えてもらってくださいね。
目次は以下の通りです。
1・スーパーボウルを見るとこういう良いことがある!
2・ルールの簡単な説明(ほんと簡単に)
3・アメフトのプレイスタイルの変化とグローバリズム
特にこの3がぜひ聞いて欲しい話題なんですよね。1・2はどうでもいいよって人も3だけ読んでいただければと思います。
現在アメフトは、
東海岸や内陸の保守的な地域のチームに多い、「ザ・アメリカン・ヒーロー」的な「王様的クォーターバック」のプレイスタイル
vs
西海岸の開放的な地域のチームに多い、「王様なんてどこにもいないみんなが主役」的プレイスタイル
の争いが、ここ最近の「二大潮流」的なトレンドなんですよね。
一昨年は、「王様クオーターバック」側がギリギリ勝ったんですよね。しかし昨年は、結局ついに「みんなが主役」側のチームが勝ったんですよ。あとで詳しく述べますが、そういう「アメリカにおける時代の変化」っていうのがプレースタイルの変化に凄く現れる感じがするので、なかなか面白いんですよね。
なんとなく、見てみようかな・・・と思いましたか?
では、以下本文です。
1・スーパーボウルを見るとこういう良いことがある!
まず最初に、アメフトなんて興味ないよ・・・というあなたも、年間たった3時間だけかけてスーパーボウルを見るとどういう良いことがあるのか?を書いてみます。
大きく二つあります。
A・アメリカ人と仲良くなるキッカケになる。
B・ニュースに現れないアメリカ社会の空気の変化を知ることができる。
まずAからね。
A・アメリカ人と仲良くなるキッカケになる。
関西人に営業する時に阪神タイガースのニュースをちゃんと知っておくのは重要・・・っていうタイプの仕事もあります。別にそんなことで左右されるような仕事を俺はしてないぜ!という人も、でもある種の「相手の世界のことを知っている」ってことが案外ビジネスで大事だったり(ビジネスでなくて単なる友人関係でも)することってありますよね。
私は大学時代に、当時一緒に住んでた女の子がNATOが爆撃した直後の旧ユーゴスラビアに文化人類学の調査に行ったので、ついていって一ヶ月ぐらいいた事があります。
爆撃で大事な橋が落ちちゃったままの街で、一ヶ月の滞在中だけでも目に見えてインフレが進んでいくような状態の中で、アメリカ版ゴジラを見ながら「アメリカ死ね!」って叫ぶセルビア人のオッサンの家に一ヶ月ホームステイするという結構「異文化体験ってこれやな」という感じの状況にちょっと最初はビビってたんですが、そのオッサンが日本人にもなかなかいないほどの大相撲マニアで、衛星放送を見ながら「キミの名前は実はケイゾウの山、とかケイゾウの海とかそういうのじゃないのかい?」とか聞かれたり、「無双山(その時優勝した)っていうのはno one is stronger than meっていう意味だよ」とか教えたら凄い喜んでいたり・・・とかしているとかなり満更でもない気持ちになりました。
そんな感じで、アメリカ人も、というかある程度「グローバル」な視点を持った知的なアメリカ人は、本国のアメフトの熱狂度合いに半分恥ずかしい思いを持っている一方で、でも同時にそこに誇らしい思いとか、ルーツ的なものを感じている人も多く・・・という結構フクザツな気持ちがあるんですよね。
そこで、よもやアメフトのこと知ってるとは思わない外国人がアメフトの話題を振ってくると、海外で日本人が大相撲ファンに出会うような、「嬉し恥ずかし満更でもない」っていう反応になることが多いです。
ってそんな下心で・・・というのもありますが、アメリカ人とちょっと関係する立場にいる人は3時間ぐらい話のタネに見てもいいかな?と思いませんか?
