通信業界の地殻変動が企業を直撃する

最近、NTT東西が光回線の卸売り「サービス卸」を開始する話であったり、「格安スマホ」、更にはSIMロック解除が「格安スマホ」ブームに火を付けるであろう事がマスコミを賑わしている。

最近、NTT東西が光回線の卸売り「サービス卸」を開始する話であったり、「格安スマホ」、更にはSIMロック解除が「格安スマホ」ブームに火を付けるであろう事がマスコミを賑わしている。東京株式市場も、日経平均後場寄り付き&為替概況:日経平均は9円安、格安スマホ関連への物色が目立つの通り、手詰まり感が漂う中で「格安スマホ」関連企業への人気の集中が顕著である。

どうも、通信業界で大きな地殻変動が生じている様である。改めていうまでもない事であるが、情報通信産業は今世紀日本で成長が期待出来る分野であり、発達する通信インフラ・サービスを幹としてECやコンテンツ配信の様な枝が無数に伸びて行き、国内の雇用を吸収する事になる、ならなければいけないという話である。今回はこういった視点から、タイトルである「通信業界の地殻変動が企業を直撃する」の論考を試みる事にした次第である。

光回線卸ビジネスとは?

今回のNTTが光回線卸ビジネスを開始するに際してその中身は"光コラボレーションモデル" ~ 新たな価値創造への貢献 ~として公表されている。タイトルは抽象的で、これだけでは中身のイメージは難しい。しかし内容はシンプルで「NTT東西を通じて、これまでコンシューマ向けのみに提供してきた光通信サービスを、改めて事業者向けにも卸販売での提供開始をする」という事である。光通信サービスは従来「B to C」オンリーでここまで頑張って来たが、新たに「B to B」もNTT東西としてのサービスメニューに追加するという話である。

NTTが光回線卸ビジネスを開始する背景とは?

通常、企業がビジネスモデルを変更する場合の動機は事業を更に発展さすため、若しくは事業の先行きの見通しが立たず背に腹は替えられず、の場合に大別される。今回のNTTは明らかに後者である。NTT西は減収減益 固定電話減り、「光」ふるわずがNTTが陥った構造的な苦境を分り易く伝えてくれている。

NTT西日本が13日発表した平成26年3月期決算は、売上高が前期比2・4%減の1兆5896億円、最終利益が10・7%減の187億円で減収減益だった。固定電話の契約数の減少が響いた。光回線「フレッツ光」の契約数が31万3千件の純増と、当初計画の50万件を大幅に下回ったこともあり、減収減益を避けられなかった。NTT西日本はことし2月に計画を30万件に下方修正していた。

実は我が家も2年半前にNTTの光通信サービスと固定電話サービスを解約している。昔からあるので何となく放置していたのだが、調べてみたら家族の誰も使っていない事が判明したからである。どこの家も似た様なものではないのか?

そもそものNTTの光通信サービスとは?

NTT自身が光通信サービスを提供可能なインフラ(光ファイバー)を所有し、メインメニューの光通信サービスと共に、これにバンドルする形でひかりTVの様な映像サービスや ひかり電話(インターネット電話)を提供する、インフラ(光ファイバー)を基幹とする垂直統合型のビジネスモデルである。従って、今回の光回線卸ビジネス開始はNTT事業モデルを踏襲するKDDI、電力系通信企業、ケーブルテレビといった各企業に激震を与えたはずである。

経営資源のリバランスに失敗したNTT

私は三年半前に今更ながら「光の道」に就いてを公表し、光通信サービス市場の飽和と無線通信サービスの一層の台頭を指摘している。従って、この時点でNTTは光通信サービスへの無駄な経営資源の投入を止め、無線通信(携帯電話)にリバランスすべきであったのだ。指を咥え傍観した事によって、NTTは傷を深くしてしまった。

貧すれば鈍すの状況に陥ってしまったNTT

「今更ながら「光の道」に就いて」を公表一年後、「光の道」は行き止まりでは?を新たに発表した。この記事で描写したのは、「光の道」ならぬ、進むも地獄、退くも地獄状態で事業転換待ったなしともいうべきNTTの実情である。飽く迄、私の推測であるが、光通信サービス市場が飽和してしまい、販売代理店は思った様に契約が取れず赤字営業に転落せざるを得ない。

当然、営業継続のためNTTに対し取扱い手数料の増額を求める。しかしながら、NTTは採算上これに応じる事が出来ない。一方、それとは別にNTTの代理店営業部は会社上層部から獲得件数予算を握らされており、窮余の策としてこういった「コンプライアンス」に問題ある施策を認めざるを得ない。NTTはこういったデフレスパイラルの罠にすっぽり嵌ってしまったのであろう。

