市場関係者は、今のところユニクロの将来を決してバラ色とは見ていない事だけは確かである。年内で底を打ち、来年以降従来同様堅調に上げて行くのか? 或いは、だらだらと下げて行く展開になるのか? 今後の株価の動きがユニクロの将来を占う事になる気がする。

前回の記事、凋落を続けるヤマダ電機が示すものとは?で、苦境に喘ぐヤマダ電機を快走続けるユニクロと比較して説明した。その結果、幾人かの企業経営者から「如何なる理由でユニクロは独り勝ちを続ける事が出来るのか? これからも快進撃は続くのか?」という質問を頂戴した。「好調のユニクロにあやかりたい、或いは、自社で取り入れる事の出来るものがあれば是非吸収したい」と思うのは企業経営者として至極当然の事だと思う。

従来の小売店から顧客を奪う事で、ECは順調に売り上げを増やしている。一方、日本市場にどっかりと腰を落としてしまった「デフレ」は、この先も当分動く気配を見せない。その結果、顧客の低価格志向が強まり、買い控えがすっかり常態化してしまった。待てば待つ程、商品価格の下落が期待出来るからである。現在の市場環境は「買い手には天国、売り手には地獄」といって差し支えないだろう。

かかる経営環境の下、ユニクロを展開するファーストリテイリングの2013年8月期決算発表が先日行われた。その場で、「売り上げが1兆円を達成して感慨はあるか?」、との記者質問に対し、柳井社長は「感慨はない。通過点だと思う」とあっさり答え、記者が取り付く島がなかった。しかしながら、これは柳井社長の紛れもない本心である。既に7年後2020年での売り上げ5兆円を内外に公表しており、1兆円はその五分の一に過ぎない。こんな所で喜んでいる場合ではない、5兆円を目指しやるべき事が山積しているというのが本心ではないかと推測する。それにしても凄まじいばかりのダイナミズムである。この並外れたパワーの源は一体何なのであろうか?

■ユニクロに取ってECはワンモアチャンネル

国内小売業の顧客をECが浸食している実態については既に説明した。小売業が真面にECと競合しては体力を消耗し、遠からず破綻してしまう。ところがユニクロの場合は事情が全く異なり、ECを恐れる必要がないだけではなく、店舗商流を補完するワンモアチャンネルとして有効活用している。何故、こういう事が可能か? というと答えは「垂直統合」にある。自社で「商品企画」を行った後、海外の委託工場に「発注」し、並外れて厳格な「品質管理」の後、全世界で「販売」している訳である。ECも当然の結果としてユニクロの管理下にあり、飽く迄、来店が難しい顧客に対し自社プランド購入の機会を提供している。ECとの競合回避のみでも他小売り業者と比べメリットは図り知れないが、商流として活用可能となれば大変な追い風である事はいうまでもないだろう。

■成長を牽引するのは海外展開

国内市場は既に飽和しており、今後、少子高齢化、更には人口減少により市場は縮小せざるを得ない。従って、小売業であれ、製造業であれ、企業が成長するためには一定の海外展開は避けて通れない。ユニクロの様にこれからの7年間で売り上げを5倍にしたいと考えているのであれば尚更である。極論すればユニクロはまるでアクロバットの如き海外展開を加速するしかない訳だが、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが10日に発表した2013年8月期連結決算結果を見る限りそれに成功している。そして、これが柳井社長強気の背景にあると推測する。

「国内ユニクロ事業の当連結会計年度における売上高は6,833億円(前期比10.2%増)、営業利益は968億円(同5.4%減)と増収減益の結果となりました。海外ユニクロ事業の当期連結会計年度の売上高は前期比64.0%増の2,511億円、営業利益は同66.8%増の183億円と大幅な増収増益を達成いたしました。8月末の海外ユニクロの店舗数は446店舗、前期比154店舗増となっております。特に、中国、香港、台湾といった中華圏では、店舗数が前期末比102店舗増加し、中華圏の当連結会計年度の売上高は1,250億円、営業利益は135億円まで拡大いたしました」。

今後は中国、香港、台湾といった中華圏での大成功をインドネシア(人口2.5億人)、タイ(人口0.7億人)、マレーシア(人口0.3億人)、フィリッピン(人口0.9億人)といった比較的人口が多く、急激に豊かになり購買力を増す国々への横展開を急加速するものと予測する。こういう東南アジアで経済の実権を握っているのは華僑であり、中国人との付き合い方を心得ているユニクロであれば、この地域での成功を短時間で再現出来るのではないかと思う。

■海外展開に死角はあるのか?