今は、あれこれと宗教だったり国だったり・・・という大きな枠組同士がぶつかって不幸な事件が頻発している時期ですけど、「俺はお前の宗教は嫌いだが、でもお前の国のコレ(スポーツとか食べ物とか漫画とか・・・)は正直すげえ好きだな」ってぐらいのコミュニケーションから地道にはじめてみよう・・・というのは、脳天気すぎるようでしかし大事なことだと思います。
そういう意味で、もう一個、アメフト見てみるといいことは、
B・ニュースに現れないアメリカ社会の空気の変化を知ることができる。
こっちの方が大事なんですが、スーパーボウルはアメリカ最大級のイベントなんで、つまり日本でいう紅白歌合戦(しかももっと昔の影響力が大きかった時代の)みたいな存在なんですよね。
間のCMもアメリカではやたら話題になるんですが(これは日本では見れませんが)、国歌も毎年全然違う雰囲気がありますし(今年はlet it goのイディナ・メンゼルさんらしいです)、マイケル・ジャクソンが昔伝説的なステージをやったので有名なハーフタイムショーもなかなか雰囲気があっていいです。
それらを、経年でちょこちょこっと見ていると、普段ニュースなど触れる情報、あるいは在米日本人が発信している情報・・・のような間接的な情報とは違う、「ああ、こういう空気の変化があるのかもしれないな」っていう感覚が得られるんですよ。
そういうのって、大事だし、何より面白いな・・・と私は思っていて、ここ数年、年に1回だけ2月初旬だけ「ニワカ・アメフトファン」になって3時間スーパーボウルを見る・・・ことにしているんですよ。
それで、最近アメフトは「プレースタイル」が大きく変化してきていて、それがグローバリズム的な時代の転換と凄く表裏一体な影響を持っているような感じがしているんですよね(その話はこの記事の最後にします)
それが、さっき書いた、
東海岸や内陸の保守的な地域のチームに多い、「ザ・アメリカン・ヒーロー」的な「王様的クォーターバック」のプレイスタイル
vs
西海岸の開放的な地域のチームに多い、「王様なんてどこにもいないみんなが主役」的プレイスタイル
の争いなんですよね。これについて書くのが本記事の目的と言ってもいいので、それを楽しみに読んでくださいね。
でもまずその前に、アメフト全然知らない人のための超カンタンなルールの説明へ。
2・ルールの簡単な説明(ほんと簡単に)
アメフトってクォーターバックってのがいて、そいつが凄いエライんでしょう?
というイメージぐらいは私も最初から持ってました。
私が好きなアメリカの作家「マイケル・ルイス」は子供時代野球をやっていて、幸せの隠れ場所というアメフト映画の原作になった作品ブラインド・サイドを書いた時に、「アメフトで一番給料が高いのはクォーターバックなんだけど、次がレフトタックルらしい。レフトタックルってどんなポジションなんだ?」という疑問から調査をスタートしたと言っていて、アメリカ国民の36%の人間が見るのが好き・・・って言ってる割には、細部まで完璧にわかってる人間はアメリカ人でも多くないのかもしれないな・・・と思いました。(だからニワカでも楽しめるはず!)
アメフトは、時計が止まるスポーツです。毎回敵味方ともに陣形を整えて、はいスタート!ってなってから、真ん中に位置してるクォーターバック(以下QB)にパスが投げられる・・・そこからスタート。
QBはボールを受け取ってから、それを味方にパスするか、あるいは時に自分が走っちゃうかして、タックルで潰されるまで敵陣に前進させます。タックルで潰されたり両サイドのラインから出たりするとそこで時計が止まって仕切り直し。前進したら、グラウンドがシマシマの目盛り状態に塗り分けられている中で、「何ヤード進んだ」というところから再開になります。
攻撃側は基本的に4回チャレンジできるんですが、その間に10ヤード前進できればもう一回攻撃権が更新されます("ファーストダウン更新"という)。更新されないとその位置から敵の攻撃が始まる。(4回めの攻撃になっちゃうと、それ失敗するとそのあんまり攻め込めていない位置から反転して敵の攻撃になってしまうので、そのままプレーしないでバーンと敵陣の奥に蹴りこんでしまうのが通例なんですが、それをあえてやらないでリスクを犯して通常プレーをもう一回試みることを"フォースダウンギャンブル"といいます。)
