(ニューヨーク)-すべての政府は、完全自律稼働型ロボット兵器(いわゆる「殺人ロボット」)がもたらす脅威に対処する国際会議の開催に向けて支持を表明するべきである。2013年10月21日、ヒューマン・ライツ・ウォッチとハーバード大学法科大学院国際人権クリニックは、殺人ロボットがもたらす法律上の問題についてのQ&A文書を公表した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチを含む「ストップ・キラーロボット」キャンペーンの代表者たちが、10月21日にニューヨークの国連イベントで、殺人ロボットについての懸念を発表した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器局局長スティーブ・グースは「国際的な行動が緊急に必要だ。行動を起こさなければ、殺人ロボットがSF小説の悪夢から恐ろしい現実になる危険がある」と指摘。「人間を標的に武力を行使する際、その指示・決定はあくまで人間が行うようにするため、今回の国際会議は開催される。米国をはじめ、すべての国はこれを支持すべきだ。」
「致死力を備えた自律稼働型ロボット」あるいは、いわゆる「殺人ロボット(キラーロボット)」と呼ばれる完全自律稼働型兵器は、まだ開発されている訳ではないものの、自律稼働性を高める技術開発が進んでいる。このような兵器は、人間の指示なしに、標的を選んで交戦することになる。
完全自律稼働型兵器の問題が、政府や国際機関など世界中から注目を集める問題になったのはこの数ヵ月のことだ。
オーストリア、エジプト、フランス、パキスタンなどの国々が10月初旬、ニューヨークで開催される「国連総会の軍縮・国際安全保障に関する第1委員会」の際に、完全自律稼働型兵器に関する国際会議の開催を呼び掛けた。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の次期会議の議長国であるフランスは、同条約の作業プログラムに完全自律稼働型兵器を加えることを支持するよう、各国と協議をしている。
2013年5月に公表された報告書で、国連人権高等弁務官事務所の超法規的・即決・恣意的処刑に関する特別報告者のクリストフ・ヘインズ教授は、各国政府に殺人ロボットの開発を直ちに停止するよう求めるとともに、ハイレベル専門家委員会でこの問題を検討するよう提案した。国連人権理事会は5月29日にこの報告書に関して議論を行い、その席上で24ヶ国以上の国々が、初めてこの問題について意見を表明した。そのすべての国が、完全自律稼働型兵器の将来について緊急に国際的行動が必要である旨、同意している。
技術者、コンピューター関係及び人工知能の専門家、ロボット研究者、関係専門機関に属する専門家など272人が10月16日、完全自律稼働型兵器の禁止を求める声明を出した。声明は「ロボット兵器が、正確な標的特定、状況認識あるいは武力の『均衡性判断』に関する意思決定などに必要とされる機能を備える、あるいは近い将来に備える可能性があるという、明確な科学的証拠がないことを考慮」し、ロボット兵器が武力行使の法的要件を満たしうるという考え方に、疑問を投げかけた。
前出のグース局長は「私たちは完全自律稼働型兵器の問題に取り組むことに、極めて大きな関心を寄せている。今こそ行動を起こすべき時だ」と述べ、「唯一の実行可能な解決方法は、こうした兵器の開発・製造・使用をあらかじめ禁止しておくことだ」と指摘する。
ヒューマン・ライツ・ウォッチとハーバード大学法科大学院国際人権クリニックは2012年11月に、報告書「失われつつある人間性:殺人ロボットに反対する根拠」(全50ページ)を共同で発表。両団体が法律面・倫理面・政策面などで抱く、完全自律稼働型兵器の懸念を概説した。今回公表した新たな「Q&A」文書では、同報告書が掲げた問題の一部を、更に明確化して展開している。
殆どの政府は、完全自律稼働型兵器に関する立場を決定する過程にあり、意見表明していない。例外は米国で、国防省は2012年11月21日、同省幹部の許可なき限り、当面の間、致死力を伴う強制力の行使について意思決定をする際には「その回路に("in-the-loop")」人間が介在することを義務付けるよう指令した。
そのような指令を出したこと自体は評価されるものの、完全自律稼働型兵器によってもたらされる潜在的危険に対する総合的あるいは恒久的な解決ではない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。米国が採用した自己規制策は、他国が完全自律稼働型兵器システムを配備し始めた場合には、維持困難になる恐れがある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、4月にNGOの国際的連合体が発表した「ストップ・キラーロボット」キャンペーンの最初のコーディネーター。同キャンペーンは人間の介在なしに標的を選び、攻撃することが可能な兵器を、あらかじめ禁止するべく活動している。
完全自律稼働型兵器を禁止するため、人間に対して致死力を伴った強制力を行使する際の意思決定は、常に人間によってなされなければならないという原則を、国際条約並びに各国国内法で定めるべきである。
(この記事は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のサイトで10月21日に公開された記事の転載です)