スマートフォンの縛りの期間が過ぎたために、機種変更をしても良いタイミングとなったのですが、他社からの乗り換えキャンペーンのすさまじさには驚かされます。「家族3人なら最大24万円還元」とか「8万円キャッシュバック」などの手書きポスターなどが取扱店に大々的に貼られ、まるで戦国時代さながらです。仕掛けたら倍返しという意気込みも結局は横一線にならんでしまっています。
MNPでの顧客争奪に偏った、結局はゼロサムの不毛な戦争に見えてしまいます。しかし、やめられないのでしょうね。「顧客を奪う」のはコストがかかります。各社とも「顧客防衛」も必要なわけで、日経の記事によれば、「携帯大手3社が値引きに1兆円規模の巨費を投じているのは確かだ」そうです。
その原資は、結局は現在のユーザーの利用料金から捻出することになります。とうぜん日本のスマートフォン利用料金は割高になってしまうことになります。携帯なら利用料金は非常に安く、しかしスマートフォンは高いというのでは、スマートフォンの普及が海外に比べて遅れるのも道理です。
総務省が利用料金の購買力平価と為替レートで国際比較をやっていますが、いずれで見ても、デュッセルドルフ、ニューヨークに続いて東京が高く、スマートフォンの普及率の高いソウルは大きな違いがでてきています。
これは政策のミスといわざるをえません。そもそもがMNPの制度導入は利用料金を下げることが目的であったはずでした。しかし今や、MNPが不毛な競争を引き起こし、利用料金の高止まりにつながってしまっています。
今のままでは、2年ごとにキャリアを変えるユーザーが増えるだけで市場の広がりにはつながってきません。健全な日本の成長戦略を考えれば、日本では誰もがもっとも優れた通信環境を安価で利用できるようにし、利用者を広げることが、ICT市場の基盤が豊かになってきます。市場が広上げれば、そこに多くの関連産業の参入増え、ビジネスも活性化してきます。その好循環をつくることが政策の肝のはずです。
総務省はこういった不毛な競争を止めさせることができないのでしょうか。いや知恵を絞ればできるはずです。
(2014年3月3日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)