この小学校の先生がすごい! 子どもたちのやる気を引き出す数々の仕掛けとは

一風変わった教育手法で、子どもたちのモチベーションを上げまくっている、東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生の授業風景は、まるで司会者とひな壇芸人のようだ。

小学校の授業に一風変わった教育手法を持ちこみ、子どもたちのモチベーションを上げまくっている先生がいる。東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生の授業風景は、まるで司会者とひな壇芸人のようだ。

「皆さんがイメージしている普通の授業が国会答弁みたいな感じだとすると、僕の授業はそういう決まった形がありません」

沼田先生が問いかけると、子どもたちはどんどん話す。そこにツッコミを入れつつ、話を広げたり、ほかの子に振ったり、最後に先生がオチを持っていこうとすると、また子どもたちが取り返す。

とてもインタラクティブな沼田晶弘先生の授業風景

なぜそんなアクティブな授業が可能なのか。子どもってもっと気難しい存在じゃないの? なんて、ついつい不思議に思ってしまう。子どもをやる気にさせるマジックはきっと大人にとっても参考になるはずだ、ということで沼田先生にいろいろな話を聞いてきた。たぶん新人教育に悩む先輩社員なんかにも参考になるだろう。

「先生の授業はお笑い芸人みたいだね」

-学校授業といえば想像するのはまさに国会答弁でした。先生の説明を聞いて、さされたら何か答えるという。

それって面倒くさいですよね。例えばよくあるのが、子どもが「はい」と手を挙げたら椅子を引いて、起立して、椅子を入れて「4です」と。

ただ「4」って言うだけなのにその作業に時間を取られるのは無駄だし、子どもだって椅子を入れている間にアイデアが変わったりするんですよ。だからとりあえず座ったまま何か話してもらって、それに僕がツッコミを入れて授業をする。

こういった授業をやっていたら、「先生の授業はお笑い芸人の誰々さんみたいだね」と言われて。それで「これだな」と思って、意識してみるようになりました。話を広げて広げて、最後に美味しいところを持っていこうとしています(笑)

なんでそうなっているの?を考えさせる

基本的に正解・不正解がないことを聞くことが多いんです。算数で言ったら逆転の発想が多くて。今日覚えるのが「三角形の面積=底辺×高さ÷2」だとしたら、僕は最初にその公式を出しちゃって、なんでそうなっているの?を考えさせる。ほかには「筆算」ってなんで縦書なの?とか。

最初の頃はみんな「え?」とかって言ってましたけどね。いまの子どもたちって塾とかに行ってるので、筆算の仕方くらいは知ってるんですよ。でも筆算の仕組みはわからないので、それを考えることによっていろいろ学べる。なるべく彼らがやりやすいようにしたいんです。

勉強が面白いかって言ったら、たぶんその面白さに気づくのって大人だけなんですよね。いろんな経験がないと勉強の面白さってわからないし、ましてや子供なんかやらされてる感満載です。それにも関わらず大人から「将来のために〜」とか言われたところで無理。

算数で「デシリットル」とか出てきますけど、僕でさえ人生で使ったことがあまりない。デシリットルなんて一度もないですよね。

仮説を立てさせることで事実を学ぶ

-デシリットルを面白くするのは大変でしょうね。

でもどうやって面白くしていこうかなと考えると、お決まりのことがあるとやりにくい。だからちょっとふざけちゃおうと。ふざけたことによって、実は本質的な学習ができてるようにしています。

例えば卑弥呼について学ぶときも、「みんな、仮説って知ってる?」と切り出して、「仮説」という言葉の意味を調べて、じゃあ今日は卑弥呼についての仮説ね、と。事実を元に仮説を立てろって言ったら、皆すごい調べて仮説を立てるんですよ。「卑弥呼美白説」とか出てきますからね。

その美白説だけを見るとふざけてるんですけど、ちゃんと根拠はある。卑弥呼は銅鏡をもらった。銅鏡は鏡だけど銅だから顔が茶色く見えた。それで自分の顔は日焼けしすぎていると思って、人前に出なくなった。そんな仮説です。

確かに人前に出なくなったことと、銅鏡をもらったことは、魏志倭人伝から引いている紛れもない事実です。だからすごく卑弥呼について勉強して、勉強した結果ふざけた仮説を出してるんですよ。

