バイラル(口コミ)メディア風の見出しを、ネットで見ない日はない。
「いますぐやるべき20の~」「レディーガガがこんなことに。その理由を知ったら...」といった話法で、特にソーシャルメディアでの拡散をアピールする見出しだ。
何が法則性があるのなら勉強したいと思い、こういった見出しの教科書的なものを探していたら、あった。
筆者はコンテンツマーケティング系の人かと思ったら、全然違う。
ジャーナリズム教育で知られる米ポインター研究所の副所長、ロイ・ピーター・クラークさん。ジャーナリストや学生への、ライティング(記事執筆)指導の第一人者だ。
そのクラークさんが、ライティングのテクニックとしての、バイラルメディアの見出しを大まじめに分析していた。
●見出しの基本形
見出しには、「正確」「簡潔」「必要十分な情報」「目を引く」など伝統芸のようなルールがある。同じポインター研究所のブログに、そんな基本についてのコンパクトなまとめがあった。
まず入門編として、それから見ていこう。
1:その見出しは正確か?
2:背景知識がなくても理解できるか?
3:見出しが示す内容はどれだけ読者を引きつけるか?
4:文法的に理解しやすいか?
5:数字をうまく利用できているか?
6:余計な言葉はないか?
7:著名人なら固有名詞、そうでなければ肩書。その使い分けができているか?
8:説明的な見出しの方がうまくいくケースではないか?
9:出来事に焦点を当てるか、その影響に焦点を当てるか?
10:この10の言葉の一つをうまく使えるか(Top, Why, How, Will, New, Secret, Future, Your, Best, Worst)?
これは、米公共放送「NPR」のエディトリアル・プロダクト・マネージャー、マット・トンプソンさんが2011年にまとめたものだ。
ちなみに、この名前でピンとくる人は、結構なメディアオタクかもしれない。
ちょうど10年前、ポインターの研究員だったときに共同制作し、話題になったメディアの未来を占う動画「EPIC2014」で知られる人物だ。
これはウェブ寄りの見出しの説明だが、新聞などの伝統的な見出しのポイントも押さえていて、参考になるアドバイスだ。
●アップワージーとは
アップワージーは2012年3月開設で、急成長している新興メディアだ。
調査サイト「クアントキャスト」のデータで見ると、後発ながらバイラルメディアの先頭ランナー「バズフィード」の後を追い、「ハフィントン・ポスト」とはいい勝負だ。
ソーシャルメディアでの拡散に特化した、ノリのいい見出しと画像が特徴だ。
ただその軽みとは対照的に、共同創業者3人のバックグラウンドは政治色が濃い。
1998年創設のリベラル系アクティビズムNPO「ムーブオン」理事会長で、著書『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』でも知られるイーライ・パリサーさん。
そしてリベラル系風刺雑誌「オニオン」の編集局長だったピーター・ケックリーさん。
フェイスブックの共同創設者で2008年の米大統領選で民主党・オバマ陣営のネット戦略を担当、現在は雑誌「ニューリパブリック」発行人でもあるクリス・ヒューズさんも出資者の一人だ。
ソーシャルの拡散で政治を変え、ビジネスを成功させる。これがアップワージーのスタンスだ。
●8つの秘密
ではその急成長するアップワージーの、競争力の源泉である見出しの秘密とは。
1:不正に怒る
これは既存メディアでもみられるオーソドックスなスタイルだ。ただ、特にここで取り上げられているアップワージーは、その傾向が強いだろう。
すでに紹介したように、アップワージーには、バイラルで政治を変えていこう、という明確なコンセプトがある。
2:驚く、刺激を受ける
アップワージーのソーシャル戦略は、フェイスブックでの拡散に最も重きをおいている。フェイスブックでいかにクリックされ、共有されるか。