2014年8月期の出店並びに売り上げ予測として、決算サマリーはこの様に伝えている。「2014年8月期の海外ユニクロ事業の売上高は3,500億円、前年比39.3%増、営業利益280億円、同52.6%増を予想しております。前期と同様に、アジアでの大量出店が続く計画で、中華圏では3割以上の増収を見込んでおります。店舗数の純増としては、中華圏(中国、香港、台湾)で98店舗、韓国で30店舗、その他アジアで50店舗、米国15店舗、欧州5店舗を見込んでおります。なお、今期はドイツ、オーストラリアに初出店を計画しております。また、9月30日には上海に、グローバル旗艦店をオープンし、大盛況となっております。この店舗は、同じ建物内に、グループブランドのジーユー、PLST、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タムも出店いたしました」。

198店舗を増設予定であり、約半分の98店舗は中国、香港、台湾といった中華圏に集中する。これに続くのが韓国の30店舗、その他アジアが50店舗で新規店舗の内、何と90%がアジアに集中する事になる。アジア偏重、アジア一本足打法と呼んでも差支えないのかも知れない。問題は重点市場である中国、韓国共に重篤な問題を抱えており、今後国内経済がどうなるのか? 視界不良である事実である。中国問題については、「靖国」関連中国の不当な干渉に対し日本はどう対応すべきか?及び、8月15日の「靖国」の暑い一日が終わった。ところで、歴史を正しく認識しないというのは一体どこの国の事だ?一方、韓国問題については、何故日韓関係は悪化するのか?及び、韓国がTPP加盟に舵を切った背景とは?で詳しく説明しているので、これを参照願いたい。余り考えたくはないが、今後の中国、韓国の展開如何では出店計画の凍結も充分あり得ると思う。

■欧米で浸透していないユニクロ「ブランド」

ユニクロは2001年に華々しくロンドンでデビューし、一時は21店舗まで拡大したものの、巨額の赤字を計上し、戦線立て直しのため縮小した苦い経験がある(現在は10店舗)。一方、鳴り物入りで出店したニューヨークを含むアメリカでも前期の決算は引き続き赤字で苦戦を強いられている。この結果が、米国15店舗、欧州5店舗のみの新規出店という慎重な数字の背景である。問題は好調なアジアに比べ、ユニクロは何故欧米では苦戦を強いられているのか? という事だと思う。矢張り、競合相手であるZaraやH&M或いはGAP程、欧米人の感性を取り込めておらず、その結果認知度が高まらず、ユニクロ「ブランド」が浸透していないということであろう。

実は、私自身ユーザーであり、何時もユニクロの「高品質」と「低価格」には驚いている。欧米でも時間の経過と共に、少しずつ顧客の理解を得て、ユニクロ「ブランド」は浸透すると思う。しかしながら、ユニクロが公表する2020年売り上げ5兆円達成がリニアモータカーの速度とするならば、この「ブランド」戦略では蒸気機関車の速度という事になってしまう。ユニクロは欧米でユニクロ「ブランド」を浸透させ、顧客の「ブランドロイヤルティー」を高める秘策の目途を付けたのであろうか? 気になるところである。

■何時までも柳井商店で良いのか?

決算発表と同時に、来年2月で65歳になる柳井社長の65歳定年を撤回する発言があった。「今、自分以外に出来るものがいない」というのが直接の理由の様である。出来る、出来ない、以前に、常識人であれば一兆円企業の売り上げをたった7年間で5倍にする様な無謀な事は絶対に考えない。柳井氏が日本を代表する名経営者である事は疑いない事実である。しかしながら、一方のファーストリテイリングも日本を代表するエクセレントカンパニーである。上場企業であり、且つ、売り上げが一兆円を超す企業が、事情は理解出来るとしても何時までも柳井商店であって良いとは、とてもでないが思えない。

■ユニクロを展開するファーストリテイリングの株価は5月天井?

ファーストリテイリングは中国、香港、台湾といった中華圏での店舗展開の加速に成功し、8月末決算で大幅な増収増益を達成し、念願の売り上げ一兆円を達成するに至った。そして、この成功に満足する事なく、7年後の2020年には売上5兆円を達成すると表明している。東京株式市場はこれを囃して三日間位ストップ高を付けても良さそうなものであるが、市場は実に冷淡である。どうも、今の所5月が天井でその後は強弱感が入交り、上げ下げを無期率に繰り返している。別に悪材料が出て大きく下げた訳ではないのだが、市場関係者は、今のところユニクロの将来を決してバラ色とは見ていない事だけは確かである。年内で底を打ち、来年以降従来同様堅調に上げて行くのか? 或いは、だらだらと下げて行く展開になるのか? 今後の株価の動きがユニクロの将来を占う事になる気がする。

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