トランプ政権によるメディア攻撃が、どんどんとサスペンス映画じみた展開になっている。
By JoshBerglund19 (CC BY 2.0)
焦点になっているのは、トランプ政権とロシア政府を巡る疑惑だ。
スクープを打ち続けるメディアに対して、「フェイクニュース」「人民の敵」と連呼する以外にも、様々な"実力行使"を始めている。
一つは、批判報道の中心的なメディアを、会見から締め出すという前代未聞の措置だ。
さらには、スクープを打ち消すコメントを流すために、情報機関や有力議員たちも動員した、と報じられてる。
トランプ政権がメディア攻撃を強めるのは、ロシア政府との疑惑そのもののインパクトの裏返しでもある。
ニューヨーク・タイムズがそのスクープを打った直後、政権の支持率は一時的に40%を割った。疑惑解明を求める声は、世論調査で過半数を占めている。
"実力行使"に出るには、政権にもそれなりの切迫感があるようだ。
●会見締め出し
会見締め出しがあったのは24日午後。場所はテレビカメラも入る通常の会見室ではなく、報道官室。
ここで、ニューヨーク・タイムズ、バズフィード、CNN、ロサンゼルス・タイムズ、ポリティコ、BBC、ハフィントン・ポスト、AFPなどの記者が会見の立ち入りを拒否されたという。
一方で、ブライトバート・ニュースやワン・アメリカ・ニュース、ワシントン・タイムズといった保守系のメディアのほか、ABC、CBS、ウォールストリート・ジャーナル、ブルームバーグ、ワシントン・ポスト、フォックス・ニュースは会見に出席。
午後1時38分から40分間にわたって行われた会見では、この締め出しについて、こんなやりとりが行われている。
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Q:CNNが見出しで「CNNその他のメディアが記者会見から閉め出し」と配信している。CNNやニューヨーク・タイムズが今、この場にいないのは、あなたが彼らの報道を気に入らないからか? なぜ彼らはここにいないのか?
スパイサー氏:プール(代表取材)の社がいるからだ。さらにその枠を広げ、いくつかの社を加えて取材ができるようにした。
Q:だが、他の社を入れるスペースも十分あるでしょう。
スパイサー氏:プールの枠を広げるという判断は私がした。
Q:今日の保守政治行動会議(CPAC)で、大統領が間違いだと主張しているニューヨーク・タイムズ、CNN、その他のメディアの記事について、「何らかの対応をしていく」と述べている。これはどういうことか?
スパイサー氏:我々は積極的に反論していく、ということだろう。間違った話や間違った記事、不正確な事実が流布するのを黙って見ているわけではない、ということだ。
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閉め出された各社はもちろん、ホワイトハウス記者協会も、この措置に「強く抗議する」との声明を発表している。
●「人民の敵は人民の敵」
会見締め出しの約3時間前。
ホワイトハウスの南、自動車で20分ほどのポトマック川沿いの会議場で開かれていた保守政治行動会議(CPAC)で、会見でも質問のあったトランプ大統領の講演が行われた。
その中で、1週間前、ツイッターでニューヨーク・タイムズやCNNの名前を挙げて「人民の敵」と攻撃したことを引いて、こう述べている。
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みなさんに知ってほしいが、我々はフェイクニュースと闘っているところだ。フェイク、まがい物、フェイク。
数日前、私はフェイクニュースを「人民の敵」と呼んだ。彼らはまさにそうだ。彼らは人民の敵だ。なぜなら、彼らに情報源などないのだから。情報源などないのに、それをつくり出しているのだ。
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トランプ氏は、46分間のスピーチで、「フェイク」は13回(「フェイクニュース」は7回)、「人民の敵」も3回繰り返している。
大統領とメディアの緊張関係は今に始まったことではない。
「新聞なき政府と政府なき新聞のどちらかを選べと言われたら、躊躇なく後者を選ぶ」と述べたことで知られる第3代大統領のジェーファーソンも、その30年後には「今や新聞で目にするものは何も信じられない」と嘆いたという。
ウォーターゲート事件の渦中にあったニクソン大統領は、「プレスは敵だ」と述べたことが明らかになっている。だが、これは公の場ではなかった。
オバマ政権でも、大統領の番組出演について、フォックス・ニュースのみを除外するといった措置を取っている。
とは言え、これほどあからさまなメディア排除は、前代未聞だろう。
さらに、トランプ氏は匿名の情報源による報道が気に障るようだ。