で、それを繰り返しながら相手のゴールラインを超えるところまで運んだら得点。
見ていてテンションが上がる見せ場は、
・メジャーリーグの上原浩治選手のマウンドさばきみたいなスピード感で短いパスがバン、バン、バン!って(ラン攻撃も織り交ぜつつ)通っていって「え?もうこんなに進んだの?」っていうような展開になった時。
・ラン攻撃専門の選手が、並み居る大男どものタックルをかわしながら、お?お?お?お?おおおおおおお!ってなってフィールド8割ぐらいを独走するシーン。
・たまーにある、QBなかなか投げないな・・・粘るな・・・と思って見てたら、その間にレシーバーの選手が敵陣奥深くまで入り込んでて、そこにドッギャーン!ってフィールドを半分ぐらい一気に進んじゃうようなロングパスが通るシーン。
みたいなのが代表的で、特に最後の方で試合があと何秒で何点負けてて、これで勝つにはタッチダウンが必要だけどまだ自陣の奥深くに押し込められてる・・・ってところから、上記3つのプレーが連続して実現して残り1秒でタッチダウン!とかがわりと普通にあったりするのが醍醐味かもしれません。
サッカーだと、そういうのは「奇跡的な一試合」にだけ実現して、そうじゃない時は残り時間少なくなったらまあダラダラと時間稼いで終わりにしましょうか・・・てなりがちなんだけど、その辺アメフトは「わざとギリギリの駆け引きになるように」人工的なルールで縛りまくってるところが、良さであり初心者にとって入りにくさでもある・・・って感じですね。
・・・と、これぐらい把握しておけば、あとはまあ、3時間以上もあるんで、見てるうちにだいたいわかってきます。詳しいルールはスマホ検索したら沢山でてきますし、NHKの日本語解説は凄く親切で、はじめて見た人でもだいたいわかるように説明してくれるので安心です。
で、既にちょこちょこ書いてしまいましたが、「プレイスタイルの変化」という本記事のテーマでいうと、このQBのキャラクターが時代とともに随分変わってきているんですね。
ところで一個だけ余談なんですが、南アフリカ人の黒人ハーフのコメディアン、トレヴァー・ノアという人がアメリカ黒人の真似をする・・・というスタンダップコメディがユーチューブで見れるんですが(めちゃ面白いです)、そのロングバージョンの中に「アメリカのスポーツ中継」というネタがあって、イギリス連邦出身の人間の目から見ても、アメリカのスポーツ中継はずっとアナウンサーが「人名!数字数字数字数字数字!人名!数字数字数字数字数字!」って叫んでいるように聞こえるそうです(笑)
アメリカのスポーツはそういうところが完全に個人の数字になるように設計されていて、また見ている方も数字に物凄いこだわってる文化があります。アメフトを見ているとそれが物凄く感じられる。サッカーみたいにゴールやアシストには数えられないけどナイスプレーだったみたいな世界が可能な限り排除されている。
誰がシーズンに何ヤード走った、何ヤードパスを通した・・・っていうのが全部出る。何回タックルでQBを潰したかとか。そういう部分で不確定要素ができるだけ無いように設計されてるんですね。サッカーに比べれば個人成績が明確な野球ですら、アメフトに比べるとまだ曖昧なところがある感じで、だからその空隙を埋めたいがためにセイバーメトリクスという「野球のデータ化」に熱中するアメリカ人たちがいるんだと思います。
アメフトを見ていてなんとなく目につくのは、ワンプレーが終わった後選手がボールをすぐに「ポイッ」って捨てちゃうんですよね。それは審判がそれを持ってジェスチャーするからでもあるんですが、サッカーだと笛が吹かれて試合が止まっても、どっかで勝手に知らないうちに再開されてフリーキックで蹴りこまれちゃったりするんで、「相手が勝手なことしないか」を常にちゃんと見張ってるような気配があるんですが、アメフトにはそういうのが全然ないんですよ。
その、「信頼してポイッと捨てられる感じ」「自分の行動は全てちゃんと数字に評価されるという感覚を全身で信頼している感じ」・・・っていうのが、アメフトを見ていて「こういうのがアメリカ文化なんだなあ」って私が思う地味なポイントです。
