定額制音楽ストリーミングサービスSpotifyのCEOで共同創業者、ダニエル・エク(Daniel Ek)が、テイラー・スウィフトがSpotifyから全アルバムを削除した件や、Spotifyのビジネスモデルについて公式の声明文を発表しました。
テイラー・スウィフトは最新アルバム「1989」の販売戦略の一つとしてSpotifyでアルバムを配信しないことを決定しました。「1989」はリリース一週目の売上が米国だけで120万枚を超える今年最大のヒットアルバムとなり、また2002年以降でのリリース一週目売上記録を更新しました。
フリーと有料の聴き放題音楽ストリーミングを提供するSpotifyはこれに対してCEOのダニエル・エクが公式な見解をサイトで発表しました。エクは声明文の中で「テイラー・スウィフトは正しい。音楽の作り手であるクリエイターは対価を受け取るべき」と主張しています。さらにエクはSpotifyがアーティストやソングライターのためにこれまで音楽業界に20億ドル以上のロイヤリティを支払ってきたことを明らかにしました。
まだ日本に上陸していないSpotifyをもっと日本人にも知ってほしい、Spotifyの経済効果と新しい音楽のエコシステムの可能性を知ってほしいと思い、ダニエル・エクCEOの声明文を全文翻訳して掲載します。今やSpotifyが存在しない最後の音楽大国となった日本で、この声明文が急変する音楽業界の未来について考えるキッカケになることに期待したいです。
なおこちらは了承を得て全文を翻訳しています。
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- A blog post written by CEO Daniel Ek (@eldsjal)
テイラー・スウィフトは全く正しいと思います。音楽はアートであって、アートには本物の価値があります。そしてアーティストはそのために対価を受け取る資格があります。私たちはSpotifyを始めた理由は、私たちが音楽を愛していたからであり、それを海賊行為が台無しにしていたからです。だから私は、最近広まっているSpotifyがアーティストの影でどうやって収益を上げているのかという議論にひどく動揺しています。私たちの存在理由の全ては、ファンの音楽発見を助け、海賊行為の脅威を防止しアーティストの素晴らしい作品に対価を支払うプラットフォームによって、アーティストとファンをつなぐ手助けをすることです。クインシー・ジョーンズはFacebookで「Spotifyは敵ではない。海賊行為が敵だ」と投稿しました。皆さんはなぜか分かりますか?ゼロと20億という2つの数字が重要になります。海賊行為はアーティストにとって一銭の収入にもなりません。ゼロです。Spotifyはこれまでソングライターとアーティストにロイヤリティを分配するためにレコード会社、音楽出版社、著作権団体に20億ドル以上を支払ってきました。Spotifyを開始した2008年から2013年までの支払い額は10億ドルに上り、それ以降の支払い額はさらに10億ドルに到達しました。これは20億ドル分の音楽再生です (*訳注1 日本円にして2,300億円相当)。もしSpotifyが存在しなければ 海賊行為や同様のサーヴィスによってアーティストとソングライターは売上が全く無いまたはほんの僅かな額しか届けられなかったことでしょう。私たちはアーティストと音楽ビジネスのために海賊行為で奪われた売上を取り戻そうと日夜努力を続けています。
私がアーティストやソングライターが音楽ストリーミングからの収益がゼロまたは少額しか受け取れず、苛立ち不満を抱いている話を耳にして、私もとても失望しています。音楽業界は変化しています。そして私たちがその変化の一部を担うことを誇りに思います。しかし業界はその始まりの時期から多くの問題に悩まされてきました。すでに紹介した通り、私たちが音楽業界に支払ったロイヤリティ額は20億ドルを越えました。もしもクリエイターたちのコミュニティにそのお金が適時にそして透明性のある方法で流れていないのであれば、それは非常に大きな問題です。私たちは透明性を向上させ、支払いのスピードを改善し、アーティストがプロモーションを行いファンとつながる機会を提供するため、業界と協力して出来る限りのことは何でもします。それはこの業界のリーダーである私たちの責任であり、そしてそれは正しい行動です。
私たちは、音楽業界が経験したことの無い方法で、アーティストのための新しい音楽の経済を構築することを目指しています。Spotifyは音楽業界を成長させる最大の原動力であり、収入増大の最大要因であり、数多くの市場において最大または第2位の音楽収入源です。これらは事実です。しかし世の中には、私たちがどのように機能し、どのくらい支払い、音楽の未来そしてそれを作り出すアーティストにとって私たちとは何なのかに関して、3つの大きな誤解が存在しています。ここで私はこれらを1つずつ見て行きたいと思います。
