いま、アニメ『ゴルゴ13』を見るべき13の理由

仕事柄(?)、学生さんたちから「今期のアニメどれ見てんすか」みたいに聞かれることがよくある(そういう仕事なのだ)。で、まあそのときどきで適当にいろいろ答えるわけだが、「今期」に含めていいのかわからないものの、今わりと楽しんで見ているアニメがある。MXTVで放映している『ゴルゴ13』だ(東京以外の方申し訳ない)。

仕事柄(?)、学生さんたちから「今期のアニメどれ見てんすか」みたいに聞かれることがよくある(そういう仕事なのだ)。で、まあそのときどきで適当にいろいろ答えるわけだが、「今期」に含めていいのかわからないものの、今わりと楽しんで見ているアニメがある。MXTVで放映している『ゴルゴ13』だ(東京以外の方申し訳ない)。

いやこれが面白いんだいろんな意味で。

MXTVで放映なのに公式サイトがテレビ東京のところにあるというのは、要するにMXTVお得意の、他局で放映したアニメの再放送ということだ。もともとはテレビ東京系で2008年4月~2009年3月に放映されていた。製作はテレビ東京と総通エンタテインメント。提供は小学館、と表示されるが、その他にもアクサとかブシロードとかのCMも流れる(いわゆるパーティシペーションというやつだろうか)。あと番宣とかも流れるから、けっこう厳しいのかもしれない。そういえばやってたなと思い出す。放映してることは知ってたのに、「ゴルゴかあ」とついスルーしてしまっていたわけで、自分の不明に恥じ入るしかない。

で、今さらながら大絶賛しようというわけだ。何が面白いかについて、せっかくゴルゴなので、がんばって13点挙げたい。

(1)ゴルゴがしゃべらない

このアニメの最大の魅力はやはりなんといっても主役のゴルゴだ。まあ原作マンガを読んだことがある方なら先刻ご承知だろうが、基本的にゴルゴ13ことデューク東郷はあまりしゃべらない。それでも初期はそこそこしゃべっていたが、少なくとも最近描かれたエピソードにおける彼の台詞で最も多いのは「・・・・・」だろうと確信を持っている。それがこのアニメでは余すところなく再現されているのだ。

ふつうのアニメだと、声優さんたちが「・・・・・」にあたる部分に「・・・んっ・・・」っていう短いため息的な声を入れるみたいな、アニメ声優さんならではの芸をみせてくれるわけだが、『ゴルゴ13』にはそうした小技は一切ない。まさに直球勝負だ。ぴくりともしない(もとい。ひょっとしたら、たまに眉毛がぴくりとか動いてるかもしれない)ゴルゴの顔を大映しにしながら、文字通りの「・・・・・」である。この「間」が、実際に人間の声で演じられるといっそう強調されて、なんともいえない緊迫感を生む。むしろこうなってくると、見る側としては、「ゴルゴはいつしゃべるのか」「今日はゴルゴが何回しゃべってくれるか」が最大の楽しみとなってくる。

どのくらいしゃべらないかというと、こんな感じ。2013年11月13日放送(もとの放映日は2008年11月21日)「Target 33 誇り高き葡萄酒(ワイン)」中のゴルゴの台詞を拾ってみた。語尾がややはっきりしないので正確に聞き取れたかどうかはわからないが、おおむね合ってると思う。

「突然のことで申し訳ない」

「なかなかの見晴らしだ」

「ワインを?」

「その偽ワインを作ったのは誰なんだ?」

「自分で偽ワインを作って、名誉と伝統と誇りか」

「苦い」

「誇りは気高いが、過剰になれば傲慢だ。それは苦々しいだけだ」

・・・これだけ。

本編約20分強の間に、たったこれだけである。毎回ほぼこんな調子。

主役よりサブキャラがよくしゃべる作品は別に珍しくないが、主役がこれほどまでにしゃべらない作品は、そうそうないのではないだろうか。アニメオリジナルのエピソードもあるから、見ながら「よし!ここでゴルゴがしゃべるかも!?」と高ぶった期待を「・・・・・」であっさりと裏切られたり、そうかと思うと「ここで!?」と思うような意外なタイミングで鋭いことばに驚いたり。このドキドキ感はアニメならではだ。いやーこんな楽しみを本放送時に見逃していたとは、つくづくもったいないことをしたものだ。