-事実はちゃんと覚えて、それを元に楽しんでいるわけですね。

2年生の時の掛け算、九九もそうです。「九九シート」で覚えますよね。お友達、おうちの人、先生がチェックするハンコがあるじゃないですか。1の段、2の段みたいな。あれが面倒臭いんですよ。なんでかと言うと、例えば40人いるとしたら360回最低聞かないといけないです。

当然、間違える子もたくさんいますから、たぶん700回〜800回は聞かなきゃいけないじゃないですか。こんなに面倒なことはないなと思いました。それで掛け算シートを作って、2000枚とか大量に印刷して好きにやっていいよって渡します。「暗唱するのに2分切ったら、年賀状にU2って書いていい」と、U2の称号を与えたんですよ。

「称号」にこだわると、九九も自発的に覚える

-U2とは...?

もちろん「Under 2minutes」です。その時にサッカーのUnder 21とか、Under 23とかがオリンピックで流行ってたので、それに似せてUnder 2minutesと名づけたら、必死にやってくれました。毎朝九九の勉強やるんですけど、僕はタイムを測ってるだけなので楽だし。それをやってたら皆すぐに覚えちゃいました。

それでお母さんたちの反応が面白くて、あるとき面談で「先生どうしましょう、うちの子は帰って掛け算ばかり狂ったようにやってるんですよ」とか言ってくるんです。それって日本中のお母さんを敵に回してますよね? 「勉強しない」って言って嘆いているお母さんがたくさんいるのに、「しすぎて困る」って悩んでるんですから(笑)

そんなことを言ったらお母さんも大爆笑してました。要は子供がやりたくなっちゃうような環境をいつも作り出せればいいと思うんです。

「地域について調べなさい」ではなく、「今から観光大使ね」

-本当は嫌な作業ですもんね。楽しくさせるような工夫、どうやって思いつくんですか。

そもそも僕自身勉強が嫌いでしたので、そこがきっかけでしょうね。僕も興味のないことはとことんやらない性格なので。やっぱり勉強する意味ってわからないじゃないですか。だからわかる形にしてしまう。

この前、社会科で観光大使っていう取り組みをやってみたんです。それも「勝手に観光大使」っていうちょっと洒落た名前をつけて、「今日からみんな、観光大使に就任するからな」とか言ったら、子どもは「はぁ?」みたいな。

「全員好きな都道府県をやっていいぞ。パワポで資料作りにいくぞ」って言ったら、パワポ使っていいの?みたいな大喜びで。「戻るボタン」の素晴らしさと、ググり方、そして著作権についてだけ教えました。

子どもって説明書とかいらないんですよ。パワポをどんどん触りだすと上手いやつが出てくるので、それをプロジェクターで写して「どうやってやるの?」っていう学び合いが成立する。そうすると、「もっと写真が必要だよね」みたいな話になって都道府県について調べ出す。

もうその県についてすごく詳しくなって、最後に一人ひとりが観光大使としてプレゼンしたんですけど、やっぱり最後にまとめとしてノートにしないと書く力がつかない。そこで考えついたのが、「よしこれ、知事に送るぞ」と。それで本当に送ったんですよ、全知事に。

子どもは「またこの人変なこと言ってるな」みたいな感じでしたけど。でもノートにまとめて送ったら、知事からお手紙が来たり、お礼にクリアファイルとかを送ってもらったり、兵庫県からは「勝手になんて言わずに正式に特別観光大使に任命します」みたいな通知が来たり、島根県からは学校にゆるキャラ「しまねっこ」が来ましたね。

日直は「キャプテン」、班は「チーム」に

-知事に送るって言われたら頑張らざるを得ない。「観光大使」というネーミングも効いてますね。

そうなんです。うちのクラスは日直を「キャプテン」と呼びます。その日は1日中、サッカー選手が使う「キャプテンマーク」を腕に巻いています。班っていうのもなくて、「チーム」です。

単純に「日直」って言われるより「キャプテン」って言われた方が嬉しいですよね。たぶん大人だって班よりも「チーム」のほうがテンション上がるじゃないですか。

さっきの勝手に「観光大使」もやり方を変えただけで、実は「日本の国土を学ぶ」という社会科の普通の単元なんですよ、普通にやっても調べるわけがないので、いかにやりたくなっちゃうかを考えます。

