『インフェルノ』―人間の賢さが試される時(110)
(INFERNO /2016年)
ダン・ブラウン原作による"ダ・ヴィンチ・コード"シリーズ第3弾。『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)、『天使と悪魔』(2009年)またも、宗教象徴学者ロバート・ラングドン教授が、世界を破滅させる陰謀に個人的に立ち向かって解決する姿を描く。
今回は、人口増加問題の過激な解決策として、人類滅亡の恐るべき計画を企てた生化学者ゾブリストが登場。彼が詩人ダンテの叙事詩「神曲」の地獄篇(インフェルノ)に隠した暗号を読み解き、巨大な陰謀から世界を救うべくラングドンがまさに奔走する。まさに、この教授はよく走る。この映画はネタバレに関して厳しく、今後の展開については詳しく書くことができないが、要はそれだけ面白いということである。
スタートはイタリアのフィレンツェで、ヴェッキオ宮殿の「五百人広間」、さらにヴェネツィアのサンマルコ広場やドゥカーレ宮殿、そしてトルコ、イスタンブールのアヤソフィアへと「どこでもドア」のように移動する。その歴史的・宗教的な雰囲気が嫌がおうにも盛り上がる。この風景を見ているだけでも楽しく、この"ダ・ヴィンチ・コード"シリーズらしく「旅行映画」としても十分楽しい。
監督はシリーズ全作品を手掛けるアカデミー賞監督ロン・ハワード。かれは最初は『アメリカン・グラフィティ』などに出演した役者だった。ラングドン教授を演じるのはもちろんトム・ハンクス。彼は最初は『サタデー・ナイト・ライブ』に出演していたコメディアンだった。ラングドンとともに謎を追う美貌の女医シエナに『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に主演するフェリシティ・ジョーンズ。
日本では人口減少の方の問題が深刻だが、世界レベルで見ると人口増加(爆発)の方が深刻である。筆者が中学生のときに読んだ(研究した)『成長の限界』(1972年:ローマクラブ)という書籍があった。資源と地球の有限性に着目し、イナミクスの手法を使用してとりまとめた研究で、1972年に発表された。「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らしていた。
この人口問題についていうと、経済学を勉強する学生の古典的必読書、トマス・ロバート・マルサスの『人口論』(1798年)によれば「人は幾何学級数的に増加するが、食料は算術級数的にしか増加しない」のである。確かにそうである。まさに、環境問題も人口問題も人間の賢さが試される問題である。
ちなみに、宗教象徴学という学問はありません。無理に当てれば『記号論』か『記号学』でしょうか。余りそういう話が出てこないので、多分、学位はもっていないのではないでしょうか。(日本の公的機関でも学位の詐称問題が発生しましたが)
また、以前、この"ダ・ヴィンチ・コード"シリーズで、トム・ハンクスに映画評論家としてインタビューしたことがあった。そのときの筆者の質問は「トムさん、映画のテーマは隠ぺいですが、あなたの過去で隠ぺいした過去はありますか」でしたと。
するとトムは「宿輪さん、それは逆で演技というものは自分の内面を出していくものなのです。だから私は自分の内面をできるだけ出し、また自分の内面を磨くことをいつも心掛けている」と。流石と思った。
また、握手をするときに、分かったのであるが、彼の瞳はなんと「エメラルドグリーン」である。映画関係者に聞いてみると、映画って緑、とくにエメラルドグリーンが出にくいそうである。この作品でぜひ彼の瞳の色を確認してほしい。
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