(2)舘ひろしの声が意外に軽い

一方、作り手にとってのこの作品の「目玉」は、主役であるゴルゴ役に舘ひろしを起用したことだろう。石原軍団の中核を担う、テレビドラマでも主役級の大物俳優を豪華にもキャスティング、というわけだが、そういう高ぶった期待で見ていると、「あれ?」っという感じになる。舘ひろしの声が、なんというか、意外に軽いのだ。

いや、別に軽薄な声とかそういうんじゃないんだよ?「あーれ銭形のとっつぁん来ちまったのかぁ」みたいな某お方とはもちろん対極の、渋めのハードボイルド系二枚目ボイスで演じていただいているんだが、なんというか、思ったより、ゴルゴっぽくないような気がするんだなこれが。思えば、舘ひろしのイメージというのは、どちらかといえば声よりも風貌とか表情とかによって形成されているのかもしれない。そういえば、コメディみたいなドラマでもけっこういい味を出していらした方だし。ともあれ、声だけ抜き出してみると、意外に意外、なのだよ。これは個人的には新発見。

(3)サブキャラの見分けがつかない

で、まあこれも原作通りなわけだが、主役がしゃべらない分、脇役の皆さんがいっぱいしゃべってくれる。何しろ、毎回いろいろややこしいことを説明しないとわからない系の話だし。基本的にこのアニメ、登場人物が極端に少なくて、極端にいえばゴルゴとゴルゴに殺される人とそれを依頼する人ぐらいしか出てこない(これは誇張。もちろん、いわゆるモブキャラの皆さんも必要に応じてわらわらと出ていらっしゃる)。ともあれ、ゴルゴ以外のみなさんは毎回ほぼ総入れ替えとなるわけだが、これがおもしろいぐらいに見分けがつかない。

確かに毎週全員入れ替わってるはずなのに、どうにも毎回、同じキャラが出てきてるようにしかみえない。ハンクだのシンプソンだの、見るからにどうでもいいような(失礼)名前の外国人キャラばかりだからという要素もあるが、やはり毎回入れ替わっていくせいで、覚えるひまがないという要素が大きいだろう。声も同様。ぱらぱら見た限りでは外画系の声優さんとかが多いようで、毎回入れ替わってるっぽいんだが正直ほとんど区別ができない。そもそも公式サイトのキャスト欄には「ゴルゴ13 舘ひろし」しか書いてない。

考えてみると、『水戸黄門』みたいな番組でも、黄門様ご一行以外は概ね毎週ちがう登場人物のはずだが、出てくる人はよく似ていたりしていて、よく見分けがつかない。ひょっとすると、全国各地の悪代官たちはみんな同じ顔だったのかもしれない。そういえば『ポケットモンスター』でも各地のポケモンセンターのお姉さんたちは(ry

ともあれ、『ゴルゴ13』を見ていると、人間、大事なところ以外は案外どうでもいいのだということに改めて気づかされる。こういうメリハリの付け方は人生において重要なポイントではないかと思うのだ。いや勉強になるなあ。

(4)絵が動かない

最近のアニメというと、アニオタの皆さんがあれやこれや文句いうせいか、やたらに精細な書き込みとかぬるぬる動くだとか、あるいは3Dのダイナミックな動きだとか、とにかく動画の質にこだわったものが多いわけだが、『ゴルゴ13』はそんな昨今の風潮とは一切無縁。

背景も無駄に細かく書き込んだりしないし、キャラクターの動きにもとにかく無駄がない。表情だってふつうの表情以外は怒ってるか笑ってるか死んでるか(!)ぐらいしかないし(ちょいおおげさ)、いちいち振り返ったぐらいで髪が揺れたりもしない(まあゴルゴの髪型では風が吹いても微動だにしないだろうが)。このコスト意識の高さ、まさしくプロの仕事。まさしく『ゴルゴ13』にふさわしいではないか。

(5)アメリカっぽいチープさ(いい意味で)

