村山談話が国益にかなったものであったかどうかは別、また村山元総理がこの時期に韓国に訪れたことがはたしてどうだったのかは別にして、ネットを見ていると、なにか村山談話が当時の社会党なり、あるいは村山元総理が勝手に発表したものだと錯覚している人、特に「保守」を自認している人の中にいて驚きます。
村山内閣は、なにも当時の社会党が多数を占めたから誕生したのではなく、自民党が政権に復帰するために仕掛けた「自社さ連合」というサプライズによって誕生したのです。しかも村山談話は閣議決定されたものであり、自民党にもその責任があったのです。外務大臣は河野洋平副総理であり、また閣僚は自民党が多数を占めていました。
しかし覆水盆に返らずで、いまさら歴史を変えることはできません。村山談話があったことは事実として受け止めるしかないのです。
それはそうとして、当時を振り返ってみると、村山内閣が誕生した1994年当時は、まだ日本の半導体や家電も国際競争力を持っていました。半導体も売上高の世界シェアを見ると、NEC、東芝、日立のトップ3社で、世界の約3割のシェアを占めていた頃です。
まだサムスンも今日ほどは強くなく、まだ日本に学べの「克日運動」の余韻が残っていました。今日ほど韓国には経済力も国際的な存在感もなかった時代で、日本も韓国に対しては同じ民主主義国として寛容な姿勢をとり、韓国に譲ったということだったのでしょう。現在とは全く状況が異なります。
さて村山元総理は、訪韓することによって、ねじれにねじれてしまった日韓関係を改善する、なんとか首脳会談を実現するフィクサーの役割を果たそうということだったのだと思いますが、もしほんとうに安倍総理と朴大統領の首脳会談が行われたとしても、韓国の「反日」姿勢が収まるとはなかなか思えないのです。
なぜなら朴槿恵政権は「離米従中」に傾いた「二股外交」政策をとっており、そういった姿勢に対する国内の反発を「反日」でそらそうとしていること、また日本を叩くことで、海外からの中国寄りのポジションをとっていることを覆い隠そうとしているからです。つまりそういった外交戦略を取る限り、いつまでたっても、あの手、この手の「反日」が続くだろうと思われます。しかも、中国も韓国も歴史を創作することでしか、政権の正当性を示すことも、また国内問題をも解決できません。
それらにいちいち反応するのか、逆に妥協するのか、第三の道で解決をはかるのかは外交センスや能力の問題だと思います。個人的には、日本の経済を再生させ、国際的に存在感をつくっていくことが外交力をも支えるので、まずはそちらに集中したほうがいいと思っています。
さて、この間に、日韓の外交戦が繰り広げられていたのは、この春にオバマ大統領が東アジアでどの国に訪問するかをめぐってでした。もし、オバマ大統領が日本を素通りすれば、安倍内閣にとっては致命的になります。韓国も同じでオバマ大統領の訪韓がなければ、朴槿恵大統領も致命的な打撃を受けるからです。
ロイターの記事によると、4月に日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国を訪問すると発表したようです。米国としては日韓でこれ以上揉め事をつくるな、両国共におとなしくしていろというメッセージなのでしょう。岸田外相の大失敗だったとアゴラで站谷さんが書かれていましたが、日本訪問日程を2泊3日から1泊2日に減らし、韓国を訪問国に含めることになったようで、まあ日韓痛み分け、どちらにも配慮したという感じになったのかもしれません。
当初は訪韓予定がなかったために、さっそく韓国の中央日報は韓国が外交戦で勝利したと報道しています。別に勝った負けたの問題ではないと思うのですが。
米国の態度は一貫しています。米国としては中国の軍事拡張に対する抑止として、日米韓で東アジアの秩序を維持したいので、日韓両国で揉めてほしくはありません。そのメッセージは幾度も米国から日韓両国に送られてきていました。
村山元総理の訪韓は、表向きは韓国の与党である正義党の招きを受けてということですが、米国主導で日韓の「手打ち」をさせる下地をつくるために促したものだったのかもしれません。
安倍内閣も村山談話を引き継いでいることを公式表明しているのですが、安倍内閣を敵視し、各メディアぐるみでそれを喧伝している韓国では世論が納得しません。ただ韓国から良心の人とされている村山元総理が、村山談話を安倍内閣も引き継いでいることを韓国国民に再認識させれば、なんらかの「手打ち」も可能になってきそうです。両首脳が直接会談することでさまざまな誤解も解けるのではないでしょうか。
政治はよくわかりませんが、そうでなければ村山元総理訪韓はタイミングとして絶妙すぎます。
(2014年2月13日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)