まず第一の誤解:「ファンのための無料音楽でアーティストは稼げない」。Spotifyに関しては、これは真実からほど遠いものです。Spotifyでは、無料音楽は一つにまとめられません。Spotifyの無料音楽は広告によって支えられていて、全ての再生に対して私たちはロイヤリティを支払っています。Spotifyを開始するまで、ストリーミングサーヴィスには2つの経済モデルが存在していました。全くの無料か完全に有料かのどちらかであり、2つが融合したサーヴィスは存在せず、しかもこれらのモデルは致命的な欠点がありました。有料オンリーのサーヴィスは、マーケティングに数百万ドルを費やしたにもかかわらず成功しませんでした。その理由は、ユーザーはすでに違法ダウンロードサイトから無料で手に入るものへ支払いを要求されたためでした。一方、巨大な規模に成長した無料サーヴィスは、アーティストやレコード会社にほとんど何も支払っておらず、多くの場合が海賊行為とほぼ同じようにライセンスを無視して運営されており、彼らはフリーユーザーを有料の顧客へ転換する手段を提供してきませんでした。有料サーヴィスはスケールの無いマネタイゼーションを提供し、無料サーヴィスはマネタイゼーションを無視してスケールしており、どちらも音楽業界が直面している売上低下を修復するほどの十分な売上を上げることはできませんでした。
私たちは異なるアイデアを提示します。私たちは両方を組み合わせた、「フリーミアム」モデルが成長性とマネタイゼーションを実現し、最終的にはファンが愛する音楽にアクセスでき、アーティストには彼らの素晴らしい作品の対価が支払われる新しい音楽の経済モデルを作り出すと信じています。なぜフリーと有料をつなぎあわせたのか?それは、音楽サブスクリプションを売ることで最も難しいことは、いたるところに存在する大量の無料音楽が最大の競争相手だからです。今日、人々はさまざまな方法で音楽を聴きます。しかし最も利用される3つの方法はラジオ、YouTube、そして違法ダウンロードです。そしてこれらは全て無料です。これは、圧倒的に疑う余地もなく避けられない事実です。大部分の音楽試聴は有料以外の方法で行われています。もし人々に有料の音楽サーヴィスを使ってもらうなら、私たちはフリーサーヴィスという領域で注目を集める必要があります。
私たちの持論はシンプルです。ファンの注目を集めて一歩を踏み出すための出発点として、広告でサポートされる素晴らしいフリーサーヴィスを提供します。そして違法ダウンロードからYouTubeそしてSoundCloudなど他の無料音楽オプションとは異なり、私たちはアーティストと権利保有者に私たちのフリーサーヴィス上で曲が再生される度に支払っていきます。しかし、これは「プレミアム」アカウントほど柔軟かつ邪魔されないオプションではありません。もしモバイルデバイスでSpotifyのフリーサーヴィスを使ったことがあるならご存知だと思いますが、ラジオのように音楽の種類を選ぶことはできますが、特定の楽曲を再生したり、次に再生される曲を選ぶことは出来ず、また広告を聞かなければなりません。私たちは、ファンがSpotifyに時間を割いて好きな音楽を聴き、新しい音楽を発見して、友人と共有することで、いつかはプレミアム・サーヴィスが提供する完全な自由が欲しいと思うようになり、有料オプションを支払うと信じています。
これは正解でした。私たちのフリーサーヴィスは有料サーヴィスを活性化しました。現在私たちのアクティブユーザーは5,000万人以上、年間120ドルを支払う有料会員数は1,250万人に到達しました。120ドルという額は、これまで平均的な音楽購入者が年間で音楽に支払う額の3倍以上になります。さらに、有料会員のほとんどは27歳以下の消費者で、この層は違法ダウンロードを体験し音楽に支払うなど想像もしてこなかったファン達です。さらに重要な事実があります。有料会員の80%以上はフリーユーザーからSpotifyを始めました。皆さんに知っていただきたいことは、次の一つです。無料と有料が無ければ、20億ドルは支払えなかったということです。
第二の誤解:「Spotifyはロイヤリティを支払うが、その額はほんのわずかなので、生活できるほどの収入にならない」。まず初めに、一回のストリーミング再生または音楽試聴で明確にしておきたいことがあります。それは1人の人間が一曲を一回再生していることです。ですので、人は巨大な数値に見える無数のストリーミング再生回数を例に出して、少額に思われるロイヤリティ額支払いと関係付けています。しかし、これらの再生回数が実際に何を指しているのか説明します。もしSpotifyで曲が50万回聴かれたとすると、それは米国で50万人ほどのリスナーを抱えるラジオ局でかかる1回分に相当します。米国のラジオではアーティストに対する支払いは全く発生しません。しかし、その再生1回分に相当するSpotifyでの50万再生によって、3,000〜4,000ドルがSpotifyから支払われるでしょう。同じラジオ局で毎日1回1週間半、合計10回プレイされた場合、Spotifyに換算すると30,000〜40,000ドルの支払いが生まれるでしょう。
