猪瀬知事が昨日辞任を正式表明した。2020年開催予定のオリンピック、パラリンピックを準備するための組織の新設や責任者人選のタイムリミットが迫っており、猪瀬氏の問題は遅くても年内一杯、出来ればクリスマス前、三連休を考えれば今週中の決着というのが関係者の思惑であったと推測する。
そういった大きな力学の前で、「職務権限の有無」や「5千万円の賄賂性」といった法の支配の根幹をなす部分の検証や議論はすっかり置き去りにされてしまった。そして、マスコミは初めに辞任ありきで猪瀬氏を徹底追及し、一方、東京都議会は滅多にないテレビ取材の前に舞い上がり、議会は議論の場ではなく安物の芝居小屋になってしまった。
とはいえ、日本国民はバランス感覚に秀でた民族である。猪瀬氏が謝罪し正式に辞任を表明した以上、これ以上の追及を好ましいものとは思わない。早速、ジャーナリスト江川紹子氏による一連の顛末を冷静に記述した、猪瀬都知事の5000万円問題・渦中の人に聞くがヤフーに取り上げられた。この事に対し社会を健全に保つ復元力が働いている好ましい事例と、私は好意的に理解している。
視聴者や読者が望んでいないのだから、これ以上テレビや新聞が猪瀬氏を追及する事はない。するりと体を入れ替え、今度は東京都知事選の報道に注力する事になる。といっても、所詮は競馬予想の域を出ないレベルの報道であろうが。結局のところ、猪瀬氏の辞任は「東京には金があります」で2020年のオリンピック、パラリンピック開催の東京招致に成功し、「貸金庫には5千万円がありました」で、知事の職を棒に振った変なオジサンの話で終わってしまう。
猪瀬氏の辞任理由をBBCは「医療法人徳洲会から個人的に5千万円を借り入れた」事に起因すると説明している。この記事の是非については読者一人一人が一読の上判断されたら良いと思う。日本人が留意すべきは、この記事は昨日全世界に向けて発信されてしまったという事実だと思う。日本に「法の支配」が貫徹しているならば、「徳洲会の何が問題なのか?」、「徳洲会の政治献金実態の全容とは?」をきちんと精査し、2020年にオリンピック、パラリンピックを開催する以上は説明責任を果たすべきと考える。猪瀬氏は少なくとも借入金を返済している。一方、返済もせず貰ったままで御咎めなしの政治家が多数いたとしたら、世界が首を傾げる事になるのも当然である。
矢張り、鍵を握るのは警視庁捜査2課が今月3日、業務上横領の疑いで逮捕した徳洲会グループの元事務総長能宗克行容疑者であろう。能宗容疑者は永らく徳田虎雄前理事長の側近として仕え、政界とのパイプ役を務め病院経理で政治献金出来ない事から能宗氏個人で借り入れを行い、政治家に資金提供を行っていたと聞いている。そして、その過程で35億円ともいわれる巨額の業務上横領の疑いが噴出し、結果解任されたと主張する人もいる。
昨年9月に徳洲会の能宗克行・事務総長が解任されました。難病療養中の徳田虎雄・理事長(当時)に代わって、徳洲会の「金庫番」「政界工作」を一手に仕切っていたのですが、その過程で35億円ともいわれる巨額の業務上横領の疑いが出てきて解任されたものです。
こちらの方は徳田氏側の刑事告訴を受けた警視庁捜査2課が捜査を開始し、10月30日には能宗氏の自宅や関係箇所を家宅捜索していました。
ところが能宗氏は、それ以前に東京地検特捜部に駆け込み、あらゆる重要証拠を「ごっそり」と持ち込んでいました。まさに「機先を制した」ことになります。
このブログ内容が正しければ、東京地検特捜部は既に徳洲会マネーに群がった政治家のリストを作成している事になる。能宗氏が個人的に横領したとして訴えられている金額が35億円である。従って、能宗氏経由で政治家連中に渡っていると推測される金額はこの何倍にもなるのであろう。これは政治家たちの貰い得になっているのではないのか?
徳洲会は何もサンタクロースではない。従って、徳洲会としての費用対効果を精査した後献金を実行したはずである。仮にそうであれば、金を受け取った政治家の「職務権限」如何では「賄賂」と認定され、結果、今回猪瀬氏が問われた「政治責任」などより遥かに悪質な「刑事責任」を問われてしかるべきである。
猪瀬氏は昨日の辞任会見で自分は「アマチュア」であったと述べている。私は、この言葉を政治家としての「狡猾さ」の欠如と理解している。
Q:賄賂性を疑われても仕方ないと、借りるときに思わなかったのか。
当時はちょうど、石原知事がお辞めになるということで、各業界、各団体の人に毎日毎日お会いして回るという状況の中で、たまたま個人的に貸してくれるという人がおりましたので、それはお借りしましたが、しかしそれはお借りすべきでなかったと思っております。それはとても、アマチュアの、政治家ということについてよく知らない、アマチュアだったなと思っております。ですから、都政を進める上で政策について一生懸命やってきたつもりですが、そういう政務的なものについての知識が足りなく、ものの考えが至らなく、そして当時は皆さんが応援してくれるというので「お願いします、お願いします」と言っている中にそういうものが入ってきていて。そういうことは僕は、当時やや傲慢になっていたんだなと反省しています。
仮に私の理解が正しければ、マスコミは正直な政治家の足を引っ張り、ずるい政治家の悪事には指を咥え傍観する存在という事になる。猪瀬氏の5千万円借り入れなどは本来徳洲会疑惑の本質から遠く離れた些細な話に過ぎない。幸い、年末まで未だ10日以上が残されている。マスコミは徳洲会疑惑本丸の疑惑解明に向け舵を切るべきである。そして、その一丁目一番地は、過去徳洲会マネーに群がった政治家リストの公表という事になる。一言断っておくが、徳洲会疑惑は国内政治問題であり、マスコミが大騒ぎした外交と安全保障を対象とする「特定秘密保護法案」とは何の関係もない。従って、取材が進まないとしたら、それはマスコミの「やる気」、「取材能力」の欠如に起因するという結論になる。