リレーは遅い順に並べるとみんなが幸せになる

あとは仕組みを変えるのも大事で、うちのクラスは運動会のリレーを遅い順に並べるんですよ。そうするとチームが勝つためには1番から5番の遅い子たちが勝負どころになる。「お前らが離されるのはわかってる。だけど、とにかくトラック半周以内に抑えろ」と声をかけておきます。

後半に絶対抜くっていう考えで一生懸命やらせると、たとえ遅くても他の子から「おいー」とか言われないんですよ。なぜなら遅いのをわかっていて一番前にいるから。でもこの遅い子たちがちょっと頑張っちゃってビリじゃなかったりすると、待ってる子たちがハイタッチして出迎えるんですよ。負けてるのは変わらないのに。

-なるほど、速い子→遅い子だと展開的に気まずいですけど、逆はありですね。

だいたい足の速いやつは普段から走っちゃいけないところを走ってるんですよ、廊下とか。移動は基本すべてダッシュなんですね。でもそんな子たちを1ヶ月鍛えたところでこれ以上は速くならない。でも遅い子はたぶんトラック5周も練習したらすぐ速くなるんですよ。でもその5周を絶対しないんです(笑)

だけど「こいつらを鍛えれば速くなる」って言ったら、速いやつらが練習に付き合うんですよ。「クラスのためにお願い」とか言って。走りたくないやつが一緒に速い子に走ってもらって、終わった後に「よく頑張ったね、ありがとう」とか言われるわけですよ。この遅い子たちはもう家でもトレーニング始めちゃって、そうすると底が上がるからリレーは圧勝しちゃうんですよ。

この作戦をやると親にもいいですよ。親が「うちの子が抜かれてすいません」みたいなことがあり得ないんですよ。最初が遅いので、抜いていくことはあっても、抜かれることは起きないんです。

-適切な人を適切なところに配置して、全体が良くなるような仕組みを考えるんですね。

そのためにはやっぱりコミュニケーションも取らなきゃいけない。僕は毎日全員と交換日記してますけど、毎日コメントを書いて返していて。親の悪口が書いてあることもあるし、友達との関係も書いてあるし。でも親は見ないことになってる。

あとはEvernoteに子どもたちの様子をメモってます。Evernoteだとどこでも書けるじゃないですか。スマホとパソコンとiPadと。更新順に並ぶので、最近書いてない子は一番下になる。そうすると、その子に話かけに行ったりする。

クラスの目標は賞金を稼いで、ホテルでご飯

-さっきの運動会もそうですけど、ちゃんと目的に向かって戦略を実行させるわけですね。

ゴールは意識させますけど、そこに辿り着く手段に関しては僕は求めていません。「好きにやっていい」って言ってますので、皆で考える場合もありますし、個人的に考えてくる場合もあります。

でもクラスには目標があって。それは何かというと、とにかく賞金を取ること(笑)。賞金を取って、ホテルでご飯を食べて、リムジンに乗って帰るっていう目標が全員で共有できています。でもその賞金を取るためには、作文コンテストだったり彼らの実力が要求されるわけです。

そこに向けて皆が自分の得意なことをやっているので、例えば「8月8日に豆つかみ大会があるから出ませんか?」みたいなプロジェクトが勝手に立ち上がります。

うちのクラスはやりたいことが多すぎて、すべてをクラス全員でやってると間に合わないので、プロジェクトチームを作っています。全員どこかのプロジェクトに所属しなきゃいけないってこともなくて、やりたいやつだけやればいい。でも結果的に全員どこかに入ってるんですけど。1人で4つくらい掛け持ちしてるやつもいます。

「良い質問ですね」はNG

-例えば授業をする上で、何か気をつけていることはありますか。

テレビ番組でたまに聞くんですけど、「良い質問ですね」って言葉があるじゃないですか。あれは先生が言ってはいけない言葉だと僕は思ってるんですよ。良い質問は、先生にとっての良い質問なんですよ。それを言い出すと子供は、先生の思っている良い質問を探そうとしてしまうから。

