世界を魅了するベネズエラの若き天才指揮者グスターボ・ドゥダメルですが、ベネズエラの独裁政権を支持しているとして、批判が高まっています。
今年の2月以降大規模な反政府デモが続く中で、今年2月12日にドゥダメルはカラカスで政府が後援するエル・システマのコンサートで指揮を行いました。
このビデオはその2月12日当日にドゥダメルの指揮によって演じられた音楽に合わせて、その背後で起きている様々な抗議の様子を見せています。
ドゥダメルがマドゥロのために演奏を行った2月12日の午後、制服を着た国家警察と私服の政府関係者らによって発砲され、平和的にデモ行進を行っていた23歳の学生バシル・ダコスタが頭を撃たれて亡くなりました。これについては、ベネズエラのメディア Últimas Noticiasが詳細な調査を元に事実関係を検証し、学生を死に至らしめたのが警察官であったことを証明しています。
またロベルト・レッドマンは政府系自警団コレクティボからの攻撃により負傷し、そのまま亡くなりました。同様に政府系自警団メンバーのフアン・モントヤも撃たれて亡くなっています。
2月12日のコンサートは、会場の外では3名もの死者が出るという緊迫した状況の中で行われましたが、この件についてドゥダメルは政治的な立場を明確にせず、沈黙を続けています。
しかし現にマドゥロ大統領のために演奏を行ったことは、多くのベネズエラ人にとっては政府支持の表明と映りました。
彼は音楽によって貧困から抜け出した国民的英雄でしたが、この一件により、それまでドゥダメルを支持してきた多くのベネズエラ人が失望しました。
ベネズエラ人ピアニストのガブリエラ・モンテロは公開質問状の形でドゥダメルを批判し、以降、ベネズエラの状況が悪化するにつれ、沈黙を通すドゥダメルに対して批判する声や、彼の著名人としての立場を懸念する声があがっています。
ロサンジェルスでのドゥダメルのコンサートにプラカードを持って抗議する人。
[ドゥダメル、銃弾のコンサートにはどんな音楽が合うかしら?]
ドゥダメルが指揮する公演にはベネズエラ政府に反対する市民がベネズエラ国旗やプラカードを持って抗議に駆けつけており、その様子は#SOSVenezuelaというタグでTwitterでシェアされています。
ボストン・シンフォニー・ホール前で抗議する人々。
[ドゥダメル!マーティン・ルーサー・キングも「沈黙は裏切りだ」と言っている]
バルセロナのコンサートで「声と自由」を掲げ抗議する人々。
[ドゥダメル、あなたの音楽が学生達の血をもたらす]
[僕も音楽家です。でも暴力は支持しません]
[ドゥダメル、あなたの音楽は独裁者の音がする]
なぜドゥダメルは沈黙しているのか、エルシステマのために必要に迫られて政府に協力しているのではないか、それでも政府に対して反対を表明するのが著名人としての義務ではないか、と様々な憶測がありますが、実際はどうなのでしょうか?
多くの人は、ドゥダメルはただエルシステマに対する政府の資金援助を確保するためだけにチャベス派に忠誠なふりをしているのだと考えている。何千もの子どものためなのだから、必要ならば赤いベレー帽*を被るのもいたしかたない、と考えたくなる人もいるかもしれない。もしそうなら、彼の行為は正当化されるだろうから。
でも、もし彼が自分の意志でそれをやっているのだとしたら?
もし彼が、本当にチャベス主義は他よりも優れていると考えているのだとしたら?
*訳注:チャベス派のシンボル
Caracas Chronicles: In defense of Dudamel
2014年2月14日 Juan Cristobal Nagel
10年ほど前、私がイタリアに住んでいたとき、「誰に投票する?」とイタリア人に尋ねて「個人的な問題だから答えたくない」と返答する人はベルルスコーニに投票すると聞かされたものでした。ベルルスコーニ以外に投票しようと考えている人は、気楽に(あるいは積極的に)誰を支持しているか話すからだそうです。
世紀の天才指揮者ドゥダメルの沈黙も、現在、チャベスを支持する他の多くの知識人が沈黙しているのと同様に、世間の冷たい視線を意識した上でのことかもしれません。
もちろん、彼には好きなだけ自国の独裁政権を支持する自由と権利があります。
そうはいっても、やはり、彼のような素晴らしい音楽家が、市民に対して深刻な人権侵害を行う政府を支持しているのを見るのは残念です。