毎年3月20日は、国連によって定められた「国際幸福デー」(International Day of Happiness)として、「幸福の追求」を目指した様々な働きかけが世界各地で行われる。
国連は今月16日、2016年度版の「世界幸福報告書」(2016 World Happiness Report)を発表、世界で「最も幸せな国」にはデンマークが輝き、続いて2位には僅差でスイスがランクイン。
今年で6年目を迎える内戦が続くシリアは157ヵ国中156位、最下位にはアフリカのブルンジが入った。私たちが暮らす日本は53位にランクイン、昨年の46位から順位を7つ下げた。4刊目を迎えた同報告書(2012年に初刊発行)では、「不平等」(inequality)に大きく焦点が当てられた。
現在、発展途上国と呼ばれる国々では、国民の過半数を農業従事者が占め、また貧困層の約70%が農村部に居住していると言われている。
本報告書によれば、一人当たりの国内総生産(GDP)・健康寿命・社会的支援(困ったときに頼れる人の存在)・信用性(政治やビジネスにおける汚職のなさ)・人生における選択の自由・寛容性の6要素で、各国間・各地域間の違いの約4分の3を説明できるというが、貨幣経済が主流を占める現代世界においては、経済的な貧困はこの「各国別幸福度」にいくらか影響を及ぼしているだろう。事実、幸福度ランキングの最下位グループは中東やアフリカ諸国によって占められている。
しかしながら、この報告書はあくまで統計的な結果を表したものであり、一人一人の「幸せ」の定義は決して画一的なものではなく、それを数値で捉えることは難しい。そしてまた、必ずしも経済的「貧困」が一人一人の「不幸」に繋がっているかどうかなど決して分からない。
全人口の約半数が1日1.25$以下で暮らしており(2009年)、約80%が農村部に暮らしていると言われるバングラデシュ。
今回の報告書における幸福度は157か国中110位と下位にランクインしたが、南アジアに位置するこの緑豊かな国で暮らす人々は一体どのように暮らし、そして自分たちの暮らしをどう思っているのだろうか。実際に現地で話を聞いてみた。
バングラデシュ農村部の風景(photo by バングラデシュ国際協力隊)
村の市場
農家のおじいさん
インタビューに答えてくれたアリミヤさん(photo by バングラデシュ国際協力隊)
67歳。インタビュー当日は朝7:00~8:30に市場で自作のバナナ・パパイヤを販売、100タカ(約140円)の売上をあげた。普段の生活は朝に市場で農作物を販売し、昼からは田んぼで働く。また牛の飼育もしているため、朝市では米やミルクも売ることがある。1日の収入は売り上げによって左右されるが、約50〜200タカ(約70円~280円)とのこと。
「今は息子3人がブルネイに出稼ぎに出ていて、みんな工事現場で働いています。送金もしてくれるので、今の生活は経済的に苦しくはなく、これ以上働く必要性も感じていない。ただ、自分の健康のため、そして自分が仕事したいから働いているんです。働くことが、自分の元気の秘訣です。」
現在の生活には満足しており、特に必要な物や欲しい物はないとのこと。
ただ、もう少しお金に余裕があれば野菜なども販売できると話していた。彼はイスラム教徒だが、神のご加護で生活が成り立っていると言う。
シャプラ売りの女性
インタビューに答えてくれたシャプラ売りの女性(photo by バングラデシュ国際協力隊)
夫が日雇い労働者をしており、娘が二人いる。
この日はシャプラ(睡蓮)を1束10タカで売っていたが、自生しているものを採取して販売しているため、この仕事はたまにする程度。
「私は田んぼは持っていませんが、その代りに牛や鶏を育てて牛乳や卵を売っています。収入は少ないので貧しい生活ですが、それでも生活は何とかできているので、これといって特に必要なものはありません。
ただ、中学高校に通う娘の教育費に関しては少しだけ困っています。今はグラミン銀行から総額5000タカ借りていて、毎週150タカずつ返済をしています。」
農村部の小学校
雨季が終わった直後だったため、学校までの道は水没していた。(photo by バングラデシュ国際協力隊)
児童数は約170人。学年は小学校1年から5年まで。教師数は校長先生1人と先生3人。教室が2つと教員室が1室と、非常に狭い。
通常経済的に貧しい環境下に置かれた子供たちは、家計を助けるため学校よりも仕事を優先し、ドロップアウト(途中退学)することが多いと言われているが、この小学校のドロップアウト率はほぼ0%。
子供たちに将来の夢を聞くと、医者・アナウンサー・エンジニアの答えが多かった。(photo by バングラデシュ国際協力隊)
学校の問題点(校長先生より)
①学校までの道が舗装されてないこと。
②雨漏りをしていて、次のサイクロンで学校が壊れるかもしれないこと。
③教科書は1年に1度しか貰えないため、破損してしまったら1年ともたないこと。
④学校に遊具がないこと。
小学校に通うため、子供たちは沼を渡る。大変ではあるが、皆楽しそうであった。(photo by バングラデシュ国際協力隊)
小学校を訪問するため、私たちも沼を渡った。(photo by バングラデシュ国際協力隊)
確かに、統計的には世界の発展途上国に暮らす大部分の人々は農村部に暮らしており、また「お金」の面から考えれば、その大部分が1日を1.25$以下で暮らしている。そしてその数値は、貨幣経済が主流の日本で暮らす私たちから見れば、確かに「貧困」かもしれない。
しかし、彼らの大部分は農業に従事しており、自給自足の暮らしのため、「お金」に縛られた生活をしていない。異常気象などによる不作などを考慮すれば不安定な生活と言えるかもしれないが、決して「貧しい」と一言で言い切ることは出来ない。
そしてまた、今回記事にした人々以外でも、「今は特に必要な物はなく、幸せな生活を送ることが出来ている。」と話す人が多く見受けられた。
仕事の時間以外、いや仕事の時間ですらも家族と共に過ごせる事。また、農村での生活ならではの近所や地域との繋がりの強さが、人々が言う幸せに繋がっているのかもしれない。
今の日本が忘れてしまった幸せを、目の当たりにした気がした。
農村部に暮らす子供たち(photo by バングラデシュ国際協力隊)
バングラデシュ国際協力隊の活動はこちらをご覧ください。現在新メンバーも募集しております(大学生限定)。
(2016年3月17日 「「貧困」=「不幸」なのか?バングラデシュの農村を訪れた--国際幸福デー(3月20日)に寄せて」より転載)