はい、余談終わりです。ではQBのプレイスタイルの変化と時代の変化・・・の話の続きをしましょう。
3・アメフトのプレイスタイルの変化とグローバリズム
QBというのは毎回彼にボールが渡った時点でプレーが始まる・・・という、サッカーの「司令塔」どころじゃない「強制的な権限」が抜群にあるポジションで、ここまで強権持ってるチームスポーツのポジションはなかなかないんじゃないか・・・というぐらいの存在なんですね。
だからこそ、80年代のハリウッド映画で、最初はいじめっ子として登場しながら最後にヒドイ目にあうキャラクター・・・みたいな、「アメリカの強さ(と傲慢さ)の象徴」的なスポーツマンのイメージがあるんですよ。
で、そのQBを、他のスポーツでは大相撲ぐらいでしか見ないような巨体のラインマンと呼ばれる男たちが「肉の壁」になって守るんですが、そのラインマンに守られた「砦」の中を『ポケット』っていうんですね。
防御側は、その「砦」の中になんとか入り込んでQBがパスを出す前にタックルして倒してしまおうとする("サック"という)。それを攻撃側チームの「肉の壁」ラインマンたちが守ろうとする。
伝統的なアメフトのプレイスタイルは、この『ポケット』の中のQBはそこで「守ってもらう王様」として存在していて、守ってもらえている間の時間を利用して縦横無尽なパスをバンバン投げることがQBの真骨頂・・・みたいな世界なんですよね。
こういうタイプのQBを『ポケットパサー』というんですよ。
一方で、最近、特に西海岸のチームに多いんですが、「QBだって色々あるアメフトのポジションの一個にすぎないよねー」的な感じの新潮流があるんですよ。だから、ポケットの中に守られた状態でパスを投げるだけの役割・・・じゃなくて、QB自身もホイホイ走るんですよね。
走って走ってそこでまたパスを投げたりとか・・・そういう自由なプレースタイルが台頭していて、こういうQBを『モバイルクオーターバック』というんですよ。
で、何度かもう書いていますが、今のアメフトはこういう
「伝統的ポケットパサー型クォーターバック」
vs
「新時代の自分も走っちゃうモバイルクオーターバック」
という大きく違うプレイスタイル、キャラクターが、その有効性を競い合ってぶつかり合う・・・という、なかなか「世界の風潮」と表裏一体なものを感じる状況になっているんですね。メインフレームコンピューターと分散型ネットコンピューティングだとか、トップダウン型組織とフラットな自律型組織だとか、そういう「よくある対比」がものすごく当てはまるような世界が広がっている。
簡単に言うとある意味で、「モバイルクオーターバック」は、「アメフトのサッカー化」と言ってもいいかもしれない。
完全に確立した中心プレイヤーがいて、計算され尽くしたプランに従ってバンバンとパスを通していく・・・のが伝統的アメフトだとすると、モバイルクオーターバックはポケットの中に守られていないで変幻自在に走りまくるし、走ったかと思えばパスしたり・・・ってう「入り乱れ感」が非常にサッカー的な感じなんですね。
・
で、一昨年(2013年2月開催、つまり2012年度シーズン)は、まだ「アメリカの伝統」が生きていた感じで、ギリギリで「ポケットパサー」チームが勝ったんですよね。レイ・ルイスっていう黒人の鬼軍曹みたいな「凄味のある選手」がついに引退試合・・・って感じでもあって、そういう存在感でなんとか「アメリカの伝統」が押し切って勝った・・・みたいな感じだった。(凄い接戦だった)
しかし去年(2014年2月開催、つまり2013年度シーズン)は、ついに「めっちゃ自由なモバイルクオーターバック」なチームが圧勝したんですよ。
それが本当に「圧勝」って感じで、物凄い「印象的な時代の交代劇」だったんですよね。平成三年五月場所の千代の富士vs貴乃花的な感じ(笑)
内陸の伝統的チームデンバー・ブロンコスvs西海岸の新文化チームのシアトル・シーホークスだったんですが、デンバーのQBはペイトン・マニングという超ベテランで、NFL史上最高のQBの一人と言われる、つまりは「ザ・伝統的クォーターバック」みたいな感じのプレイヤーだったんですね。
