海外の有名紙であるニューヨークタイムズは、紙・ウェブ問わず、新しい取り組みをどんどん行っている媒体の一つです。具体的にどのような取り組みをはじめていて、その背景にはどのようなメディアのトレンドや大きな流れがあるのでしょうか。
この記事ではニューヨークタイムズの5つの取り組みや記事に着目し、それぞれの背景についても少しですが紹介していきたいと思います。
1. 動画ニュース
2013年秋にニューヨークタイムズがはじめた動画ニュースが「NYT minite」です。前日の重要なニュースを60秒の動画で観ることができるというもの。忙しいビジネスマンのニーズを汲み取ることと、スマホでの動画視聴する人に向けたコンテンツとして制作されています。
現在では、短弱の動画のニーズは増えているように思います。海外では、NowThis NewsやNewsyの台頭もありますし、VineやInstagramを記者/ジャーナリストが有効活用することも珍しくなくなりました。
国内でも先日、東洋経済オンラインが"ビジネスエンタメ"を目指し、オリジナルの動画チャンネルをスタートしました。どの動画の切り口や編集も素晴らしく、この分野でどんどん市場を開拓していくことでしょう。また、ほかの国内メディアがどのようにこの領域に取り組んでいくのか、大変興味深いです。
2. キュレーション
ニューヨークタイムズが月8ドルという価格設定で打ち出したニュースキュレーションアプリ「NYT Now」。編集部による記事セレクトや記事要約などを楽しむことができるアプリとなっています。
Newswhipのデータによれば、ニューヨークタイムズの月間に発信する記事は7000本にも上ります。そのため、多くの記事の中から、特に重要だったり、読んでほしい記事をキュレーションしていくことは当然の流れかもしれません。
一方で動画キュレーションメディアのUpworthy(アップワーシー)などは少ない記事本数で、多くのトラフィックを集めています。ソーシャルメディア上でのバイラルに長けたメディアは増えており、アップワーシーのほか、BuzzFeedやDistractify、ViralNovaなどがあります。
NYT Nowの場合はキュレーションと合わせて、有料がどのような結果をもたらすのかにも注目していきたいところです。
3. ネイティブ広告
ニューヨークタイムズが今年始めのウェブのリニューアルと同時にはじめたのが、ネイティブ広告です。
ネイティブ広告と言うと、TwitterやFacebookのスポンサードポストや、ウェブメディアのブランドコンテンツなどを例として、最近増えている広告ですが、ニューヨークタイムズも遅いながらはじめています。
最初のスポンサーは、DELL社で、定期的にコンテンツがアップされているようです。僕自身ネイティブ広告についてはまだ詳しくありませんが、海外のメディアではよく目にするワードなので、引き続き、各メディアのネイティブ広告をはじめとするマネタイズ戦略は追っていきたいと思います。
4. イマーシブ
ニューヨークタイムズが2012年に発表した「Snow Fall」という長編記事。ピューリッツァー賞も受賞したこの記事は、イマーシブ(没頭型/没入型)コンテンツの代表例としてよく取り上げられています。
これ以降、様々なメディアが同様の形式を用いて、多くの長編記事を生み出していくようになりました。
最近では、ソチ五輪においてフィギュアスケートの羽生選手のジャンプをはじめ様々な競技をインタラクティブな記事として紹介するシリーズなどが話題となりました。また、国内でも朝日新聞デジタルが手がけた「ラストダンス」が話題に。こちらは浅田真央選手のストーリーをSnow Fall風に表現したコンテンツとなっています。
これまで複数カラムやサイドのバナー広告、ウィジェットがあったりと、意外とコンテンツに集中できないウェブ設計が多くなっていたウェブメディア。
イマーシブコンテンツにおいては、多くがワンカラムであり、マルチメディアを活用したものになっています。そのため、長編記事であろうとも、読み応えがあり、最後まで読んでもらえるようなものが多いのではないでしょうか。
イマーシブジャーナリズムについては、国内での取り組みも期待したいです。
5. ニュース解説
2014年4月にスタートした、新サイト「The Upshot」をご存知でしょうか。ニューヨークタイムズが立ち上げたニュース解説メディアです。データジャーナリズムの実践や人々のニュースを理解したいというニーズを背景に生まれたサイトとなっています。
最近では、データを活用したジャーナリズムや人々の時事トピックへの理解促進(や理解したいニーズ)を背景に、ニュース解説メディアが増えているのです。
Vox Mediaの「Vox.com」では、ワシントンポストの人気コラムニストだった29歳のエズラ・クラインが立ち上げ、編集に関わっていることで注目され、「FiveThirtyEight」は、元々ニューヨークタイムズ内の同名のブログを立ち上げ、そのデータジャーナリズムの手腕で注目されるネイト・シルバーが率いており、どちらのサイトもスタートしたばかりですが、一定の影響力を持っていくことと思います。
The Upshotは、FiveThirtyEightのネイト・シルバーが抜けたところにはまるようなコンテンツ構成となっていくそうですが、現在見たところでは、FiveThirtyEightの方がコンテンツの切り口なども面白いと感じます。
ニュース解説サイトは大手メディア、新興メディア問わず増えているところですが、メディアのとしての成長戦略や、コンテンツ設計の工夫、マネタイズなど、注目すべきところばかりだと思っています。
以上、ニューヨークタイムズの動きと5つのメディアトレンドでした。今回の動画ニュース、キュレーション、ネイティブ広告、イマーシブ、ニュース解説という5つを紹介しましたが、ニュースメディアやニュースアプリのトレンドとしてはまだまだ挙げるものはありますが、また今後取り上げたいと思います。
(2014年5月2日「メディアの輪郭」より転載)