7月9日に投開票された那覇市議選で、翁長派の元自民党市議グループ新風会が惨敗した。最盛時には12議席を誇った同グループは3議席へと激減したうえ、最有力メンバーが落選したのだ。その背景には、保守系支持層の翁長知事離れがあった。
反辺野古移設派の「オール沖縄」は、全体として議席を減らしたが、共産党は7名全員が当選。中立系の公明党は7名全員が上位当選し、圧倒的な強さを示した。自民党は3議席増で、7議席を確保したが、7名が落選している。
今回の市議選は、反辺野古派陣営内で保守系が後退して共産党の比重が増し、「オール沖縄」は実質的に「オール革新」に変質しつつあることを露わにした。同時に、自民党は組織力の強固な公明党との連携なしには、「オール沖縄」に対抗できないという現実を改めて示したと言える。
「知事が埋め立て承認の「撤回」という勝負手を打たないまま、辺野古の護岸工事が進んでいる状況にいらだつ支持者が多く、陣営の士気が低下している」と「オール沖縄」のある関係者は指摘する。雰囲気が沈滞すればするほど、「我が道を行く」組織政党の共産党が相対的に存在感を増し、陣営内で軋轢が生じているというのである。
他方、共産党アレルギーの強い保守系や経済人は、知事の「共産党的な」国との対決路線が長引き、沖縄関連の予算などに悪影響が出始めていることを懸念する。翁長氏の国に対する抵抗には沖縄人として溜飲が下がる思いはあるが、知事にはそろそろ国との関係改善を図ってほしいと願っている。同床異夢の「オール沖縄」内の求心力の衰えは隠しようがない。
今後の沖縄政治の焦点は、名護市の市長選(来年1月)と知事選(来年11月)である。いずれも辺野古移設が争点になる。とかく内部対立が目立つ「オール沖縄」であるが、辺野古問題は同陣営の原点であるので、陣営内の歩調は揃えやすく、選挙戦略も立てやすい。「オール沖縄」の体制を立て直すチャンスである。
他方の自民党側では、名護市長選の準備に思わぬ誤算が生じた。同党の切り札と目された、北部医師会副会長の宮里達也氏が、家族の猛反対を理由に出馬を辞退したからである。同氏は政治的には穏健で中立に近いため、首長選挙で勝つために不可欠とされる公明党の協力も得られると見られた。だが、宮里氏の出馬辞退によって、勝利の方程式はご破算となった。
名護市民全体としては移設への反発が強く、自民系に有力な人材が見当たらない以上、「オール沖縄」の稲嶺現市長が再選される可能性が高まっている。
那覇市議選で自民党は何とか議席増を果たしたが、本土の自民党は逆風にさらされている。都議選で歴史的大敗を喫し、安倍一強体制が危うくなってきたとさえ言われる。辺野古問題で安倍政権と対峙する「オール沖縄」にとって、安倍内閣支持率の大幅低下は追い風である。
安倍官邸が絡む数々の不祥事、政府自民党による強引な議会運営、記者会見での官邸首脳の高飛車な応答ぶりや元官僚に対する個人攻撃、多くの閣僚や議員の失言など、安倍政権には負のレッテルが貼られた。森友学園、加計学園スキャンダルなどの表面化をきっかけに、自民党内、官僚、メディアなどの間に鬱積してきた安倍政権に対する反発があふれ出した感がある。それはまた、「民意を無視して辺野古を強引に進める安倍政権」という「オール沖縄」の安倍批判と重なる。
しかし、翁長知事や稲嶺名護市長らが、再度保守派を取り込み、「オール沖縄」体制を再構築する展望が開けているわけではない。主な原因は翁長氏の辺野古問題以外の政策アイディアの乏しさと、「オール沖縄」の共産党一強体制である。一方の自民党においても、少なくとも現段階では、名護市長選や知事選挙で勝利を見込める人材は見当たらないし、政策的な議論も活発ではない。決め手を欠く両陣営が重要選挙を戦う姿は、沖縄政治の漂流ぶりを物語っている。