(2015年)
本作は、最近行われた「第28回東京国際映画祭」のクロージング作品であった。映画祭のクロージング作品という〆(シメ)には相応しい名作である。
直木賞作家桜木紫乃の小説を原作にした人間ドラマである。55歳の主人公は、今は弁護士であるが、若い頃、判事をしていたときの苦い失敗をいまだに引きずっている。心の隙間大きいだけに、被告人で、孤独な25歳の女と出会って、お互い心を許し、自分を取り戻していく。
25年前に、北海道旭川の地方裁判所判事だった鷲田(佐藤浩市)は、担当した覚せい剤事件の被告となって表れた、昔の恋人・冴子(尾野真千子)と法廷で偶然にも再会する。お約束であるが、東京に妻子を置いてきた単身赴任ということもあって、関係をよみがえらせてしまう。しかし、その後、彼女を失うこととなり、心に深い傷を負って、精神的に参ってしまう。
その後、鷲田は判事を辞めて、妻子とも別れて、さらに流れて、釧路で国選弁護専門の弁護士として孤独な日々をヌケガラの様に送っていた。そのとき、担当することになった事件の被告人・敦子(本田翼)と出会う。彼女に冴子の面影も感じられ、"またも"仲良くなってしまう。そして、二人でモノトーンの世界から脱却していく。
『壬生義士伝』、『ザ・マジックアワー』に出演してきた佐藤浩市も「ちょい悪」系で鳴らしたが54歳となり、初老を演じるようになってきた。影のある演技は人生の経験が生きているのかもしれない。(どうでもいいはなしであるが、私も52歳であるが、もっと頑張ろうと思った)本作は、北海道ということで場面もそうであるが、さらに駅ということもあり、『鉄道員(ぽっぽや)』とイメージがダブった。今後、佐藤浩市は高倉健の演じた陰のある男の役を継承していく予感もしている。
本作品では映画本体も素晴らしいが、ロケを敢行した北海道釧路市の風景も素晴らしい。ぜひ行きたくなる。さらに一人暮らしの長い主人公がする料理の手際が良く、おいしそうである。(実は、筆者も、料理も趣味というか修行中で、ABCクッキングにも通っていた) 特に、彼が作る「ザンギ」は美味しそうである。そもそも、最近、唐揚げブームであるが、このザンギは北海道の釧路で生まれたもので、北海道限定といった地方区の唐揚げで、筆者も大好きである。(流行の兆しあり)
現在、地方経済は空洞化などといわれて弱体化し、地方銀行の合併も続いている。やはり、手っ取り早いのは「観光」ではないか。それには、このように「映画」が役に立つ。それも、映画の一つの役割として期待できるのではないか。現在、日本の景気は、現在の年金受給している年代の高齢者の消費で持っているところも大きい。彼らはまた旅行も好きであり、朝、東京駅を通ると高齢者が溢れている。この映画を見ると、行きたくなるに違いない。もともと、筆者を映画評論家にしてくれて、感謝をしている名作『ローマの休日』もローマの観光案内の役割もあった。(弊書『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)ご参照)
もちろん、筆者自身も、釧路は行ったことがないので、行きたくなってきている。東京に住んでいる私は、『起終点駅 ターミナル』という映画ではあるが、鉄道ではなく、さすがに飛行機で行くと思うが、ご容赦願いたい。
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