男性用マタニティマークがあったらいい

身に着けたいと思う人は少なくないのではないか。

マタニティマークというのがある。いろいろな種類があるようだが典型的なのは下↓にあるようなものだろう。これはアマゾンで売ってるものだが、駅などで配布してるところもあるらしい。これを持ってる人には電車などで配慮してあげよう、席を譲ってあげよう、といった趣旨かと思う。

妊婦がこれをつけるべきかどうかという論争があるらしい。で、ちょっとした思いつきなのだが。

なんでそんな論争があるのかと思ったら、マークを身に着けることで迫害を受けることがあるらしい。暴言を吐かれたとか足をひっかけられたとか、そういう話がたくさんネットにはあるようだ。

中には都市伝説みたいなのも混じってるのかもしれないが、本当の話もたくさんあるだろう。ひどい人たちがいるものだ。これ見よがしにつけて席を譲れといわんばかりの態度だとかおなかが気になるならラッシュを避けて乗ればいいのにとか、それっぽい主張はあるようだが、主張ならともかく、暴言や暴力は少なくとも他人に対してとる態度ではなかろう。正当化できるものではない。

しかしそうはいっても、そういう人がいるかもしれないと思うだけでこわいというのも当然であって、だからマタニティマークはつけないという人がいるのも悲しい話だが理解できる。どちらが正しいということもなかろう。つけたい人はつければいいし、つけたくない人はつけなければいい。「つけるべきか論争」は、したがってあまり意味がない。

それよりも問題は、そういう論争が起きてしまう背景にある現状をどうするかだろう。社会としてそういう暴言や暴力を許さない、というのはスジではあるが、たとえばまわりの人がそうした行為を咎めてやめさせるというのはそう容易ではなかろう。

警察や鉄道会社がすべての場所で目を光らせる、というのも現実的ではない。監視カメラをそこらじゅうに設置、というのもありうる話だがやや気持悪いし、監視自体のコストというのもある。

そもそも、マタニティマーク自体の認知度が低いからつけていても気づかれないのだ、という主張もある。しかし見たところ、典型的なマタニティマークの絵柄はかなりわかりやすくできていて、あれを見たら、知らない人でもその意味は理解できるだろうから、その主張は納得しがたい。小さくて目立たないから気づかない、という方がまだ説得力がある。

あるいは、知っているし気づいているが席を譲りたくないから知らないふりをする、という人もいるかもしれない。とはいえ気づきやすいように大きなマークをつけたら上記のような「これ見よがしにつけやがって」みたいな反発を招きかねないし、難儀な話ではある。

妊婦にとっても、マークに反発する人にとっても、つきつめれば気持ちの問題に帰着する。人によって感じ方もちがうだろう。もとより根本から解決できる話ではない。ならば、できる人ができることを積み重ねていくしかない。

というわけで、タイトルの「男性用マタニティマーク」に話は戻るわけだ。

もちろん、男性が妊婦になるとかそういう話ではない。「妊婦に席譲ります」でも「妊婦さんと赤ちゃんを応援します」でもいいが、そういう類のメッセージを示すマークを、妊婦以外の人がつけるというのはどうだろう。タイトルではわかりやすく「男性用」と書いたが、別に男性用と限定する必要もない。

女性だって「譲ります」マークをつければいいし、そもそも妊婦だけでなく乳幼児連れや高齢者とか障碍者とかを含めてもいい。いわゆるシルバーシートは特定の席にこうした機能を持たせるものだが、このアイデアはその役割を希望する人に担ってもらうわけだ。

マタニティマークをつけていようがいまいが、妊婦らしき人が乗ってきたらこのマークをつけた人は席を譲るべく声をかける、居眠りしていたら起こして席を譲るよう求めてもいい、といった基本的なルールを決めておけば、妊婦の側も安心してその人の前に立つことができよう。そういう人たちが車内に一定数いれば、暴言や暴力に走ろうとする不届き者を抑止する効果も少しは期待できるかもしれない。

これもまた「目立たない、認知度が低い」問題があるかもしれないが、このマークが関係するのは主にそれを身に着ける人と妊婦など一部の人たちなので、一般の人たちの認知や理解が必要なマタニティマークよりも受け入れられやすいのではないかとも思う。

世の中には、ある種の立場や意見を表明するためのマークを身に着けるという事例は少なからずある。赤い羽根の共同募金しかり、先日報道で見かけた「痴漢抑止バッジ」しかり、一時期はやったフェイスブックなどのレインボーアイコンしかり。そうしたものの1つとして、こういうマーク(マタニティ支援マーク、とでも呼んだらいいんかね)があったら、身に着けたいと思う人は少なくないのではないか。

少なくとも、男女共同参画社会だの女性が輝くなんたらだのを推進する政治家の皆さんは先頭切って着けてくれるんじゃないかと期待したい。誰かいいデザインを考えてくれんものか。

(2016年6月17日「H-Yamaguchi.net」より転載)

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