政府が待機児童対策で困っているようなので、具体策を出してみた

待機児童問題について、我らが日本政府が動き始めてくれたのですが、何をしたら良いか分からないようです。

一人の女性の書いたブログが、いつの間にか国を揺さぶる様を見るにつけ、21世紀が来たな、と感じます。

さて、我らが親愛なる日本政府が動き始めてくれたのですが、いまいち何をしたら良いか分からないようです。

待機児童ゼロ、首相は決意表明したけれど 乏しい即効策:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJ3C5R5HJ3CUTFK00S.html

厚労省HPで「保活」要望や疑問を募集 - 毎日新聞 http://bit.ly/1Li0hcB

ホームページで一般国民に「どうしたら良い?」って聞かれても・・・っていう感じかと思いますが、まあでもやる気になってくれたのは嬉しいです。

そこで、大変差し出がましいですが、保育事業者兼、政府審議会委員として、また2人の父として現場から、「待機児童解消十策」と称して、具体策を提案したいと思います。

なお、現場の制度の話なので内容がマニアックで分かりづらいところがあるので、一般の方々は小見出しのみ読んで頂ければ。また長文であまりネット向きではありませんが、議員や政策担当者の方向けということで、ご容赦ください。

【待機児童解消を阻む「4つの壁」】

まず、待機児童解消を阻んでいる4つの阻害要因を振り返ってみましょう。

保育士が不足して保育園が開園できません。要因は処遇の低さ。保育士給与は20.7万/月で全産業平均から10万程度低い です。(出典: http://bit.ly/1HwTytD )よって、保育士有資格者の半数しか、保育士としての勤務を望んでいません。保育士としての勤務を望まない理由の1位が「賃金が希望と合わない」です。

一方で、それが解消された時の保育士就業希望率は63%と、復帰の可能性はかなり高いです。

保育士資格を持っていて働いていない潜在保育士は68万人と推計される一方で、保育士不足数は7.4万人程度なので、「今働いていない保育士が、保育士として働く」ことで問題は解決します。(出典:http://bit.ly/1QL9FVf

基礎自治体(世田谷区とか仙台市とか身近な自治体)が「将来少子化が来た時、保育園が余ってコストがかさんじゃうんじゃ・・・」と、将来の過剰インフラを懸念し、「今はこのくらいにしておこう」と過少投資に意思決定のバイアスがかかります。

一方で、保育園開園時の初期投資は、基礎自治体が窓口。先ほどの懸念があり、自治体が初期補助の枠数を過少にコントロールする傾向があります。(例:「今年度は3園を公募して初期補助をあげるよ」(待機児童はもっといっぱいいるけど))

そして弾力化(定員以上に一定割合入れられる施策)も、自治体の許可を都度取らなくてはいけない不透明なルールです。待機児童がいるのに弾力化を認めない事例もあります。

根本的には、都内などの都市部では公定価格(補助金)のみでは運営ができないので、自治体が上乗せ補助を行わざるをえません。すると、自治体が上乗せ補助を根拠に、過剰規制をはめてくるという構造が横たわっています。

大規模な認可保育所向けの用地や物件が、都市部では不足しています。仮にあっても周辺住民の反対運動などがあり、物件取得のハードルは高いのです。小規模認可保育所は、比較的物件を見つけやすいですが「100平米の壁」が建築基準法に存在します。100平米を超えると、住居から施設へと用途変更が必要になり、それに伴いマンション全体にスプリンクラーをつけなくてはならなくなる等、過剰な規制が存在するのです。

子ども子育て新制度において新たに作られた小規模保育等の「地域型保育」。小規模保育は初年度に1655箇所に激増するなど、大きなポテンシャルを持っていますが、地域型保育は、制度の不備で潜在能力を活かしきれていません。

【10の解決策(待機児童解消十策)】

待機児童数と保育士の有効求人倍率の2つの変数を組み合わせ、「重点地域」を設定し、「特別処遇改善加算」をつけます。「特別処遇改善加算」は、10年間は廃止しない旨を約束。「特別処遇改善加算」によって、保育士給与を月平均8〜10万円程引き上げます。

なお、経営側のみを潤す結果にならないように、保育士給与にダイレクトに繋がるよう、実際に支払った給与と紐付けることに留意します。

子ども子育て新制度において革新的だったのは「外形基準を満たしていれば、自治体が開園を断れない(設置義務を負う)」という疑似指定制でした。これによって、自治体の意思決定の遅さをカバーし、事業者が地域ニーズに応じ機動的に開園していくはずでした。