では、ヒット曲の場合、例えばHozierの「Take Me To Church」を見てみましょう。曲がリリースされて以来、数十万ドルのロイヤリティ額がレコード会社と音楽出版社に支払われるほど多く再生されてきました。現在の規模で計算すると、テイラー・スウィフト(彼女がカタログを削除する以前)などトップクラスのアーティストへの支払いは年間600万ドル(*訳注2 日本円にして6.9億円相当)を超える勢いが見込まれ、その数は1年後には2倍になると予想しているほど増える一方です。私たちはアーティストやソングライターに分配するために膨大な額をレコード会社や音楽出版社へと支払っており、どのストリーミングサーヴィスをも上回る大幅な金額を支払っています。
第三の誤解:「Spotifyはフィジカルとダウンロード両方の売上に悪影響を与える」。これは、物事を理由もなく関係付ける典型例です。人々はダウンロード売上が低下してストリーミングが増加している状況を見て、後者が前者に影響を与えていると考えます。しかし単純な事実に目を向ければ、そうした因果関係が間違いだとわかります。それは、ダウンロード売上がSpotifyが存在しない市場において急激に低下しているということです。カナダはその最たる例です。カナダの音楽市場は米国同様に成熟した市場です。Spotifyは数週間前にカナダで開始しました。Spotifyが存在しなかった2014年1-6月期の音楽売上を見ると、ダウンロード売上はその他の市場と同様に著しく下がりました。Spotifyがダウンロード売上とカニバリゼーションを起こすとするならば、何がカナダでカニバリゼーションを引き起こしたのでしょうか?
また、Spotifyで新曲をプロモーションしたエド・シーラン、アリアナ・グランデ、ラナ・デル・レイ、alt-Jなどのアーティスト達は、ストリーミング再生が増えただけでなく、売上でも素晴らしい結果を残しました。ダフト・パンクからカルヴィン・ハリスやエミネムはチャート1位を獲得し、Spotifyでも配信を続けました。
テイラー・スウィフトの話をしましょう。彼女は米国でリリース第1週目だけで新アルバム「1989」を120万枚以上売り上げました。凄いことですよね。私たちはさらに多くの売上に期待しています。なぜなら彼女は並外れたアーティストで素晴らしい音楽を作る人だからです。しかし彼女は2002年以来初めてリリース第1週目に売上が100万枚を超えた唯一のアーティストです。昔は毎年複数のアーティストがミリオンセラーを出していました。もはやそんなことは起こりません。人々の音楽の聴き方は変わり、それはもう元には戻りません。Spotifyだけを切り離して考えることもできません。例えテイラー・スウィフトがSpotifyから音楽を削除しても(私たちはライセンスを得て、再生されるたびにロイヤリティを支払ってきました)、彼女の音楽はYouTubeやSoundCloudなど人々が無料で聴くことができる数多くのサーヴィスやサイトに存在しています。Groovesharkなど違法サーヴィスに戻るファンについては語るまでもありません。そしてThe Pirate Bayで先週トップだったのは、案の定「1989」でした...。
これから述べることは、私がアーティストにぜひ理解してほしいことです。私たちの関心は完全にあなた方と一致しています。たとえあなた方が私たちの目的を信じなくても、私たちのビジネスを見てもらえばわかると思います。私たちのビジネスは全て音楽の価値を最大化するためのものです。私たちは音楽を利用してハードウェアやソフトウェアの売上を上げるものではありません。私たちは人が音楽に対価を支払うようにするために音楽を使っているのです。私たちが成長すればするほど、私たちはあなた方に支払う対価が増えるでしょう。この件に関して私たちは始めから終わりまで透明性を維持していきます。私たちにはあなた方アーティストで構成される大規模なチームがいます。もし私たちが十分な仕事をしていないと考えているなら、ぜひ知らせてください。私たちはより良い仕事をしたいと考えています。これは今後も変わることはありません。
私たちは、再びファンが音楽に対価を支払うようにしています。アーティストとファンとの過去前例のないつながりを実現しています。そして全てのストリーミング再生ごとにアーティストに対価を支払っています。私たちはもはやただのストリーミングではなく、今やメインストリームになろうとしています。これは世界中の音楽の作り手と音楽を愛する人にとって有益なことなのです。
*訳注 1USD115JPYとして換算
ソース
(2014年11月13日「All Digital Music」より転載)