あと、キャラクターの動き方が、アメリカの子供向け2Dアニメ(やたらミュータントとか出てくる類のやつ)でよくみる不自然さと少し似ているような気がする。うまく説明できないのだが、人体が人間工学的でない動き方をする感じというか。「チープ」というとあまりいい響きではないが、あの手のアニメのよさはあのチープな感じにあるというと、共感してくれる方はけっこう入るのではないか。あれと似た印象を受けるのだ。

そういえばこのアニメの制作会社はThe Answer Studioだった。代表の方は一時期ウォルト・ディズニーにもおられた人だったかと思う。この会社も、オリエンタルランド関連のアニメとか作っているようだし、ディズニーとのつながりは何らかあるのだろうが、そのこととの関係があったりするのだろうか?

(6)一切萌えない

というわけで、キャラクターを始め、このアニメには萌え要素が一切ない。これっぽっちもない。アホ毛もツインテールも「パンをくわえた女の子と(ry」もないし、「ほぇ?」とか「うにゅ」とかも絶対言わない。もちろん、武器萌えとか乗り物萌えとかみたいな要素はあるだろう。そもそも「ゴルゴ萌え」みたいなのもあるのかもしれないし。とはいえ、概ね、萌えない。この潔さ。萌えアニメ全盛の現代日本の深夜アニメ界において、このアニメは一服の清涼剤のようではないか(おおげさ)。

(7)話が小さい

『ゴルゴ13』というと、現実とリンクしたスケールの大きな話の印象が強いが、このアニメはそうではない。Wikipediaの説明を借りれば、「原作の特徴の一つだった現実の国際情勢や実在の事件に題材をとったジャーナリスティックな話は登場せず、エピソードの舞台となる国名や都市名さえ明記されないことが多い」のだ。端的にいえば、話のスケールが小さい。なんとかいう富豪を暗殺する、なんとかいう一派にねらわれる、なんとかいう人に出会う、そういう感じのストーリーに終始する。二次利用時の国際情勢の変化によるリスクを最小化するためだろうか。

考えてみれば、『ゴルゴ13』の原作連載が始まった当時は、まだソ連があったし(ということはユーゴスラビアとかもあったわけだ)、逆に東チモールとかはなかった。こういう息の長い(このアニメも長く使いたいだろう)コンテンツであれば、むやみに現実の国際情勢を反映することは、陳腐化リスクを負うことにつながる。それに、あまり現実に近づけすぎると、たとえば抗議を受けたりするとか、いろんな事情で放映できなくなるエピソードが出てくるかもしれない。避けるのが正解ということになろう。もしそういう発想だとしたら、この徹底したリスクマネジメントとストイックさ、たいしたものではないか。

(8)いい人が出てこない

これもまあ原作どおりといえばそうなんだが、とにかく出てくる奴出てくる奴がそろいもそろって悪役か小物。悪役が共感できるキャラクターであることもよくあるが、そんなこともなく、ただただシンプルに、悪役か小物。もしくは悪役で小物。

マンガではあまり違和感がないのだが、登場人物が誰一人として共感できない(ゴルゴに共感できるという人もいるのかもしれないが、個人的にはゴルゴは共感の対象ではないような気がする)というのは、悪役の内心の葛藤やら何やらを描くことでドラマに深みを出そうとすることが多いいまどきのアニメとしては、やはりかなり異色で、それがまたいい。

(9)無駄にちょいエロい

深夜帯とはいえ、地上波テレビで放映となれば、その内容には自ずと制約がある。このアニメでも、『ゴルゴ13』らしくエロいシーンはちょいちょい出てくるわけだが、それがまあなんというか、深夜帯地上波番組らしい中途半端さなのだ。しかも、絵柄の効果もあってこれっぽっちもエロくない。

その代わり、かどうか知らないが、エンディングの止め絵のアニメーションがモノクロのせいか微妙にエロい。本編でこういうのをやれば視聴率的にいいんじゃないかとも思うわけだが、そうはしないストイックさがまたゴルゴらしくてよい。

(10)ゴルゴが意外にエコ

2013年10月(日は忘れた。元の放映日は2008年10月17日)に放映された「Target.28 白夜は愛のうめき」。ゴルゴが旅客機に乗るシーンがあるわけだが、よくみると座席配列が3-4-3。機種は記憶が定かでないがボーイング747あたり?ということはこれ、エコノミークラス・・だよね・・?ゴルゴ、意外にエコじゃん?あと、座席幅との関係からみて、ゴルゴ、意外に小柄?