しかし、この想定は機能していません。というのも、自治体は相変わらず「初期補助付きの公募」を行っていて、それは自治体の計画と枠に従って行われるからです。もちろんそれを無視して、独自に開園することはできますが、その場合は初期投資が事業者持ちに。現在、オリンピック需要により資材費が高騰し、初期工事費などが東京都では1.6倍程度になっており、初期補助なしで開園するのは採算性を著しく損なう事態になります。

これを解決するために「自治体の枠に関係なく、通年で初期補助が得られる」仕組みを国が時限的に創ることを提案します。例えば「子ども子育て保育所創設臨時基金」を厚労省の外郭団体等に持たせ、所定の審査を経れば初期補助を得られるという仕組みが考えられます。これによって、基礎自治体の限定的な公募期間とは別トラックの開設資金調達ルートができ、開園速度を加速できます。

現在の国の公定価格は、地域ごとによって単価に差をつけているが、家賃や人件費の高い都市部においては、公定価格のみでの運営ができない構造 です。よって、23区や横浜市を代表として、基礎自治体が「上乗せ補助」を行うことで運営が担保されています。

一方で、財政負担を嫌がり、この上乗せ補助を行わない、もしくは少額にとどめる基礎自治体(世田谷区・仙台市・目黒区等)もあり、そうした自治体は顕著に待機児童解消に遅れが見られます。 また、上乗せ補助を行う基礎自治体も、「上乗せ補助をする代わりに、この規制をクリアしろ」というように、規制も上乗せしてくることで、保育園開設のハードルが基礎自治体レベルで設けられてしまうことになります。

これらをクリアするために、そもそもの「公定価格だけだと都市部だと成り立たない」という構造を改め、自治体加算と同水準の都市部加算をつけて、自治体の軛から解放することが必要です。それによって、自治体の過少投資・過剰介入問題を抑制できます。

 基礎自治体は、将来的に少子化になった際に、保育所が余ることを懸念しています。それが彼らの意思決定に、過少投資のバイアスをかける要因の一つになっています。

一方で、児童発達支援事業や放課後等デイサービスのような、障害児のデイサービスに関しては、まだまだインフラが整備されきっておらず、かつ待機児童解消後にも一定のニーズが見込めます。現在は、子ども子育て支援新制度と、障害者総合支援法は別の法体系になっているので、両者を同施設内で行うことはできませんが、空き定員に障害児デイが行えるようにすることで、将来的な「保育園余り」の事態に対し、逃げ道をつくることができます。

ちなみに現在すでに「余裕活用型一時保育事業」と言って、定員の空きがあった場合は一時保育が可能な建てつけになっているので、定員の空きを活用すること自体は現行法でも認められています。

現在、待機児童集中エリアに空きはあまりないのですが、この「余裕活用型障害児デイ」を認める法整備をしておくことで、自治体側の「少子化でいつかニーズもなくなるので、過剰投資したくない」というバイアスを是正することができます。

100平米を超えると、全国一律で、住居から施設へと用途変更が必要になり、それに伴いマンション全体にスプリンクラーをつけなくてはならなくなる等、過剰な規制が存在します。それが100平米以上の認可/小規模認可保育所等を賃貸で開設する際に、物件オーナーに大きな負担を強いる場合があるため、ハードルになっています。

また小規模保育も100平米の壁を回避しようと、100平米未満物件に限られてしまうことで、物件利用の幅を狭めてしまっています。待機児童集中エリアを「建築基準特別地域」に指定し、全国一律無差別でかけている規制を適用除外にするべきです。

土地や所有物件を保育所に貸し出そうとする場合、長く借りてくれるため安定的な反面、騒音や住民トラブル等の問題を抱えることに。また支払い可能坪単価が商業物件よりも低いことで、大家の貸し出しインセンティブが低下します。

そこで、保育所等に貸し出す場合は、固定資産税が減免される等、インセンティブをつけることで、不動産市場に出てくる「保育所利用可能物件」の総数を増やすべきです。

保育事業者が開園を計画する際には、該当基礎自治体全体の待機児童と共に、「どのエリアに待機児童がいるか」をもとに、開園計画を立てます。例えば、東京都の南部豊洲エリアで待機児童が多く発生していたとして、北部亀戸エリアに空き物件があっても、南部豊洲エリアに見つからない限りは、開園はできません。