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私が対峙しているのは、記事をつくり出し、情報源をつくり出す者たちだ。実名を出さないのなら、そんな情報源を使うことは許されるべきではない。名前を出せ。名前を出してみろ。
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ただ、後に明らかになるが、ホワイトハウスは"ロシア疑惑"打ち消しのため、メディア向けに、情報当局関係者に匿名を条件としたコメントを語らせている。
●ロシア政府との疑惑
トランプ政権がロシア政府との疑惑でまずミソをつけたのは、国家安全保障担当大統領補佐官、マイケル・フリン氏が、駐米ロシア大使との接触をめぐり、政権発足から1カ月もたたずに更迭された問題だ。
フリン氏更迭の翌14日、ニューヨーク・タイムズは、選挙期間中、トランプ氏の選対スタッフらが、ロシアの情報機関の関係者と頻繁に連絡を取っていたことが、米情報当局の傍受記録からわかった、と報じる。
フリン氏更迭に続き、相次いでロシア問題で押し込まれることは、政権にとって深刻な打撃になる。
さらにCNNは、締め出し会見前日の23日、ホワイトハウスのプリーバス首席補佐官がFBIのコミー長官、マカビー副長官に、タイムズの報道を公式に否定するよう要請したが、断られた、とスクープする。
そしてCNNは、FBIがこの疑惑を調査している当事者であり、調査中の案件についてのホワイトハウスとの接触を制限する司法省の内規に抵触する、と指摘している。
24日の締め出し会見では、スパイサー報道官が、首席補佐官とFBI側との接触を公式に認めながら、その経緯を釈明。FBIはタイムズの報道そのものは間違いである、と認めていた、と述べている。
●情報機関や有力議員へも協力要請
さらにワシントン・ポストは締め出し会見があった24日の夜、トランプ政権が、タイムズのロシア疑惑記事の否定のために、FBI以外の情報当局や連邦議会の有力議員に協力を要請。
これを受けて、情報当局関係者や有力議員が、記事否定のコメントをメディアに流すようになった、と報じた。
この働きかけについては、スパイサー報道官も認めているという。
トランプ大統領はこの日、匿名情報源の名前を明かせ、とメディアを批判していた。だが、トランプ政権が働きかけをした情報当局関係者からのコメントは、匿名が条件だったようだ。
この時、ポストも情報当局関係者にインタビューしたものの、具体的な内容はなく、記事にはしなかったという。他のメディアにも、関係者の否定コメントは掲載されなかった、としている。
ホワイトハウスの働きかけをうけた中で唯一、米下院情報委員会の委員長、デビン・ニューネス議員は、実名でコメント。
ウォールストリート・ジャーナルの17日付の記事に引用されている。
この中でニューネス議員は、情報当局に繰り返し問い合わせをしたが、更迭されたフリン氏に関するもの以外、報道を裏付ける証拠は出てこなかった、と述べている。
●疑惑解明を求める世論
トランプ選対とロシア政府との接触をニューヨーク・タイムズが報じた2日後の16日、ギャラップが公表しているトランプ政権への支持率は40%を切り、就任以来最低の38%を記録、不支持も最高の56%に達する。
ちょうどこの16日の午後、トランプ氏は就任後初となる単独記者会見を行い、批判的メディアについて、「フェイクニュースだ」と連呼した。
すると、翌17日からは支持率が上向きになり、不支持率も下がり始めていた。
だが、会見からのメディア締め出しという"実力行使"のあった24日、支持率は2ポイント下落、不支持率は1ポイント上昇とそれぞれ反転してしまう。
いずれにしろ、トランプ氏にとってメディア批判は、もはや手放すことのできないカードなのかもしれない。
やはり締め出し会見のあった24日夕、NBCとウォールストリート・ジャーナルが18~22日に実施した共同世論調査の結果を明らかにした。
それによると、全体の53%が、トランプ選対がロシア政府と接触していたとの疑惑について、「議会に解明を求める」とし、「求めない」の25%を大きく上回った。
さらには、ほぼ同じ割合(54%)で、ロシア政府による米大統領選介入の疑いについても「議会は調査すべき」とし、「求めない」の29%をやはり上回っている。
だが、いずれも党派別では、民主党支持層の80%が疑惑解明を求めているのに対し、共和党支持層ではそれが25%止まり。
トランプ政権は、メディア批判を繰り返すことで支持基盤の注目をつなぎとめておければよい、との姿勢を崩すことは考えにくそうだ。
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■デジタルメディア・リテラシーをまとめたダン・ギルモア著の『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』(拙訳)全文公開中
(2017年2月25日「新聞紙学的」より転載)