アメフトは一回のプレーごとにオフェンスの選手が集まって作戦会議的なもの("ハドル"という)をするんですが、そこでのペイトン・マニングの振る舞いは本当に「ザ・リーダー」という感じで、「俺についてこい!勝とうぜみんな!」って感じなんですよ。
逆にシアトルの方のクォーターバックはある意味たった二年目のペーペーで、しかもホイホイ走っちゃうモバイルクオーターバックだから、どうもこう、バシッとしたスター性がない。結果として圧勝したんですが、試合終わった後、ちゃんと最初から最後まで見てた私も「えっと、で、彼はなんて名前だったっけ?」ってなかなか覚えられなかったぐらいです。
好意的にいうと、俺がQBだ!みたいに気取ってなくて、QBなんて色々あるフットボールのポジションの1つでしょ?みたいに思ってる部分があるんじゃないか、っていうぐらいフラットな感じなんですよ。
でもそのへんが、こだわりのない自由さみたいなのに繋がってて、ただのモバイルQBというよりは、ポケットから出て走り回ってみたあげくに、お、今投げれるやん!ってなったらギャーンってパスしたりとか、なんかそういうところが「新時代」な感じの選手なんですよね。
ペイトン・マニング的な「ザ・クォーターバック・ヒーロー」みたいなものに対するアメリカ人の郷愁みたいなのは多分かなり強いので、昨年の試合前の下馬評的には、デンバー圧倒的有利・・・って感じのことを言う人が多かったように思います。
でも実際やってみたら、シアトルの方が「圧勝」してた。
なんかこう・・・いやほんと、マニングの良いとこ全然なかった・・・って感じだったんですよ。
ある種のアメリカ人的には結構ショックだったんじゃないかなと思います。
日本人が長嶋茂雄に郷愁がある、巨人軍に郷愁がある・・・っていう感じの、「俺たち流のヒーロー」がマニング的QBだと思うので。
なんか、そういう存在が、「うぇーい」っていう感じのチャラめのサッカー部的な文化の存在に負けたらショック・・・みたいなとこあるじゃないですか(笑) まさにそういう感じで。
デンバー側の攻撃から始まったんだけど、いきなりマニングがポジションに付く前に味方が間違ってプレー開始のトスを出しちゃって、で放り出されたボールがコロコロ転がってそれでいきなり得点取られたりしてね。(それで一回目の攻撃終了)
シアトル側に、ワイワイとチャラい感じで融通無碍のラン攻撃をしかけられ続けて、何回か物凄い長距離走られてタッチダウンされたりして。
マニング的に、「俺が中心だ!」っていう部分をガチッと押さえておいて、で一個一個ロジックを通してツメて行くようなプレイスタイルが、「なんか全員でワイワイやってる」みたいなチームの自由さに飲み込まれてしまって、終わってみたら 「凄く大きな差」になって終わった・・・・っていうのは、なんだか『時代』を感じたんですよね。
その前年度にもそうなりそうだったんだけど、でもギリギリ老鬼軍曹のラインマンの存在感でそうならなかった・・・っていうような世界に、去年はあっけなさすぎる感じで入った・・・・ような感じで。
ある種の「伝統的なアメリカンヒーロー」の終焉っていうか。
でも繰り返すようですが、シアトルのQBの名前、今検索しなきゃ出てこなかったぐらいなんで(ラッセル・ウィルソンさんというそうです)、だから「古いタイプのヒーロー」に対して「新しいタイプのヒーロー」が勝った・・・って感じじゃなかったんですよね。
むしろ、「古いタイプのヒーロー」を、「ヒーロー不在のチーム」が倒してしまった・・・・みたいな感じだった。
今私はこれをグーグル日本語入力ソフトで打ち込んでるんですが、ペイトン・マニングは勝手に中黒(・)が間に入って予測変換されますが、ラッセルウィルソンは出てこないですからね。なんかこう・・・スーパーボウル優勝QBなのに、名前がどうしても入ってこないタイプの選手なんですよ。もちろん、本式のアメフトファンには当然の名前かもしれないんですが、ニワカにとってみたらね。
でも、そういう時代の変化ってあるな・・・と思ったりして。
・
で、今年どうか?っていう話なんですが、なんとそのシアトルの地味QBラッセル・ウィルソンさんが、二年連続でスーパーボウルにチームを引っ張ってきたんですよね!侮るなかれ!