別に、私の一年前の上記記事に啓蒙された訳ではないだろうが、「フレッツ」の獲得が予想通り日に日に難しくなって来た結果、代理店名でチラシを配布しても、思った様な獲得件数に至らず、結果代理店を救済する為、販売代理店に看板を掛け替え、NTT東の名刺の使用を認め、チラシ配布による獲得から、フレッツ導入マンションの未契約者への直接訪問というピンポイント営業に手法を切り替えたのだと推測する。

最後に、老婆心ながらNTTグループに忠告するとすれば、先ず第一に、フレッツの如きこれから世の中が左程必要としないサービスを、前のめりになってまで売る必要はない。主戦場は無線通信である。

NTTドコモがNTT東を吸収し、無線の回線契約を「主」に電話とフレッツを極めて廉価で、ある意味「おまけ」扱いで付与してくれるのが有難い。

今回のNTTビジネスモデルの見直しは、基本的には私の上記提案に近く正しい選択であると思う。惜しむらくは、決断に二年半もの時間を要した事である。遅くても2012年中にはやっておくべきであった。

NTT東西は今後どうなる?

事業モデルを光回線卸に舵を切るとなると事業の中身は大きく変貌する事になる。光回線卸の新規ビジネスを別にすれば、既存インフラ(光ファイバー、電話線、電話交換機)、光通信サービス及び固定電話既存顧客の維持管理といったところに集約されるのではないのか?

NTT東西はいうまでもないが電電公社の事業を継承する会社である。従って、何といっても「独占」の上に胡坐をかいた貴族体質が抜けない。社員もその多くはプライドと年俸は高いかも知れないが、一握りのエリートを例外として、実力は転職市場では恐らく通用しないだろう。多くの従業員がリストラされる事になり、転職市場で自分の商品価値の欠如に悲哀を感じる事になるだろう。一方、NTT東西にしがみついた社員も、担当業務が従来のインフラ独占という謂わば「御殿様」から、インフラ維持管理といった「乞食」に転落する事になる。

携帯キャリアーを「格安スマホ」が直撃する?

有線から無線へのパラダイムシフトは規定事実である。これが「SBグループの営利1兆円、有利子負債ゼロ宣言」の背景である。それでは、携帯キャリアーの栄耀栄華はこれからも継続するのであろうか?携帯キャリアーの前途に広がる黒雲は勿論「格安スマホ」の存在と台頭である。上述した「格安スマホ」の代表的銘柄である、 (株)ワイヤレスゲート連日年初来高値を更新している

更にいうと、「SIMロック解除」を監督官庁である総務省が携帯キャリアーに義務付ける方針であり、SIMロック解除は謂わば国策である。従って、「格安スマホ」のブームは長期に継続すると思われる。当然、今後長期に渡り、携帯キャリアーの既存顧客がより廉価な月額料金を求め「格安スマホ」に流出する展開となる。

4日からイオンが月1980円と前回よりさらに安い料金で格安スマホの第2弾を発売。総務省も携帯電話を他の通信事業者で自由に使えるようにする「SIMロック解除」を義務付ける方針を示しており、SIMカードのみを格安で提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)への注目も高まっています。今後は通信料金を見直したいユーザーを中心に、格安スマホの波は今後ますます広がりそうです。

「SIMロック解除」の背景とは?

携帯キャリアーを取り巻く環境に抜本的なパラダイムシフトが生じた事は理解されるべきであろう。スマホ登場以前は、各キャリアーがサービス設計を行い、それをベースに各ベンダーに対し要件定義を行った。彼らが考えたサービスを具現化する端末をベンダーに製造させ、一括購入した上で自社のユーザーに販売した訳である。従って、端末はキャリアーに紐づいており、SIMロックにも一定の妥当性はあったと認識している。しかしながら、スマホ登場以降はサービス内容を支配するのは飽く迄端末である。キャリアーは端末に対し回線を提供するのみの存在となってしまった。

そうであれば、水が高い所から低い所に流れる様に、スマホを手に入れたユーザーが少しでも月額料金の安い業者に乗り換えるのは至って自然な話である。それに対し、キャリアーがSIMロックを行い、徒に加入者を囲いこみ、高額な月額料金を請求する事はテレビ局に比較すれば電波使用料を支払っているとはいえ、断じて許容されるべきものではないだろう。 総務省が先週、携帯電話のSIMロック解除を携帯キャリアー各社に義務付ける方針を示した事は時宜を得た好ましい判断と、高く評価している。

近未来のサービスとは?

