独禁法、プライバシー、音楽配信...EUはグーグルやフェイスブック、アップルとどう付き合っていくのか?

グーグル、フェイスブック、アマゾンの名前を、欧州連合(EU)絡みのニュースで、このところ立て続けに目にする。

グーグル、フェイスブック、アマゾンの名前を、欧州連合(EU)絡みのニュースで、このところ立て続けに目にする。

EUのシリコンバレー嫌いは今に始まったことではないが、どうも、その動きがここにきて改めて鮮明になっているようだ。

それぞれの問題は、具体的なサービスを焦点にしている。

ただ、「EUは、それで何がしたいのか」との疑問の声も出ている。

●良くない1週間

欧州に展開する米国の巨大IT企業にとって、今週は良い1週間とは言えないだろう。

欧州委員会のグーグルに対する独占禁止法(EU競争法)違反調査は、加熱する様相だ。フェイスブックのプライバシー管理の調査に乗り出すEU加盟国も、その数を増した。

そして、アップル。アイルランドにおける法人税の節税対策で既に批判を浴びているが、今度は、今年立ち上げ予定の新たな音楽ストリーミング配信事業をめぐって、欧州委員会から独禁法違反を懸念する声が上がっている。

それぞれに行きがかりのある、ややこしい問題ばかりが一斉に出てきた感じではある。

まずはグーグルだ。

●グーグルと独占禁止法

EUとグーグル、というと、ざっと思い浮かぶだけでも、「忘れられる権利」や「グーグルニュース/グーグルブックス」、「ストリートビュー」など、いくつもの問題がこれまで話題になってきた。

だが、中でも5年越しで続いている大どころが独占禁止法の問題だ。

欧州におけるグーグルの市場占有率は9割に及び、米国よりも高いと言われる。

これについて、EUの規制当局にあたる欧州委員会は2010年11月、グーグルがその支配的地位を濫用し、検索結果において自社サービスの表示を優先している、との域内のネット事業者らの申し立てを受け独禁法違反について調査を始めたことを明らかにしている。

ウォールストリート・ジャーナルニューヨーク・タイムズによると、欧州委がこの申し立て企業に対して、非公開で提出された申請書類について、一般公開することを認めるよう求めたのだという。

ジャーナルは、これはEUがグーグルを独禁法違反で提訴する構えであることを示唆するもの、との専門家の見立てを紹介している

EUではこの他にも昨年11月、欧州議会がグーグルを念頭に、「ネット検索企業の分割」を求める決議を行うなど、対決姿勢を強めている。

また、グーグルは同年12月、スペインでニュース使用料の支払いを義務づける新法ができたことを受け、スペイン版のグーグルニュースを閉鎖し、波紋を広げていた。

●フェイスブックとプライバシー

フェイスブックについては、今年1月から改訂されたプライバシーポリシーが、EUの個人データ保護基準に合致しているかどうか、が問題とされてきた。

タイムズによると、すでにオランダ、ベルギー、ドイツの規制当局が調査を進めていたが、これに加えて、フランス、イタリア、スペインの規制当局も動き出したのだという。

さらにフェイスブックを巡っては、EUと米国のプライバシー保護協定そのものに関わる裁判も審理中だ。

EUと米国は、2000年にプライバシー保護に関する「セーフハーバー協定」を締結している。

EUはプライバシー保護レベルが十分でない、と見なした第三国への個人データ移転を禁止しており、日本への移転は認められていない。

米国の場合、プライバシー保護に関する一般法はなく、自主規制がベースになる。

だが「セーフハーバー協定」によって、米商務省が承認した米国企業に対しては、EUからの個人データ移転を認めている。

「セーフハーバー協定」は、EUと米国の「プライバシー外交」を象徴する、特例的な取り決めと言える。

これについて、オーストリアのプライバシー保護活動家、マクシミリアン・シュレムスさんが、フェイスブックの国際本部があるアイルランドの規制当局、個人データ保護委員会に訴えを申し立てた

シュレムスさんの当初の訴えは、フェイスブックが、EUの個人データ保護基準を満たしていない、との内容だった。

だが、米国家安全保障局(NSA)によるネットの諜報活動が明らかになった「スノーデン事件」を受け、そもそも米国は、「セーフハーバー協定」の基準を満たしていない、として協定解消を求めていた。

シュレムスさんの訴えそのものは認められなかったが、「セーフハーバー協定」を巡る判断については、EU司法裁判所に審理が委ねられた。

3月24日に開かれた証人尋問の中で、欧州委員会の法律顧問であるベルナール・スキーマさんは、15人の裁判官を前に、こう証言したという。

もしフェイスブックのアカウントを持っているのであれば、閉鎖を考えてみてもよろしいのではないでしょうか。

EU司法裁による判断は、6月24日までに示される予定だという。

●節税と音楽配信

アップルの件も、競争政策に絡むものだ。

フィナンシャル・タイムズによると、今夏に予定されているアップルの有料の音楽ストリーミング配信をめぐり、欧州委員会が各音楽レーベルに対し、アップルとの協議内容についての質問書を送付したのだという。

アップルは、昨年5月に30億ドル(約3050億円)で、音楽配信を手がけるビーツ・エレクトロニクスを買収。これをもとに、課金型のストリーミング配信に乗り出す。

ストリーミング配信では、無料と有料のサービスを組み合わせたスウェーデン企業「スポッティファイ」などと、直接競合することになる。

アイチューンズで築いた音楽配信分野での支配力を濫用することへの懸念と、これに対する牽制ということが、背景にあるようだ。

さらに、アップルはこの他にも、アイルランドの子会社を使った法人税の優遇措置で、欧州委から目をつけられてきた経緯もある

●欧州には何ができるのか

イタリアのネットセキュリティ専門家、アンドレア・ストロッパさんは、ハフィントン・ポストのブログで、こんな問いを投げかけている。「米国のIT企業を調査する以外に、欧州には何ができるのか

EUは、米IT企業を独禁法違反などで調査するだけでなく、それらに対抗できるだけのイノベーションを育てるべきなのに、実際にはその基盤となる研究予算を、来年度だけで8億ユーロ(1000億円)削減する動きがある、と批判。

さらに、こう述べている。

EU当局は、引き続きグーグルを追及していくことはできるだろうが、自らの未来と向き合うことを避けるわけにはいかないのだ。

これに対し、オライリーメディアCEOで、論客でもあるティム・オライリーさんもこう述べる。

欧州政府によるイノベーション支援の失敗についての、とてもいい論考だ。彼らは、その代わりに既存産業を守っているのだ。

日本では、EUのような調査すら、寡聞にしてあまり耳にしない。

ただ、ストロッパさんが指摘する点は、他人事ではないだろう。

(2015年4月5日「新聞紙学的」より転載)

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