1882年3月24日、ドイツのロベルト・コッホ博士が結核菌を発見し演説した事に因み、世界保健機関(WHO)は1997年の世界保健総会で毎年3月24日を「世界結核デー」(World TB Day)とした。
未だ年間で150万人が亡くなるという現実を前に、毎年テーマを掲げて世界中で結核に対する意識を高める取り組みが行われている。
2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミット。この場で採択された国連ミレニアム宣言を基に、開発分野における国際社会共通の目標としてミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: 以下MDGs)が掲げられ、昨年2015年にその達成期限を迎えた。
MDGsは6つ目のゴールとして「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」を掲げ、その一つのターゲット(ターゲット6.C)として「マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに食い止め、その後発生率を減少させる」を設定。この中には結核も含まれている。結核撲滅に向けた世界の歩みを概観する。
1990年から2015年にかけての結核の感染者数、死亡率、有病率を表したグラフ(10万人当たりの推計人数) 「Millennium Development Goals Report 2015」より
年間150万人が結核によって亡くなっている
国連ミレニアム開発目標2015年度版報告書によれば、2000年以降世界の全ての地域において結核の罹患率(観察対象の集団において、ある観察期間に疾病の発症の頻度をあらわす指標の一つ)は減少しており、年平均約1.5%の減少が報告されている。
その一方で、2013年では推定900万件の新たな結核の感染が報告されている。この減少率はやや緩やかであることが指摘されているが、報告書発行時点(2015年7月)では、2015年末までにこのターゲットは達成される事が期待されている。
1990年から2013年にかけて、結核による死亡率は全世界で45%減少しているが、未だに年間で150万人が結核で亡くなっており、また小児の55万人が結核を発症、HIV陰性の小児8万人が結核で死亡したと推計されている(2013年)。
HIV/AIDSに続き、結核は単一の感染症として世界で2番目に死亡者数が多い疾患となっている。
結核はHIV感染者の主な死因の一つで、HIV感染者の死因の20%を占める。
結核による死亡の95%以上はアジアやアフリカをはじめとする低所得国・中所得国で発生しており、15歳から44歳までの女性の五大死因の一つでもある。
東アフリカに位置するルワンダにて筆者撮影
発展途上国における治療の進歩
報告書では、結核の治療を受けている人の数が1995年の290万人から2012年の580万人へ大きく増加したことが示されている。2012年に新たに結核と診断された患者のうち、全世界で86%の人々が結核の治療をしっかりと受けることが出来ている。
難民・移民に忍び寄る結核の影
世界保健機関(WHO)は17日(木)、中東やアフリカから欧州へ向かう難民・移民は、多剤耐性結核菌*への高い感染リスクに直面していることを発表した。
*多剤耐性結核菌...最も強い抗結核作用を持つ薬二剤以上に対して耐性を持つ結核菌を多剤耐性結核菌と呼ぶ。
難民キャンプや一時的な仮設住宅など、十分でない環境下で暮らしている彼ら難民・移民は、結核に感染していると診断されるのが遅くなることがしばしばなため、完全な治療を行うことがより難しくなっている。
WHO欧州事務所によれば、難民・移民が結核を患う、もしくは症状を悪化させる要因は複数あり、母国における結核の有病率(集団における疾病の静的な割合をあらわす指標の一つ)もその要因の一つだ。
しかしながら、興味深いことに、難民・移民の母国のうちいくつかの国では、結核の新規感染者数がヨーロッパ地域の平均よりも少ないことがデータで示されている。
WHOと欧州疾病予防管理センターから出されているデータによれば、ヨーロッパにおける2014年の結核感染者数は推定で34万人、人口10万人に対して37人が結核を患っている計算となる。
一方で、今年で6年目を迎える内戦が続くシリアでの新規結核感染者数は10万人あたり17人と言われているが、この数はヨーロッパよりも少ない。
医学の進歩や予防接種の普及により、先進国では昔ほど恐れられることの無くなった結核。一部の人は、「結核は過去の病気」と考えているかもしれない。
しかしながら、新規感染者数や死亡率は地域によって偏りはあるものの、未だ発展途上国をはじめとする世界の多くの国では、結核により多くの人が苦しみ、そして命が奪われ続けている。
(2016年3月23日 Platnews「結核は過去の病気?年間150万人が結核による犠牲にー世界結核の日(3月24日)」より転載)