一方で、待機児童集中エリアほど物件を見つけることは容易ではありません。ただし、幼稚園のように園バスがあれば、通園圏が大きく拡大するため、待機児童集中エリアにピンポイントで物件がなくても、多少離れたエリアで物件が見つけられるため、開園選択肢が増えることになります。

例えば高円寺駅前の物件から、車で15分の送迎が可能になると、上記のように杉並区の大半や中野区等まで商圏化できることになるため、これまで物件としては圏外であったものが、射程に入ることになります。

なぜこれまで「保育園バス」が存在しなかったかというと、送迎に対する補助がなかったためです。送迎には車両リース及び運転手、同乗スタッフが必要だが、それらをカバーするコストを捻出することは不可能でした。送迎加算(補助)を、認可保育所・小規模保育所問わず、すべての保育施設でつけられるようにしていくことで、保育可能物件の範囲が大きく拡大します。

地域住民の反対によって、保育所の建設が阻まれたり、激しいクレームによって閉園に追い込まれることが頻発しています。民間が認可・小規模認可保育所を開園しようとする際、クレーマーと事業者が直接相対することとなり、行政は原則不介入となります。保育所側としては、度重なるクレームや周辺住民とのコミュニケーションは負荷が大きく、それならば開園場所の変更/閉園した方が合理的、となります。

そこで「保育所等子ども施設保護法」を制定し、以下を決めます。

・子どもの声は騒音として取り扱わない

・子どもの声が不快だとする住民は、保育所ではなく、広域自治体にある仲裁機関に申し立てる

・仲裁機関が妥当だと判断した場合、クレーマー住民の家屋の窓を二重化する等の補助を行うことができる

ドイツでは既に「子ども施設の騒音への特権付与法」が成立しており、保育所及び子どもたちが保護されているので、これに準じた法整備を行います

子ども子育て新制度によって創設された地域型保育(小規模保育・居宅訪問型保育・事業所内保育・家庭的保育)は、開園や運営に柔軟性が高く、待機児童解消に大きく貢献しえます。特に小規模認可保育所は初年度で1655箇所(認可保育所の6%程度)と激増しています。

一方で、地域型保育は事業所内保育を例外として、「0〜2歳まで」と定められています。これは制度設計の背景に、待機児童の多くが0〜2歳までに集中していたこと、3歳以降は幼稚園などに転園することを前提にしていたことがありました。

しかし、都市部においては3歳児でも待機児童が発生していること。幼稚園が3歳児以降の受け皿になっていないこと等があり、前提が崩れています。

そこで、地域型保育でも3歳児以降を受け入れられるように制度改正を行います。例えば、3歳〜5歳までの子どもを12人預かる小規模認可保育所を作れるようにするのです。

その際に、既存の公定価格を用いると、3歳児は保育士1人で20人みる前提になり、到底財政的に成り立たないため、地域型保育における3歳児以降単価を新たに設定する必要があります。

現在、障害児とひとり親を中心に規定されている地域型保育における「居宅訪問型保育」事業を、待機児童になった場合にも利用可能にすることを提案します。既に千代田区等では柔軟運用の実例があり、自治体に対して法解釈を明確化するだけで良いので通達レベルで可能です。

また、現在は、居宅訪問型は基本的に1対1に限定されてしまっているが、例えばAという家庭に訪問保育をするが、同じマンションのBという家庭の子どもも預かれる、という複数子対応も可能にすれば、費用対効果は向上します。

海外では、こうした運用はイギリスのチャイルドマインダーやフランスの保育ママ等で行われていますが、日本においては家庭的保育事業(保育ママ)は保育者の自宅のみを想定しているため、上記のような柔軟運用はできません。

居宅訪問型用途を柔軟化し、かつ定員数も1〜3人とすることで、より待機児童解消に貢献できる仕組みになります。

以上が、私の「待機児童解消十策」です。十策の中でも、重み付けとしては、特に①保育士給与の改善が最も効果が高く、②「子ども子育て保育所創設臨時基金」創設 ③都市部の公定価格見直し ⑨ 地域型保育の預かり幅の拡大が次に効果が高い施策と考えます。

他にもたくさんの方々が、具体策の知恵を出し合い、政府の施策を少しでも前に進めていけたら、と願っています。

(2016年3月13日「駒崎弘樹公式サイト」より転載)

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