(Something in the Way /2013年)
東京国際映画祭で上映されたインドネシア映画。首都ジャカルタでタクシー運転手をしているアハマドは、日々、仕事とイスラム教のモスクを行き来する。しかも、営業成績が悪く、日々、社長に責められている。そういった状況に鬱々としながら、自宅の部屋にるほとんどの時間はアダルトビデオを見まくるといった無為な日々を送っていた。
そんなある日、彼は、隣に住む、美人のサンティが娼婦として働いていることを知る。彼女の後を追い、娼婦街に入っていく。さらに、彼女を追ううちに、ホテルから逃げてきた彼女を助けて親しくなる。
アハマドは純な気持ちで、彼女を売春から救い出そうとする。当然、その売春組織と対立していくことになり、過激に襲撃するが、悲劇的な最後に向かっていく。
大都会の中で、孤独で真面目な男の中にあるイスラム教の宗教心と性的欲望のバランス、正義の結果としての暴力も良いストーリー(脚本)で描かれている秀作である。
本作をみるとインドネシア・ジャカルタの様子がよくわかる。インドネシアを含めた東南アジア10か国(6億人)から成るASEAN(東南アジア諸国連合)の経済成長は基本的に堅調である。それはASEAN諸国自体で生産しながらも、それぞれ人口も増加し内需も拡大しているという、自己発展型の経済成長が基本となっているためである。そのため外からの経済的影響は受けにくい体制となっている。本作にもある、あの混沌とした街の状況が経済成長の証ともいえるかもしれない。
インドネシアは約2億人の人口を持ち、その約9割がイスラム教徒で、実は世界最大のイスラム国となっている。ジョコ政権も経済刺激策を実施し、遅れているインフラの開発も対応され将来性も高い。通貨ルピアの為替レートも安定し、インドネシア中央銀行も景気刺激のために利下げを継続していた。
しかし、ドナルド・トランプが米国大統領に当選し、ドル高・株高のトランプ相場が始まると状況は一変した。日本円も下落しているが、インドネシア・ルピアも含めた新興国の通貨が大幅に下落し、ミニ通貨危機の状況になっている。インドネシアの通貨当局もルピア買いの為替介入をしているが、それでも下落は止まらない。通貨の下落も少しであれば輸出が伸びて、経済に良い影響があるが、下落が大幅だと経済全体に与えるダメージが大きい。
本来は景気刺激のために、インドネシア中銀は利下げをする予定であったが、利下げすると通貨ルピアがさらに下落するために金利を操作することができなくなっている。経済政策の運営がトランプ相場によって動きが取れなくなっているのである。これはインドネシアに限らず新興国に共通した経済問題となっている。
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