まとめると、
去年は、
ザ・バキバキに体育会系の伝統的クォーターバック
vs
西海岸のチャラい系文化の二年目ペーペークオーターバック
今年は、
スーパーモデルを妻にするようなイケメンスターの伝統的クォータバック
vs
地味なのになんと二年連続スーパーボウル進出を果たした三年目の新人類モバイルクオーターバック
の戦いなんですよ。
今年のシアトルの対戦相手は、ボストンが本拠地の「ザ・東海岸のエスタブリッシュメント・チーム」であるニューイングランド・ペイトリオッツ。
そのチームの「ザ・伝統的ポケットパサー型QB」は、トム・ブレイディと言う人なんですが、トム・クルーズ似のNFLを代表するイケメンで、「世界で最も美しい50人」に選ばれたこともあるとか。しかも奥さんはスーパーモデルのジゼル・ブンチェン。
ちなみに、トム・ブレイディもジゼル・ブンチェンも、グーグル日本語入力で簡単に予測変換されます。二年連続スーパーボウルにチームを導いた英雄ラッセル・ウィルソンさんの立場がないでほんましかし。
トム・ブレイディはほとんど自分では走らない典型的な「ポケットパサー」で、でも本当に「スター性」のある選手です。ペイトン・マニングとはまた違った意味で、「イケメン的スター性」がある。残り時間がほとんどなくてかなり自陣奥に追い込まれていた状況から、物凄い大逆転パスを通して勝っちゃうみたいなことが、実際にあるし、見てる方も期待しちゃうようなスター性を持っているんですよ。
で、「男社会のホモソーシャル的存在感(つまり、ザ・"体育会系"イズム)」で「伝統的中心性」を守ろうとした去年のペイトン・マニングが「液状化したドロドロの新時代のチーム」に飲み込まれて敗けてしまったような流れの中で、イケメンスター選手トム・ブレイディはあくまで「アメリカの伝統」を通すことができるか?が今年のスーパーボウルの注目ポイントなわけですね。
興味が湧いたあなたは、日本時間でいうと2月1日日曜日の夜にあるNHK-BSの直前特集番組をとりあえず見て、翌月曜日の午前中にある本番は平日昼間なんで録画でもしておいて、時間がある時に3時間だけ見てみようかな・・・とやってみてはどうでしょうか?
もしはまったら、私のようなニワカでなく、もっと本式に知識のある方のサイトを見に行くようにしましょうね!
・最後に。
私は結局ただのニワカに過ぎないので、本当に詳しい方から見ると多少誤解や誇張が含まれた文章になっているかもしれませんが、あらたなファンを獲得するための方便だと思ってご容赦いただければと思います。
この記事を書いた動機は、この「プレースタイルの変遷」が、世界の大きな組織形態の変化の流れと「非常にわかりやすく呼応」していて、そこに日本の今後の進むべき道もあると思っているからです。
日本って、「ザ・レガシー大企業」が「強権的存在」として存在する上意下達文化なところだから、「シリコンバレー的な新時代の動き」には対応できないんじゃない?って思いますか?
でもね、今の日本サッカーって、この「モバイルクオーターバック型」をさらに推し進めたような縦横無尽なサッカーを目指しているじゃないですか。いわゆる「自分たちのサッカー」ね。
で、そういう風に「中心がいなくなる」と、中心がないから「勢い」を維持できなくなったらメッチャ弱いけど、「勢い」がある時は凄い強いですよね。今回のアジアカップも、ダメな試合はほんとダメだったけど、「最高の試合」だけ取ってみたら「これ凄くない?」ってプレーもあった。次々とお互いが空気を読み合ってバックアップに入って細かいパスが通って行く、「ジェットストリームアタック」みたいな世界。
日本は変化に対して世界一臆病なように見えて、ある種「これからの日本の勝ちパターンはこうだよね」っていうコンセンサスが広い範囲にできさえすれば、
「俺たち日本人のォォォォォ空気を読んじゃう力はァァァァァ世界一ィィィィィィできんことはなぁい!」
的な超絶連携を、経済全体レベルでも実現できる可能性があると私は思っているんですよね。
つまり「モバイルクオーターバック型」の、「絶対的中心」が消えていく世界の中の、「なんか全体で一つの生き物のような連携」という世界観を世界最先端に追求できる可能性があると私は考えているんですよ。
日本を「そういう状態」に持っていくことが、私個人のライフワーク的テーマなんですよね。
そういう方向性について、経営コンサルタント兼経済思想家として、色々と追求してきたコンテンツがありますので、興味をもたれましたら、
などを手がかりに、私の一連の活動に触れていただければと思っています。
長文をここまでお読みいただいてありがとうございました。
今後もこういう「アメリカの時代の終焉」と、その先にある『グローバリズム2.0』の世界における日本の可能性・・・といった趣旨の記事を書いていく予定ですが、更新は不定期なのでツイッターをフォローいただくか、ブログのトップページを時々チェックしていただければと思います。
倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
・公式ウェブサイト→http://www.how-to-beat-the-usa.com/
・ツイッター→@keizokuramoto