そのため、見出しに「何っ!」「必見」など〝驚かされた〟〝刺激を受けた〟という要素を取り入れている。
3:〝エンジン〟を組み込む
ライターのトム・フレンチさんという人が、〝エンジン〟という表現を使っているという。
読者がその答えを知りたくなるような疑問をストーリーに埋め込み、引き込んでいく――それが〝エンジン〟だと。
この〝エンジン〟、つまり「あなたが必ず感動する、そのワケとは」といった疑問を、見出しに組み込んでいる。
4:数字を使い、読者が短時間で多くのことを知ることができるとアピールする
数字の活用は、上述のマット・トンプソンさんも取り上げていた。「6つの疑問」「8つの秘密」「20の理由」。「リスティクル」(リストと記事[アーティクル]の造語)と呼ばれる箇条書き型の記事の見出しがこの典型だ。
5:古典的煽り要素を躊躇せず活用:セックス、セレブリティー、〝驚きの効果〟
これは、読んで字のごとく。
6:言葉で遊び、古典的な見出しの禁じ手に縛られない
3行にわたるような長い見出し、疑問形の見出し、同じことばの反復など、タブロイド紙よりもさらに自由な見出し表現をする。
7:奇妙で興味をそそる言葉を組み合わせる
「アマゾン」と「アラスカ」、「ドーナッツ」と「ホームレス」など、その奇妙な組み合わせが変な起爆力をもつ言葉同士を見出しに盛り込む。
8:見出しでストーリーを語る
これは意外と古典的な見出しのルールだ。見出しを読み場、記事のストーリーそのものがわかるように書き込んでいく。
●9番目の秘密
アップワージーの見出しには、ロイ・ピーター・クラークさんが触れていない〝秘密〟がもう一つある。
2013年のIT系イベント「サウス・バイ・サウス・ウェスト(SXSW)」で披露された、アップワージーの編集局長、サラ・クリッチフィールドさんと、バイラルキュレーターのアダム・モーディカイさんのスライドがその〝秘密〟をたっぷり紹介している。
「バイラリティー(口コミのしやすさ)に関する甘美のサイエンス」というプレゼンだ。
ここで繰り返し強調される9番目の〝秘密〟は、1本の記事につき、毎回25本の見出し案を書き出す、というアップワージーの〝鉄の掟〟だ。
24本とかではダメで必ず25本。「アップワージーの編集プロセス」にはこうある。
1:各コンテンツについて25本の見出しを叩き出さなければならない
2:とんでもなくひどい見出しも書くだろう
3:やぶれかぶれになってきて、ようやく独創的なアイディアが生まれ始める
4:だから25本の見出しを書かねばならない
5:24番目はクソだろう。だが25番目は見出しの神様からの贈り物で、それによってあなたはレジェンド(伝説)になるだろう
6:すべての見出しが完璧になるわけではない、ということは受け入れよ
7:そして25本の見出しを書け
8:訓練次第で25本を15分で書けるようになる。その時には25本縛りを緩めよう
●100倍の違い
ワイアードの記事「タブロイド・シック:活力ある見出しが金と力を解き放つ」が、バイラルメディアの見出し戦争をまとめている。
この中で、アップワージーのピーター・ケックリーさんはこう話している。
いい見出しと悪い見出しの違いは非常に大きなものになり得る。それはとても誤差の範囲ではない。見出しのA/Bテストをすると、20%、50%、500%とページビューに差がでる。そして本当に優れた見出しはバイラルに拡散していく。
SXSWのスライドでは、見出しの違いでページビューが100倍違った例も紹介されていた。
何か、参考になっただろうか。
【追記】
ちなみに、アップワージーのSXSWの資料では、同サイトで100万を超すページビューを集めた、10のトップコンテンツから読み取れるいくつかの傾向をまとめている。次のようなものだ。
・質の高い動画である
・衝撃的な内容である
・リアルで人間的、真に迫った場面がある
・悪役、いじめ役が登場する
・そして、正義の味方が勝つ
・その時の読者の気持ちを代弁している
なるほど。
(2014年7月13日「新聞紙学的」より転載)