-それは先生に褒められるために。

そうです。「良い質問ですね」というのは、その人が展開したい通りにストーリーが進むから良い質問であって。

あれって教育実習生がよくやってしまうんですよ。授業の流れを準備しておいて、なかなか子どもが思うようにいかないところで、自分の思った方向に向いてることをポンと言うと、「今◯◯ちゃんが良いことを言った!」って(笑) 良いことっていうのは、良い悪いの判断を先生がしているだけ。子どもは自分が良いと思ってるからわざわざ発言してるのに。

でも思わず言っちゃう気持ちはわかる、準備してきてるわけだし。だから実習生に僕が教えるのは、「1回言ってしまったらその次のやつから全部『良い質問』にしろ」って。良いこと言ったねって言ったら、次から全員良いことにしちゃえばいい。

やっぱり先生の枠の中だけで授業が終わっちゃったら、先生よりも凄いやつは出ないですよね。日々、「そう来るの?」みたいな意見が出てくるのが一番楽しいですよ。本当の意味での個性を出せたかなと。

奇抜だけどやってることはどストレート

このあいだ原始時代の話をしていて、「みんな同じ服を着てるのはなんでだろう」って聞いたら、僕の中では「それしか材料がないから」っていう回答が来ると思ってたんですよ。そしたら「流行だから」だって(笑) 確かに、まあ流行っていたのかもしれない。

同じ材質しかないからみんな同じ服を着ている。でも、それを流行と言って何が悪いのかと。これいいじゃん、みたいな気もする。そういう時に僕は「おおー!」とか言いますけど、確かにふざけてると受け取られてもおかしくないですよ。真面目な勉強してるのに「流行」の一言で終わらせようとしてるんですから。

もちろんそれだけじゃ教育は成立しないので、「じゃあなんで流行になったんだろうな?」って考えます。考えるというプロセスを挟んだほうが定着しますね。やってることは奇抜に見えるんですけど、内容的にはどスタンダードだと思います。

大人も子どもも、みんな「認めてほしい」

-子どもも大人も共通するモチベーションアップのコツってあったりしますか?

まあ大人もみんな認めて欲しいんです。だからちょっとでもいいところを認めてあげて、後から注意したほうがいいですね。注意してから褒めても聞こえてない。

例えば最初の頃はただ「いいね」とか言うけど、最後に段々レベルが上がっていったらより具体的に褒める。料理だったら、最初は「美味しい」って言って。次は「今日の焼き方いいよね」みたいな。3つ目になると「このソースと焼き方のバランスが絶妙」みたいに、段々詳しくしていって。

あと、褒めるときもちゃんと褒めないといけないですね。せっかくテストで満点を取っても、お母さんが忙しい時に見せたら、ただの紙切れなので。その絶妙なタイミングを探す必要があります。

だからそれはいまでも演出してあげるようにしています。漢字で満点取った子がいたら、そいつにさよならしてから家に帰るまで20分くらいあるので、その隙にその子のお母さんに電話をして、「やりましたよ、ついに」と。「頑張ったねって褒めてあげて、今日は赤飯炊いてください」みたいなことを言う。ここは女優になりましょうと(笑) 知らない体で聞いて、爆発的に喜んであげてくださいと。

そうすると子どもが帰ってきてニヤニヤしてるけど、お母さんはもう知ってるからちゃんと聞いてあげるわけですよ。そこで何かあったの?って聞いて、喜んでウワーってなって、次の日うなぎを食いに行ったりね。だから、いいことがあったら電話します。ここぞの時はやっぱり皆で褒めたいですね。

見てくれてるって感じることは大人も子どもも大事。そのためには、やっぱり演出というか、どこかで一気に盛り上げたいタイミングを見極めて、目一杯やってあげたいなと。

日々の試行錯誤が伝わる沼田先生のツイッター

「褒めるのも鮮度が大切」 

「くじ引きでいいじゃん!」で笑顔に

林間学校の夜

欠席の子が人気の役割に選ばれる

朝の会でスタンディングオベーション

ゲーム感覚でアナザーゴールを演出

調理実習で誕生パーティー

ちなみにそんな沼田先生のMCを生で聞く機会もあります。

(2015年7月1日「HRナビ」より転載)

【関連記事】