いまこそ冷静になって考えたい『育休』を超えた『育専』社会を

男性労働者の育児休業取得率は直近でたったの2.30%。この数字を本当に上昇させることができるのであろうか。
Kanagawa Prefecture, Honshu, Japan
Kanagawa Prefecture, Honshu, Japan
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今回の件をきっかけに超党派で実効性のある議論を

12月に高々と「育休」を宣言した議員が結局は「育休」を取ることなく、あっけなく議場を去った。

非常に残念な結果となったが、筆者が昨年末に書いた記事において「唐突感は否めない」と指摘したとおり、最終的には自らの軽率な行動により、自ら蒔いた議論の芽も出ぬまま、哀しい一礼とともに消え去っていった。

このままでは、一旦盛り上がった議論が終焉してしまいかねない状況だが、しかし、ある意味ここからが冷静な議論を国会で展開すべきではないかと思う。本来は、政党間で対立すべき事柄でもないはず。その証左に、2007年の自民党政権時代に、ワーク・ライフ・バランス憲章と行動指針が政労使の合意により示されたが、その際の男性の育児休業取得率の目標値が「2017年に10%」という低レベルなものであった。

一方、民主党政権時代の2010年にその目標値が改定されたが、目標達成年度を3年後に先送りした上で、「2020年に13%」というこれまた低レベルな目標値しか示せず、その目標値がいまに踏襲されている。つまり、政策を進めるための強い意志を目標値からは感じることができないのだ。しかもその目標値もすでに黄色信号が出始めていると言っていい。

そんな与野党大差のない状況なのだから、与党の議員から育休を取得したいと唐突に言い出したことに野党が過敏に反応をして、政党間の対立にならないように、次の対象者が名乗り出る前のいまだからこそ議論を前に進めるべきであろう。それが今回の教訓ではないだろうか。

そのためには、国会議員だけの問題にせず、労働者がいかに育児休業を取得できるかという実効性のある施策をまずは導入する必要がある。男性国会議員が率先して取ることで男性労働者が取りやすくなるという考え方が有効策だとは思うが、国民の意見も割れる中で男性労働者がもっと取りやすくなることで男性国会議員も取得できる雰囲気を醸成するのも1つの方向性として取らざるを得ないのではないかと強く感じている。特にこの日本においては。

今後少子化に歯止めを打つ施策を講じ続けなければ、日本という国がどんどんシュリンクしていくだけ。どんな立場の男性であっても育児に専念できる期間を作ること、そして夫婦がともに子育てできる環境を作ること、さらに、母子家庭や父子家庭になっても安心して働き、子育てができること。まずここを前提に話を進めることが少子化を食い止めるためには何よりも不可欠なことであろう。

ただ、いまの日本では第1子出産時に約6割の女性が退職をしている現状にある。本人が納得した上での専業主婦(夫)に首を突っ込むつもりはないが、たとえ専業主婦(夫)であっても、それまで培った能力を活かせる自己実現可能な社会を作らなければ、個々の能力は宝の持ち腐れとなり、社会的な損失を増やしていくだけだ。

果たして実効性のある施策は盛り込まれているのか

男性労働者の育児休業取得率は直近でたったの2.30%。この数字を本当に上昇させることができるのであろうか。

安倍首相は2月15日の予算委員会での答弁において、

「我が党の議員がああした形で辞任に至ったことは、私も党の総裁として申し訳ない思いでございます。(男性の育休取得については)すでに流れが出ている。この大きな流れが、いささかも私は変わるものがないと信じたいと思っている」

出典:"不倫辞職"男性の育休取得に「影響ない」 日本テレビ系(NNN) 2月15日(月)15時35分配信

と発言し、男性の育休取得促進に向けて決意を述べた。

確かに、2016年度予算において、厚生労働省は「出生時両立支援助成金(仮称)」を新設し、「男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りのための取組を行い、男性労働者に一定の育児休業を取得させた事業主に助成」するという新たな助成金制度を導入する予定だ。

具体的には、

支給対象となるのは、子の出生後8週間以内に開始する14日以上(中小企業は5日以上)の育児休業。

過去3年以内に男性の育児休業取得者が出ている事業主は対象外。

支給対象となるのは、1年度につき1人まで。

【支給額】

中小企業 取組及び育休1人目:60万円 2人目以降 :15万円

大企業 取組及び育休1人目:30万円 2人目以降 :15万円

――というものだが、現時点で政府が打とうとしている大きそうな手は、これだけしか見当たらない。助成金がまったく効果がないとは思わないが、以前の育休取得者に対して助成金があったものの、数値上の効果はほとんどなかったことを考えると期待しすぎるのは良くない。

今国会においては、改正育児・介護休業法案が審議される見通しだが、男性の育児休業取得促進については、特段目玉となるようなものは盛り込まれていない状況だ。首相の決意に対して少々疑念を抱かざるを得ない。もっと実行できる施策があるはずだ。

前回2009年の育介法改正では、夫婦がともに取得した場合育児休業期間が1歳2か月まで延長される「パパ・ママ育休プラス」の創設や産後8週間以内に父親が育休を取得すれば再度父親が取得できる規定などが盛り込まれたものの、飛躍的に押し上げるには至らなかった。

雇用保険法も改正され、2014年4月からは育休取得後6か月については、育児休業給付金が直近所得平均の3分の2まで引き上げられ、社会保険料の免除分を合わせると実質8割の所得が補償されるまでになったが、この効果が実質的に反映される次回の育児休業取得率の結果にどれだけの効果があったかはまだ分かっていない。もはやどんなインセンティブよりも義務づけ近い施策を打たなければならない状況になっているのではないだろうか。

そのためには、「パパクオータ制」など男性の育児休業を割り当てる施策を導入し、大きな流れを作るべきではないだろうか。

実際13%が達成したとしても、男性の育休取得者に対する特別感は拭えない。100人中13人が育休を取得できるインパクトはどこにあるだろうか。男性の育児休業取得希望者は3割と言われる。まずは3割確実に取れる社会を作る必要があるだろう。3割取れる社会ができれば、希望する者はもっと高まっていくはずだ。3割くらい確実にヒットが打てるようにならなければ、社会的な信任を得ることはできないだろう。

育児に専念できることが騒がれない社会

厚労省の「イクメンプロジェクト」のメンバーをさせてもらってはいるが、正直自分がイクメンだと名乗ろうとしたことは一度もない。2006年に娘が生まれたときに1か月半育休を取得したが、労働者の権利である以上、会社には粛々と伝えた。育休は、一部の特権階級の代物ではないという強い思いがあったからだ。

多様な子育てがあるように、別に子どもが小さいときに父親が関わっていなくても、うまく乗り切れる家庭もあることだろう。しかし、そんな家庭を誇らしげに語られても意味がない。女性の人生、男性の人生、そして子どもの人生がより良いものになっていくためには、男性が子育てに関わることを是が非でもスタンダードにする必要があるのだ。

育児に専念できる社会を作るためには、いま声を上げられる人が声を上げ続けるしかない。正直、育児をしていくことを誇らしげに語るつもりは一切ないが、いま沈黙するわけにはいかないから、あえて強調しているだけに過ぎない。そんな思いで積極的に発言している父親も多い。父親たちがその思いを共有することがまずは必要なのだと思う。

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