■「それでもクールか!?」 レポートその3
2013年10月11日、慶應義塾大学KMDポリシープロジェクトのニコ生番組「それでもクールか!?」。稲田朋美クールジャパン戦略担当大臣、ホリプロ堀義貴社長とぼくです。
その模様は以下のURLでご覧いただけますが、ちょいとかいつまんで、レポート第3回。
中村
ホリプロも海外展開に力を入れているんですか?
堀社長
舞台は十何年もやってます。イギリスは王立のシェイクスピアカンパニーと組んで新しい作品を作ったり、逆にあちらから演出家を呼んできて日本で作ったものを現地でやったりしています。ああいう所は経済的に自分の国がうまく行くとすぐ勲章をくれるんですよ。だからうちの創業者の父はCBEっていう勲章を貰っているんですけど、CBEってのが名刺に入ると、人の対応が変わります。そのくらい経済的にお互いにメリットがあった時にはすぐ返してくれる。
シンガポールのアニメーションフェスティバルアジアも1回目から参加しているんですけれども、アニメソングのMay'nって女の子にライブに出て欲しいってオファーが、May'nのオフィシャルホームページの書き込みにあったんですね。で、それに応えて行ったわけです。行っても利益は出るわけじゃないですし、逆に言うと赤字になるんですが、この5年間行き続けています。
外食産業でもファッションでも行けば必ず何らかのリアクションはあるわけです。でも全くマーケットがない所に行ったってしょうがない。フロンティア・スピリットも勿論必要だし、マーケティングも必要だし、そういうところは逆に大使館が世界中にあります。エンターテイメントについてはほぼ機能していなかったんじゃないかなと思いましたね。
中村
韓国は官民挙げてコンテンツでも海外攻勢を強めていますね。
稲田大臣
娘もすごく韓国ポップのファンで、ダンスを踊ったりしているんですよ。政府はすごく肩入れしてるし、K-POPの子たちって、日本語で歌ったりして戦略的にやっていますよね。そういう意味からは、見習うべき点が沢山あると思いつつ、日本は日本で私は民間が前に出て行って、政府は前に出て行くというよりも後押しという方が長く続くんじゃないかなと思いますね。
中村
韓国って音楽ドラマみたいなエンターテイメントと、家電や自動車など、ソフトとハードを組み合わせて後押しする方法をとっているじゃないですか。日本はどうですかね。
堀社長
それは韓国が一度破綻をしてエンターテイメントといわゆる工業生産品を同時に売らないといけないっていう、国家的にやらざるを得ないということがあったんだと思うんです。
韓国のアーティストたちも学生たちも韓国にいないで、世界に行こうという心で世界中にコリアンタウンが生まれたわけですよね。留学生はその親戚が引き受けて、色々な勉強をして国に帰って行くってシステムがあった。
日本の場合は工業製品だけが60年代70年代に世界中を席巻したわけですよね。で、今日までエンターテイメントは、本当にドメスティックだったし、知識人っていったら変かもしれませんが、役所の方とか、企業の人は大体就職するとアニメも連続ドラマも見なくなって、若者文化から離れていくから何を売っていいのかもわからなかった。
それを隣の国が物凄い攻勢でやっていったのが、日本がバブル崩壊後沈んで行ったのと逆になってしまったからとても気にしているんだと思います。潜在的な能力についてはそんなに変わらない。お互いに。
中村
でも、本気度がありますよね。
堀社長
本気度は半端じゃないですね。ソウルなんかでも普通の食堂行っても15年前までは誰も片言の英語も喋れなかったんですよ。今は、みんな片言の英語を喋るんですよ。そこまで徹底するとああいう事が起きるって事です。
中村
第3のコーナー、日本の政策をどう見るか。この政権に入ってクールジャパン政策については力を入れていて、政府はクールジャパン推進機構と呼ばれる500億円を出資した基金を作る。そこに民間の資金も入れて、海外展開、コンテンツなどの海外展開を後押しするということです。
先ほど大臣はまずは民間が頑張ってそれを政府はちょっと後押しするということを仰ったんですけれども、これはどう使われていくんでしょう?それまでも補正予算でも170億っていう資金を出して、海外展開する時のローカライズ、翻訳の費用とか、色んな案件に出してきていますし、かなり安倍政権はクールジャパン戦略には本気度がありますね。
稲田大臣
政府は担当大臣を置いたことだし、中村先生にもコンテンツの分野でも会議をやって頂きましたよね。本気度の1つが500億っていうお金ですよね。その基金で、出て行きたいけれども、資金が足りないというような所に出資をしていこうというのがこの機構の目的ですから、その後押しで、海外で成功する事例がたくさん出てくれたらいいなと思っています。
堀社長
経産省の会議でも申し上げましたけど、過去の検証をやったほうがいいんじゃないですか。どう上手くいかなかったのかと。
西陣織の会社が海外に展開していこうって時に、どれもこれも上手く行かなくて、それを見たイブ・サンローランだったかディオールだったか忘れましたけど、そこの店舗のコンセプトにこの西陣織は合うってので、そこの店舗の壁紙は全部西陣織になったって例があるんです。
こちら側もただ自分の作ったものを買って下さい、私はかっこいいんですっていうのはおかしな話で、一生懸命売りに行ってダメならしょうがない。でも、ここを変えたらいいんじゃないのという相手のお客さんのニーズに、こちらも伝統だけに拘らずに、これが最新の日本のものだっていうものを持っていかなきゃならないんじゃないかな。
中村
この基金を運用するときも、じゃあ官僚にやれったってできる話じゃないですよね。目利きが必要で。
稲田大臣
何に投資するかの目利きが必要で、それをのべつまくなしに出していたらドブに捨てるようなもんです。500億円って大きなお金です。私はクールジャパン戦略もやっていますが、行政改革担当大臣でもあります。今回の基金は、1回出したっきりでどうなっているかわからないというのではダメです。毎年それがどう使われているかをチェックするため、基金シートを新たに作ったんです。
中村
大臣は厳しくチェックする側でもあるんだ。
稲田大臣
そうなんです。つまらないものに使ってほしくない。反対に良いものに使えば500億が何倍にもなって経済効果になるので、そこは両方見て行きたいと思います。
堀社長
あとは優先順位を誰が決定するかですよね。
全国の農産物を売りましょうって時に、まずどれから売っていけば成功例ができるのかっていうような集中力です。上海のぼくの友人に、松阪牛のステーキ屋を自分で作りたくて、松阪牛を食べたくて仕方がない人がいるし、アメリカのプロデューサー・作曲家が日本に来た時も日本のステーキ屋に行って、こんな肉は食べたことがないって言うんですね。それだけすごいものなんですよ。それをまずこれからやりましょう。
稲田大臣
だから日本らしい付加価値をつけて売って欲しい。やっぱり本気度が試されていると思います。
(つづく)
(この記事は11月15日の「中村伊知哉Blog」から転載しました)