母の一途な想い、超一流の放射性物質測定ラボを実現

ひと目でわかる高額機材の山。白衣を着たスタッフの方々。まるで大学か専門機関のラボです。ここまでやってしまうとは...!

いわき市放射能市民測定室「たらちね」。子どもたちの安全は自分たちで確認するしかない...と決意したお母さんたちの一途な想いが、超一流のラボを作り上げました。

前回に続き、原発のない社会をめざす自治体議員連盟「グリーンテーブル」の活動として1/13〜14に行った楢葉町・いわき市視察の記事です。

1/14はいわき市内の視察を行いました。

木質バイオマス燃料による「ペレットストーブ」

いわき市は太陽光発電、太陽熱発電、風力発電などの再生可能エネルギーの活用を進めており、その一環として、化石燃料や電力を使わない木質バイオマス燃料による暖房「ペレットストーブ」を市内で39台導入しています。

視察団はまず、ペレットストーブを利用している施設のひとつである江名小学校を訪問しました。

このストーブの商品名は「ペレチカ」。

「ペレット」と「ペチカ」の合成語なんでしょうね^^

名の通り、ペチカのような暖かい炎に癒やされます。

いわき市では毎年数校にペレットストーブを導入。

学校は避難所にもなっていますので、停電時でも暖を取り避難所を運営できるというメリットがあります。

江名小学校では、教育の中でも再生可能エネルギーについて学ぶ機会を設けているとのことです。

「ここは野戦病院なんです」いわき放射能市民測定室たらちね

続いて視察団は小名浜に移動し、いわき放射能市民測定室「たらちね」を訪問しました。

福島第一原発事故後、周辺地域の住民、特に子どもを持つお母さんたちが強い不安を感じ、行政に放射能被害に関する情報公開や対応を求めてきましたが、行政の対応は満足できるものではありませんでした。

事務局長の鈴木薫さんはこう語ります。

「自分の子どもたちに、何を食べさせたらいいかわからなかった。だから、自分たちでやるしかなかったんです」

「ここは野戦病院なんですよ。現実に放射線被害があり、健康不安があるのだから、実際に事実をひとつひとつ手探りで確かめていくことが必要なんです」

2011年11月13日に活動がスタート。

食品検査機とホールボディカウンターを導入し、人体や食材のセシウムやヨウ素の測定を行える環境を手探りで整備しました。

1億かかるはずのホールボディカウンターを、550万で導入できるワケ

ホールボディカウンターといえば、私も3.11直後、福島から板橋区へ避難してきている方々や健康不安を感じる方々のために、板橋区もホールボディカウンターを導入してはどうかとぶち上げたこともありましたが、「1億円かかりますよ」と言われました^^;

まず放射線を遮るための、専用の部屋を作るところからやらなければならないと言われ、さすがに板橋区でそれは理解されないな...と、断念したものです。

そんなことが市民レベルでできるものなのか...?

ところが、「たらちね」は熱意と工夫でやり遂げたんですね。

なんだこれは!

この箱はいったい...?

さらに接近すると、水がいっぱいに入ったペットボトルが敷き詰められています!

聞くと、この周りを取り囲んでいる箱の中にも、水をいっぱいに入れたペットボトルがぎっしり詰まっているそうです。

これによって周囲からの放射線の影響を遮断し、被験者の内部被ばくを検査できるとのこと。

精度は専門家のお墨付き。

こうした工夫によって、550万円ほどでホールボディカウンターを導入できたというから、驚きです...!

ホールボディカウンターの利用者数は、3.11直後に殺到したもののその後しばらく落ち着いていたのですが、昨年後半から最近また増加してきたとのことです。

原発作業員や除染作業員の方々、高線量地域で作業している方々の利用が増えてきているそうです。

詳しくは「たらちね通信 vol.10」をご覧いただければと思います。

本格的すぎるラボ。ベータ線計測室

続いて、ベータ線計測室に案内していただきました。

入って驚きました。

ひと目でわかる高額機材の山。白衣を着たスタッフの方々。

まるで大学か専門機関のラボです。

ここまでやってしまうとは...!