これってどうなのと思ったので原作もチェック。このエピソードは2巻に収録されているが、原作ではこの飛行機はDC-8。で、座席配置はどうも3-3っぽい。ということはやはりエコノミーか。ゴルゴってエコノミークラスに乗る人なの?いや知ってる人は知ってる話なのかもしれないが、私としては驚きの新発見だったので、いや勉強になったなと。

(11)世界中日本語で通じるのがうれしい

他の人がどうかよくわからないが、私の場合、マンガだと、台詞の日本語は「外国語が日本語に脳内変換された状態」、というか洋画で字幕スーパーが入っている状態というか、そういったものに脳内変換される。要は、パリでフランス人同士が日本語でしゃべっていてもあまり違和感がないわけだ。

しかしアニメだと、声が実際に聞こえるせいか、逆に違和感をけっこう感じる。「ワインはわれらフランス人の誇りだ」とか日本語で重々しく言われると、「ん?」という感じになる。洋画の日本語吹き替えに感じる違和感(感じない人もいるだろうが私は感じるのだ)と同種、なのかもしれない。とはいえこれ、慣れるとけっこう気分がいい。どの国のどんな立場の人も流暢な日本語でしゃべってくれるのだ。ことばの壁がない世界というのはいいものだなあ、ということで、外国語習得への意欲を高める効果があるのではないか(さすがに強引)。

(12)CMとの落差が激しい

テレビ番組のスポンサーというのは、当然ながら自社のCMを見てもらうためにスポンサー料を出しているわけで、その際、自社の製品やサービスのターゲット層と番組視聴者層が重なっていることを前提としているはずだ。だが『ゴルゴ13』の場合、小学館はいいとして、なぜか入ってきてるブシロードのCMにはけっこう違和感がある。ゴルゴの「・・・・」を堪能していたところへ突然『禁断召還!サモンマスター』の「あなたが必要なの」みたいな萌え萌えなCMやら、『バウンドモンスターズ』のなんとものんきなCMが流れるわけだ。私にはとてもそうは思えないのだが、スポンサー的には、あるいはMXTV的にはこれらのゲームのターゲット層は『ゴルゴ13』を見ている、という何か確信めいたものがあるのだろうか。

まあ、合ってるかどうかは別として、個人的には、緊張感のあるアニメ本編からこの萌え萌え能天気なCMに移った瞬間の空気の弛緩はけっこう気に入っている。なんというか、平和っていいなあ、平和な日本っていい国だなあ、とあちこちに感謝したくなる。こんなにありがたい思いができるアニメはそうそうない。

(13)『ゴルゴ13』がこの11月で連載45年

最後に、なんといってもこれ。『ゴルゴ13』はこの11月で連載45周年を迎えるのだ。めでたいではないか。見るしかないではないか。聞けば去る11月13日、「『ゴルゴ13』生誕45周年を祝う会」が帝国ホテルで開催された由。会場では秋本治、あだち充、井上雄彦、尾田栄一郎、高橋留美子、萩尾望都など人気マンガ家63人が描いたゴルゴの絵が展示されたとか。それぞれ個性が出ていて面白い(参考1参考2

というわけで、今、アニメ『ゴルゴ13』を見るべき13の理由を挙げてみた。やや無理っぽいところもあって、まあ基本的にはネタなわけだが、実際けっこう楽しんで見ているのはまちがいないので、あながち嘘でもない。来年3月まで放映してくれそうだから、ぜひ皆様もどうぞ。

ちなみに、「今期のアニメどれ見てますか」に対する「まじめ」な答えとしては、『キルラキル』を挙げとく。いい感じに昭和な熱血テイストと平成らしいスピード感がマッチしていて楽しい。萌え要素があまりないあたりもたいへん結構。主人公の「服」がちょいエロいという評価もあるようだが、エロさが気にならないぐらいのハイテンションぶりがいい、というのが私の印象。

(※2013年12月4日の「H-Yamaguchi.net」より転載しました)

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