現在,上述したイオンが取り扱っている月額料金1980円が最安値の様である。取り扱うスマホのグレードや利用データ量,通信速度の定義を飛ばして、月額料金のみを議論する事に読者をミスリードするリスクがある事は承知している。しかしながら、値段の比較が最も理解が容易でインパクトがあるのも今一方の事実である。従って、この話を今少し前に進めてみたい。

私は、今後中国メーカーが従来の委託生産方式から自社ブランドでの生産に切り替える展開を予想している。更に、一般大衆様にスマホの機能を絞り込む事で大幅なコストダウンが達成されると考えている。スマホ端末が近い将来現在の半値を下回るのは確実な状況であろう。一方、総務省はMNOの設備が技術革新により圧縮可能となれば周波数の卸価格を引き下げる様指導していると聞いている。2014年3月、NTTドコモはMVNO事業者向けに設定している携帯電話通信のパケット接続料金を最大56.6%値下げすると発表した事実が、この事を立証している。 

従って、現在の月額料金1980円から判断して、スマホのグレード、利用データ量、通信速度を控えめなもので満足出来るのであれば、月額料金が1,000円を切るのは極近未来であろう。そして、更に月額料金が下がれば、上述したNTT東西の光サービスをスマホにバンドルして尚且つ1,000円以下も可能となる。

ダイナミックなパラダイムシフトの結果、誰が笑い?誰が泣くのか?

変化が大きければ大きい程明暗のコントラストも鮮やかなものとなる。それでは、誰が笑い?誰が泣くのか?である。スマホの利用料金が劇的に下がる事でより多くの人が気軽に利用可能となる。ウィンドウショッピングにスマホショッピングが取って代るのではないか? 現在日本の個人消費はGDPの三分の一弱で150兆円。ECは未だ10兆円にも満たない。今後スマホの利用者増や魅力的な店舗の加入により現在の10倍の100兆円を目指せるのではないのか?

安倍政権は「地方創成本部」を構築した上で、安倍首相が本部長に就任予定と聞いている。地方に配慮する事は構わないが、自民党が先祖帰りして「地方交付税交付金」、「公共事業」、「補助金」といった「バラマキ」に舵を切る様では話にならない。ECを活用した上で、地方が、特産品、名産の新たな商流を構築し、その結果、地方経済を活性化し、地方が経済的に自立出来る様な戦略で臨むべきである。

一方、光通信サービスが低額でスマホにバンドルされる展開となれば、自宅で気軽に動画の配信サービスを楽しむ人も増えるはずである。アメリカでケーブルテレビからNetFlixの様な動画配信業者への乗り換え(コードカッティング)が一気に加速したのはNetFlixの利用料金の安さに起因する。日本でも、NetFlixの様な価格競争力を維持出来た業者が勝ち組になるはずである。

少し脱線するかも知れないが、こういったテーマについては以前公開の我々は今回の焼身自殺未遂から何を読み取り、何を成すべきなのか?で紹介の今月28日に開催する、私が主催する月例勉強会で自民党所属の衆議院議員二名にも参加戴き徹底議論する積りである。

第一部:鈴木けいすけ議員による「TPP妥結以降の「知的財産」運用変化が企業経営に与えるインパクト」をテーマにした講演

※国立大学教授二名(含む東大)にパネラーとして参加戴きアカデミアの立場から意見を賜る予定

第二部:各参加者のプレゼン内容

○EC活用による地方経済の活性化:

日本を代表するIT企業幹部が、このテーマで現状、課題をプレゼンした上で、安倍政権への要望を陳情予定。

さて、最後は誰が泣く事になるか?である。泣くどころか息の根を止められる事業者も当然ながら出て来るだろう。NTT東西社員の将来が阿鼻叫喚 である事は既に説明した。一方、今回のNTTの卸し戦略により、NTT東西の既存サービスと同様サービスが卸し先から極めて低価格で提供される展開となるのは確実な状況だ。従って、インフラ(光ファイバー)、光サービス、コンテンツ配信を垂直型で提供して来た業者、具体的にはKDDI,ケイオプティコムの様な電力系通信事業者、J:COMに代表されるケーブルテレビは壊滅的な打撃を受ける事になる。KDDIはJ:COMの筆頭株主であり、本体、重要子会社が大打撃を蒙る展開となるNTTの卸し戦略に対し徹底抗戦するのは当然ともいえる。

一方、携帯キャリアー各社についても相当数の解約を覚悟せねばならないのではないか?NTTドコモの場合はLTE回線の卸しによる収入増である程度はカバー出来るかも知れない。残りの二社はカバーのやり様がないのでは?と危惧する。NTT東西による光サービスの「卸し」、NTTドコモによる周波数帯域の「卸し」、キーワードは「卸し」という事になる。

興味深いのは、有線(NTT東西)、無線(NTTドコモ)共に今回の「卸し」により少なからず打撃を受けるが、卸しによる追加収入もあり何とか凌げる。一方、有線、無線共に競合各社は致命的な打撃を受け、息の根を止められる可能性も否定出来ない。偶々、こういった展開となったのか?或いは、「肉を切らして骨を断つ」NTTとして乾坤一擲の勝負に出たのか?興味深い。

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