「2015年4月からベータ線測定核種(ストロンチウム90/組織結合型トリチウム/自由水型トリチウム)の測定を開始しました。これを行うためは非常に高度な技術が必要で、いい加減な機材や専門性のない人材では信頼性が確保できません。そのため、機材は最高のものを揃え、人材も一流の専門家の方々に来ていただいています」

「専門家の方々もこのような、ともすると行政の方針に反するかのような市民活動には、普通のレベルの方では参加できません。胆力のある優秀な方でないと協力できないんです。ですから『たらちねに協力している専門家は、車に例えるならレクサスだ』などと言われることもあります」

ひえー...。

もう「脱帽」以外の言葉はありません...。

これがメイン機材であるシンチレーションカウンター、フィンランドHidex社製300SL/SLL型です。

トリチウムやストロンチウム90の計測ができます。

普通に購入したら1000万円はするシロモノ。

これのみならず、増大するニーズに対応するため、今度は2000万円のシンチレーションカウンター導入のための寄付を募っているそうです。

なぜそこまでする必要があるのですか...?

「自分たちの生活圏の中で、食材や水・土壌のベータ線を迅速に測定し無用な被ばくを防ぐ必要があるからです。専門機関に依頼したら、ストロンチウムは20万円、トリチウムは16万円といった値段になってしまい、とても一般の人には手が出ません」

「トリチウムは白血病の原因になるとも言われており、事故が起こっていない原発からもどんどん出ています。福島第一から出る汚染水を浄化する装置『ALPS』でもトリチウムは除去できず、海にどんどん流れ出ています。これがこの先どのような影響をおよぼすか、誰にもわかりません」

「行政はその事実について、何も語りません。ですから今後のためにも、誰かが測定して記録を残しておかなければなりません」

こちらはベータ線計測室の責任者、工学博士の天野光先生です。

「十分な精度を確保しつつどうやって費用を抑えるか、様々な工夫をしています。たとえばこれは100均で売っている圧力鍋なんです。これを使って測定対象の野菜から純水を取り出しています」

「野菜から純水を取り出す必要がある、やり方を考えてほしい、とお母さん方にお願いするんですね。そうするとみなさんがいろいろな方法を考えてきてくださいます。この純水を取り出す作業だって、専門のメーカーに頼んだら数千万の機材を持ってきますからね^^」

「測定の精度が問われます。市民がやっていることですから、精度が悪いと相手にされなくなってしまいます。そのためお母さん方もIAEAの教科書で勉強したり、『標準試料を使っての測定トレーニング』も行っています」

標準試料とは?

「機材や測定の精度をチェックするため、『この試料を測定したらこの数値が出るはずだ』ということがはっきりしている試料が必要なんです。こういう試料を『標準試料』と呼びますが、精度の確保のためには高品質の標準試料が必要です。ここでは、NBS(現在のNIST。アメリカ国立標準技術研究所)の標準試料を使っています」

...いやはや...。

当初「市民測定室」という名前で想像していたイメージをはるかに超える、ひょっとすると日本最高峰の一画にいるんじゃないかと思えるほどのクオリティですね。

「普通、放射性物質検査の専門家と一般市民が接する機会なんて皆無じゃないですか。だから一般市民は、専門的なことはわからない、行政や専門機関に任せるしかない、と思ってしまいます。でも一般市民が自分たちで動くことで、専門家と市民が同じ場で交流する機会が生まれ、互いを隔てる壁が低くなっていくんです」(鈴木薫さん)

いやーもう、脱帽、脱帽、また脱帽です!

本当に勉強になりました。ありがとうございました!^^

原発のない社会をめざす自治体議連「グリーンテーブル」、粘り強く活動します!

今回の視察に参加したグリーンテーブルのメンバーです。

敬称略で左から、代表・山田実(前滋賀県議)、中川浩(埼玉県議)、福嶋あずさ(いわき市議)、薮原太郎(武蔵野市議)、川名雄児(武蔵野市議)、角倉邦良(群馬県議)、中妻穣太(板橋区議)、木村孝(習志野市議)の8人でした。

今回は少数での視察になりましたが、全国の自治体議員がメンバーになっており、これまで様々な活動を行ってきました。

国会議員との交渉力も持っており、民主党のエネルギー政策に対する提言なども行ってきています。

現政権下では「原発のない社会」への道のりは遠いですが、粘り強く取り組んでいきます!

(2015年1月16日「中妻じょうた公式ブログ」より転載)

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